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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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ハッピーエンド恐怖症がはやってます!

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「あなたの息子さん、ハッピーエンド恐怖症ですよ」

「なんですって!?」

病院に息子を連れてきてよかった。
やっぱり素人では気付けない部分があるから。

「ハッピーエンド恐怖症は遺伝するし、
 風邪のようにウイルス感染もする恐ろしい病気なんです」

「……ぐ、具体的な症状は?」

「常にハッピーエンドであることに恐怖してしまいます」

「ですか……」

やはり息子は病気だった。
テレビでやっている、子供向け番組で悪い奴をやっつけると、

「ママ、このあと報復されたんだよね? 復讐されたんだよね!?」

とか言ってくるし。
完全に病気だと思った。

「それでどうすればいいんですか?」

「専門の医療機関に預けましょう」

息子はあれよあれよというまに病院へと担ぎ込まれた。
運ばれている最中でも

「このまま治るとみせかけて、実は治ってないんだよね?」
「実はその病院が政府の陰謀で改造人間にされるんだ!」
「この病気がさらに進化して治せなくなるんだよね!」

などなど。

ことさらに「自分の病気が治る」というハッピーエンドを
だいなしにするような言葉を叫んでいた。怖い。


数日後、病院を訪れるとげっそりとした医者が出迎えた。

「なんていうか……大丈夫ですか?」

「もう1ヶ月以上も家に帰っていません……。
 ろくな食事もとってなければ、いつ寝たのかも覚えてない……」

廃人という表現がこれほど似合う土気色の顔はない。
と、言いたくなるほどのこの世の絶望をミキサーして
3倍濃縮したような顔をしていた。

それも職員全員。

「あなたの息子さん、これは治せません……」

「え!?」

「薬もカウンセリングも試したんですがダメでした……。
 いまだにハッピーエンドを避けています……」

「そんな!?」

息子の様子を見ると、この状況をひたすら楽しんでいた。

「ぼくが治るハッピーエンドなんてない!
 あるのは失敗っていうバッドエンドだけだ!」


「できることはすべてやりつくしました……。
 どうかお引き取りください。これ以上はもう……」

「それじゃ本当にバッドエンドじゃないですか!」

「いえ、根気強く粘れば……きっとハッピーエンドが待っています……」

そう告げる医者の顔は「早く帰れよ」と言いたげだった。


「もういいです! 息子は私が治療してみせます!
 そして、ハッピーエンドを諦めたあなたたちの鼻を明かしてみせます!」

相変わらずハッピーエンド恐怖症の息子を連れ帰る。
ここからは母と子の根比べ。

私はハッピーエンドの映画や小説やマンガにゲーム。
ありとあらゆるハッピーエンドを息子に与えた。


「でも、この後みんな死ぬんだよ」

「でも、これが原因で全部めちゃくちゃになるんだ」

「でも、僕はぜったい治らないんだ」


息子はどんなハッピーエンドも受け入れずに、
必ず悪い結末をつけるように避け続けた。
それでも私は「めでたしめでたし」とハッピーエンドを与え続けた。



3ヵ月後。

息子を病院に連れて行くと、医者たちは腰を抜かした。

「な……ななななな……なんてことだ!!」

「その後、おじいさんとおばあさんは平和に暮らしました。
 めでたしめでたし」

「ハッピーエンドを受け入れている!! 完治しているぞ!!」

私の献身的で粘り強い治療のかいあって、
息子はすっかりハッピーエンドを受け入れて病気を克服した。

「先生、みなさん、ありがとうございます。
 僕は前までどうしてバッドエンドばかり望んでいたのかわかりません」

「おお……! 完全に治っている。
 これこそが母の愛なんじゃ……!」

医者たちは私に拍手を送った。
病院はあたたかな空気に包まれた。






「……でも、この後、別の病気になるんでしょう?」

この暖かな空気を私の言葉が切り裂いた。


「この後、息子が実は別の病気になっていたとか」
「ううん、実はこの後で、交通事故にあって台無しになるとか」
「いや、治療と称して変な薬をうたれていたとかするんでしょ?」


「あの、保護者さん……」

「なに?」


「あなた、伝染(うつ)ってますよ……ハッピーエンド恐怖症」