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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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ご不要になったコンプレックスありませんか

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「ご不要になりました。テレビ、ビデオ、ラジカセ、アンプ……。
 そして、コンプレックスなども買い取らせていただきます」

自宅の前に通りかかった車にダッシュで向かう。

「あ、あの今なんて!?」

「いらっしゃいませ。なにかご用ですか?」

「コンプレックスを買い取ってくれるんですか!?」

「ああ、はい。買い取りますよ」

憂鬱な来年が待っていると思っていたのに、
年末にこんなハッピーサプライズがあるなんて思わなかった。

生まれてこのかた自分のコンプレックスを常に感じて、
いつも肩身の狭い思いばかりしてきた。そんな日々ともおさらばだ。

「ご利用ありがとうございます。はい、ティッシュ」

「なんでティッシュ……」

「コンプレックス無くなったら使うかと思って」

回収車はまたトロトロと道なりに進んでいった。
聞くと、この後も年末にかけて何度もやってくるらしい。

それはともかく、コンプレックスを回収されてから
すっかり俺の日常は好転した。

「お前、変わったよな。前はいっつもネガティブだったのに」

「あははは! そうかな? っていうか、そうだったの?」

「毎日彼女がほしぃ~って愚痴ってたじゃないか」

「そんなこともありましたねぇ……」

「くっ……こいつ、美人でお金持ちの
 彼女ができたからって余裕ぶりやがって」

「まあ、うちの彼女、"あなたのことはなんでも知りたい"とまで
 俺にベタぼれだからね、わっはっは」

「こいつ!! いっぺん死ね!」

今では克服したが、かつてはコンプレックスを抱えていた。
そのせいでいつもネガティブでため息ばかりだった。

今となっては、毎日明るく楽しくて、どんな明日が待っているのか
毎日布団の中で楽しみにしながら眠りにつくほど。

「君も、俺のようにコンプレックスを回収してもらったら?
 すっかり生まれ変わったような気分になるよ」

「いや、コンプレックスありきの人生だから、抱えていくよ」

「そんなんだから彼女できないんだよ、ぬっはっは!」

「お前、ちょっと5号線でひかれてこい!!」

5号線というのは近所の事故多発地域。
1ヶ月に1回くらいは事故で通行止めになっている。

ちょうど、愛する彼女の家までの道が5号線経由なので
本当にひかれるつもりはないが5号線にやってきた。

すると、やっぱり事故が起きて救急車とまっていた。

「やれやれ、ほんと人間は学習しないのかなぁ。
 ここに『事故多発地域』って看板出てるのに」

なんて言いながら横をすれ違う。
が、すぐに足を止めた。


『コンプレックス回収』


事故った軽トラのボディには見覚えのある文字。
間違いない。俺のコンプレックス回収した車だ。

「なんてことだ……それじゃ俺のコンプレックスは!?」

俺のコンプレックスがもし誰かにバレたら……。
それだけは避けなくては!

救急車にはタンカで運転手が担ぎ込まれている。

「待って!! 待ってください!!」

「ちょっと、現場には近づかないで」

警察に制止されしまい、救急車はさっそうと走り去る。
近くにあった廃棄自転車にまたがると、必死に救急車を追った。

「うおおお!! コンプレックスを知られてたまるかぁぁぁ!!」

やがて、病院に到着するころには、
もう入院したほうがいいくらいに疲れ切っていた。

「ぜひぃ、ぜひぃ……こ、ここか……」

病院の人に話を聞くと、運転手のケガは大したこともなく
病室を与えられて今はおとなしく過ごしているらしい。

病室を聞くと最後の力を振り絞って運転手のもとへやってきた。

「おお、君か。またコンプレックスを回収に?」

「違います!! 俺は……俺のコンプレックスはどこに!?
 車は事故ったんでしょう!? コンプレックスはどこにいったんですか!」

「え? いや、あの車にあなたのコンプレックスはありませんよ」

「はぁ?」

「回収したコンプレックスは一度持ち帰って、
 リサイクルショップに陳列してるんです」

「リサイクルショップ!?
 俺のコンプレックスを誰かに売っているのか!?
 いったい誰が買うんだよ!!」

「意外といるんですよ。社会的に権威のある人なんかが買って、
 下々の悩みやコンプレックスをあざ笑うんです」

「なんて悪趣味な……ってそれより!!
 そのリサイクルショップはどこですか!?」

運転手に場所を聞くと、また自転車を走らせた。
なんとしても俺のコンプレックスを回収しなくては。

リサイクルショップにつくや、俺のコンプレックスを探す。
何度探しても見つからないので、購入履歴をあさっていると……

「うそだろ!? 誰かに買われたのか!?」

客の個人情報なので、誰が買ったかまではわからない。
ただ、陳列されていた俺のコンプレックスが誰かの手に渡った。
あんなにデリケートでプライベートなコンプレックスを。


もし、誰かにしゃべられたら……。


「うおおお!! なんとしても探さなくちゃ!!」

運転手は"社会的に権威のある人"と言っていた。
それらしい人が俺のコンプレックスを買っていった可能性がある!

俺は地元で偉い人をなかば強引に訪ねては、
あのリサイクルショップを利用しているかどうか聞き込みに言った。

「知らんよ、そんな場所」
「君は誰だね。まったく失礼だ」
「ノーコメント」

結局、誰も答えてくれなかった。


よく考えてみれば当たり前の話で、

"はい、私はあの店を出入りして人のコンプレックスを買っては
 人の悩みをサカナにいっぱい楽しんでます"

と、答えるような人はいない。
まして、権威のある人ほど言葉のガードは固い。

もう完全に手詰まりだ。

俺は取り戻せなくなったコンプレックスを思い、
ここ最近やってなかったため息をついて河川敷で夕日を眺めていた。

「はぁ……」




「つばさ君? そんなところでどうしたの?」

ふと、声に振り返ると彼女がいた。

彼女は俺のポージングとシチュエーションから、
落ち込んでいることを察したのか、
どう声をかければいいのか言葉を選んでいるように見える。


――ああ、なんていい子なんだ。


過去の克服したコンプレックスに振り回されて、
今の自分がどう見られるか気にしていたけど、間違っていた。

俺には今、こんなに素敵な彼女がいるじゃないか。
どうして気付かなかったんだろう。それだけでいいじゃないか。

彼女はそっと優しく、俺の心に気遣いながら言葉をつづけた。


「つばさ君、ちんちんが小さい事なんて気にしなくていいと思うよ。
 私は別にそんなことどうでもいいと思ってるから」


「俺のコンプレックス買ったのお前かよ!!」