パソコン越しの除霊
「幽霊 スポット トンネル」と検索すると
ほぼ一番上に表示されるほどの有名な心霊スポット。
そこに俺はノートパソコンを持ってやってきた。
「本当に大丈夫なんですか……?」
『安心してくれ。私はこれでも一流の霊媒師だよ』
パソコンは霊媒師から預かったもので、
今も画面越しのテレビ電話がつながっている。
『実際の現場に行くのは怖……忙しいから行けないが
最近ではこうして画面越しでの除霊も行っているんだよ』
「怖いって言いかけませんでした?」
『私を疑うのかね!? これでも遠隔除霊した数は
ゆうに二ケタを超えるんだぞ!』
「そ、そうですよね」
『さぁ、トンネルに入りなさい』
恐る恐るトンネルに入る。
外気とはまた違った、まとわりつくような寒気が包んでいく。
『きてますきてます……』
「ハンドパワーじゃないんだから……。
先生、本当に幽霊が画面越しでも見えるんですか?」
『もちろんです。今、あなたの頭の上にいますよ』
「うおおおおおい!?」
思わずのけぞって、パソコンを落としてしまった。
パソコンを拾おうとかけよったときに、女の声が聞こえた。
"タチサレ……タチサレェェェェ"
「ひぃぃぃぃ!!」
やっぱり来るんじゃなかった!!
周り右して帰ろうとしたが、どういうわけかトンネルの灯りが全部消える。
どっちから来たのか、どこが壁なのかもわからない!
『山田君、こっちだ!!』
パソコンから声が聞こえる。
暗がりでぼんやりと青白く光るパソコンだけが見える。
背中にはずしりと重みを感じて振り返ることすら恐ろしい。
「せ、先生!!」
『何妙法蓮華経……ぱぁっ!!』
画面の向こうの霊媒師は数珠をじゃらんと鳴らして、
片手を画面に向かってまっすぐ突き出した。
その瞬間に、背中に感じていた重みがすっと軽くなる。
「先生! やりまし……あぁ!?」
霊感ゼロの俺にもはっきりと見えた。
幽霊がぐんぐんパソコンの中に入っていくのを。
「先生! 逃げてください!!
幽霊が……幽霊が先生の方へ向かっています!!」
『やま……ザザッ……くん……ザザザッ……れい……ザザッ』
さっきまでなんともなかったテレビ電話が
いっきに通信が悪くなり、霊媒師の顔に砂嵐のノイズが入る。
声もよく聞き取れなくなり、自慢の除霊もろくに伝わらない。
「先生!! 早く逃げて!!」
『き……えない…………な……て……』
ダメだ! こっちの声もノイズで聞こえてない!!
「せんせぇーー!!」
ブチッ……。
ついにテレビ電話どころかパソコンの電源が消えた。
画面は真っ暗になり、トンネルは静寂と暗がりに包まれた。
「そ、そんな……除霊が失敗……うそだ……」
やっぱり無理やりでも、高い金を払ってでも
霊媒師を現場に連れてくるべきだった。
いくらインターネットが普及しようが、
横着しちゃいけない部分は必ずあるんだ。
ウイィィーーン。
ふいにパソコンの電源が復旧し、画面が明るくなる。
「先生! 無事だったんですか!?」
『当然だろう。怒った幽霊がこちらへやってくることなど、
霊媒師として当然考えることだ』
「それで、幽霊はどこへ?」
『まんまとパソコンに閉じ込めたよ。
君に渡したパソコンはね、除霊専用になっているんだ。
除霊の言葉を記したテキストファイルや、
除霊のための画像ファイルに、音声データが盛りだくさん』
「それじゃ最初からここに閉じ込めるために……!?」
『ふふ、そうだよ。
あとはパソコンの中で勝手に除霊されるのを待つだけさ。
これまでにも同じ除霊法を何度も行ったから安心してくれ』
「ありがとうございます!」
『それじゃ、あとは任せたよ』
それ以来、トンネルで怪奇現象に悩まされることはなかった。
しだいにいわくつきの噂も廃れて、ただのトンネルとなった。
「はぁ、危ない危ない。
幽霊を閉じ込めたパソコンの処理に困ってたんだよなぁ。
初期化したら、除霊ファイルが消えちゃうし
壊すと幽霊が出てきそうだし……押し付けられてよかったぁ」
霊媒師は安心して連絡先を変更した。
今、除霊パソコンは依頼者の手元で処理に困っているはずだ。