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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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マニュアル人間を助けて!

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朝、外の騒々しさに目を覚ましてから
日課である朝のニュースを見ようとテレビの電源を押す。

「あれ? つかないぞ?」

テレビはうんともすんとも言わない。

「壊れたのか。マニュアルどこ置いたっけな」

分厚いマニュアルを取り出して広げた。

「えーーと、テレビが付かないときは……」


①電源が入っているのかチェックしましょう


「……まあ入ってるな」


②コンセントが挿されているかチェック


「じゃなきゃ異常に気付けないな」


③電気代は支払われているかチェック


「いい加減にしろ――!!」

思わずマニュアルをぶん投げた。

「なんだこれ!? さっきから俺を誰だと思ってる!
 国会議員で高学歴の俺が、こんな初歩的なミスするか!!
 電気代払ってないのにテレビつけるわけないだろーー!!」

はぁはぁとはずんだ息を整える。
まったく、このマニュアルは誰向けなんだ。

テレビを初めて見た原始人に説明するわけじゃないのに、まったく。

「どうせ序盤はこんなくだらない事ばかりだろうから、
 後半まで飛ばしてみよう」

マニュアルのページを大きくまたいで、後半の方を開く。
きっと後ろにいけば、もっと実践的な方法が書いてあるはず。


【取り扱いの注意事項】
・水をかけないでください。壊れても責任負えません。
・落とさないでください。壊れても責任負えません。
・電子レンジに入れないでください。壊れても責任負えません。


「今度は注意事項!?」

後半は後半で、取り扱いの注意をありとあらゆる方法で書かれている。

「もういい加減にしてくれ!!
 いったいどうやったらテレビを治せるんだ!
 こちとら、製作側の逃げ道を探してるわけじゃないんだぞ!!」

マニュアルを引き裂こうとしたその時、
裏表紙に小さく電話番号が記載されていることに気が付いた。


カスタマーサポート
0120-444-1234


「これだ!! ここに電話すれば一発だ!」

マニュアルなんて分厚いだけの本を読む必要なかった。
最初から人に聞けば、余計な回り道をしないで済んだ。

さっそく電話をかけると、ガチャリとサポートセンターにつながった。

「もしもし、議員の山田だがね。
 そちらで買ったテレビがつかなくて困っているんだ」

『カスタマーサポートセンターです。
 ご用件の種類によって該当の番号をプッシュしてください』

「自動音声か……」

『電源がついているのか確認する人は①を。
 コンセントが挿さっているのか確認したい人は②を。
 電気代が支払われているのか確認したい人は③を。
 テレビを箱から出したい人は④を……』

「もういい加減にしてくれぇーー!!」

大声をあげて受話器をたたきつけた。

「もうマニュアルはうんざりだ!! なにがマニュアルだ!
 相手をバカにするのもたいがいにしろ!
 こちとら、何も知らない赤ちゃんじゃないんだぞ!!!」

議員の立場を使って圧力ありありの苦情でも出してやろうか。
そうでもしないとこの散々にたらい回しされた怒りは収まらない。

「どうしてやろうか、まったく」

腹立ちまぎれに冷蔵庫を開けると、氷が思いっきり解けていた。
コンセントはちゃんとささっている。

「あ! まさか……」


――ブレーカーが落ちていた。


「やれやれ、人騒がせな。
 こういうこともマニュアルに書いてもらわんと困るな……。
 ブレーカーが落ちてないか確認してください、と。まったく。
 本当にマニュアルにはこりごりだ」

ブレーカーを戻すと、テレビの電源が付いた。
やっとニュースを見ることができる。

テレビには見覚えのある場所が映っていた。


『こちら横領が発覚した山田議員の自宅前に来ています。
 山田議員は何か答えるのでしょうか!?』


私はそっとドアを開けると、
取材のカメラとマイクがドアの隙間から顔を出した。

「議員! ひとことお願いします!」
「横領の事実はあったんですか!?」
「この先の進退は考えてるんですか!」

「き、記憶にございません」

私は議員マニュアルに書かれている通りにしっかり答えた。