小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

無気力DAYには何もするな!

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
「やることないなぁ……」

毎週水曜日が『無気力DAY』と決まったのはよかった。
仕事にいかなくてもいいし、誰にも会うこともない。

穏やかな休日が得られるかと思った。

「あ、そうだ。歯磨き粉切れてたな」

暇つぶしがてら買い物に出かけようとドアを開けると、
けたたましいアラームが鳴った。

『無気力違反です。すぐに部屋に戻ってください。
 無気力違反です。すぐに部屋に戻ってください。
 無気力いは』

「わかったよ!! 出なきゃいいんだろ!」

慌てて家の中に戻った。
買い物にすら出かけたらダメなのか。

「ゲームでもするか」

テレビをつけてもどこにも番組はやっていないので、
ゲーム機をテレビにつなげて電源をつける。

鳴ったのはゲームの音ではなく、アラームだった。

『無気力違反です。ゲームを止めてください。
 無気力違反です。ゲー』

「わかったって!! 暇つぶしすらダメなのかよ!」

すぐに電源を消した。
家を出ることも、暇をつぶすこともできない。

「こんなに時間が長く感じたことはないなぁ……」

結局、暇すぎたので自分の人生を思い出せる限り昔から
現在にいたるまでを振り返って時間をつぶした。

翌日の仕事が待ち遠しく感じたのは言うまでもない。
毎週水曜日は憂鬱な日になった。

「……暇だな」

水曜日はいつもこの一言から始まる。
寝転がって天井を眺めていると、ガコンと郵便受けの音がした。

玄関に行くと、封筒が投函されてあった。


『危険郵便』ーーーーーーーーーー

この手紙は無作為の抽選で選ばれた人に送られています。
封筒の中にある"危険な行為"に参加すると賞金が入ります。

挑戦する意思のある人は参加に○をつけて郵送してください。
ーーーーーーーーーーーーーーーー

変わったつくりの封筒で、参加に○をつけない限り
中身を開封することはできないらしい。

でも、結局は郵送しなければ参加するかわからないわけで
見るだけなら大丈夫だろうと、参加に○を付けて中を開けた。


『指令:軽トラックの真下に潜り込んで下さい』


「は!?」

中には細かい位置や時間まで指定されている。
期限は今日まで。

今日は無気力DAYだから外に出れないから無理だ。

……いや待て。
だったら、誰がこの手紙を届けたんだ。


恐る恐る外に出てみると、アラームは鳴らない。
危険郵便に参加した人だけは大丈夫なのか。

指定された軽トラックの場所に行ってみると、
路上に止められたトラックが一台。下にはぎりぎり人が入るスペース。

「こんなことして何になるんだ……」

無気力DAYだから誰にも見られることはない。
このまま軽トラックの下に隠れて軽トラックが動けば終了、らしい。

意味は分からないが、賞金に目がくらんで軽トラの下に隠れた。


翌日、エンジンの音で目が覚めた。

「……運転手は俺のこと気付かなかったのか」

あとは軽トラが動くのを待つだけだ。
危険郵便なんて物騒な名前だったけど全然大丈夫じゃないか。

――大丈夫なのか!?

楽観的に考えていた自分にやっと気が付いた。

車がもし曲がりながらバックしたら?
車が気付かずに方向転換したら?

車の下にいる俺はタイヤの下敷きになってしまう。

「ちょっ……やっぱりやめだ!! こんなの危険すぎる!!」

車の下から出ようとしたが、
今下手に頭を上げれば部品に頭がぶつかってしまう。
タイヤの進行方向に体を出せば、それこそひかれてしまう。

焦る気持ちと裏腹に車の下から、身じろぎひとつできなくなった。

「た、たすけ……」

全部言い切らないうちに、車は静かに発進した。
まっすぐに発進したので、俺の体はかすり傷一つなかった。

翌日、俺の口座に大金が振り込まれて目を疑った。

「こ、こんなにもらえるのか! 仕事してるのがバカバカしくなる!」

あんな恐怖体験はまっぴらだが、結果良ければすべて良し。

思えば、無気力DAYも人払いするための方法で
本来の目的は「危険郵便」をさせたかったのかも。

そう思いながら、次の危険郵便を待った。

「……暇だなぁ」

水曜日になった。危険郵便は届かない。
そうなると、持て余した時間を天井を見て過ごさなければならない。

またイチから自分の人生を振り返ろうか。

「危険郵便来ねぇかな……」

ふと、窓から外を見ると人影がうっすら見えた。
まさか配達人だろうか。

人影はしだいに近づいてはっきり見えて来た。


いや、郵便配達じゃない。
手にはダイナマイトを持っている。

男は絶叫しながらダイナマイトを持って走っている。
俺の家の前の道路で振りかぶる。

「待て待て待て!! まさか投げる気か!?」

これも危険郵便としか考えられない。
なんつうことをやらせるんだ。

その瞬間。


バァン!!!

爆竹のような音とともに男の姿は見えなくなった。
投げるまでに時間をかけすぎたんだ。
ダイナマイトは男の手の中で爆発した。

「う、うそだろ……!」

軽トラの下に隠れるなんて、運が良かったんだ。
危険郵便なんて金目当てにやるもんじゃない。


次週の水曜日。

カタンッ。
静かな音とともに、玄関に1通の封筒が届いた。

「危険……郵便……」

爆死した男を思い出し、郵便をすぐにゴミ箱に捨てようとする。
そのとき、封筒が自然に開いて中の紙が散った。

「えっ……!? 俺まだ参加してないのに!?」

参加しないと中を開けることができない封筒。
それなのに自然と開くなんて。

封筒を拾うと、俺の筆跡で確かに○がついていた。

「まさか……! 前の参加するは、次回分のを含まれてたのか!?」

どうして参加したのを郵送する必要があるのか。
それは次回の参加も含まれているからだった。

参加しなければどうなるのか。

人ひとりを平気で爆死させるような組織が何を考えるかわからない。
もう俺に拒否権なんてない。

「い、いやだ……参加したくない……!」

いくら大金がもらえるといっても、危険なことだけはしたくない。
俺も普通の無気力DAYを過ごしたい。

思考とは裏腹に、体は義務感に突き動かされて紙を拾い上げた。



『指令』


『危険郵便の存在を10人以上の知り合いに伝えてください』



「……えっ」

思わず拍子抜けだった。
危険郵便にもあたりやはずれがあるのだろう。

張りつめていた緊張感がほぐされて、すっかり楽になった。

家を出ると、無気力DAYで空いている道路を車で軽快に走った。
知り合いの家を訪ねると、手紙の存在について洗いざらい話した。
これだけでよかった。

「……というわけなんだ。いやぁ、大変だったよ」

話し終わると、俺は一息ついた。

「で、今回の依頼はいくらもらえるんだ?」

「さぁ? 振り込まれるまではわからないけど、前と同じじゃない?」

「いくら?」

「*****万円かな」

「いくら残ってる?」

「お前、金の話ばっかりだな。あはははは……ははは、はは」

俺の笑いはだんだんと乾いた笑い声になった。
知り合いの目の色が変わってることに気付いたからだ。


「いくらだ。教えろよ」