生まれ変われ!脱皮系人間!
安定を求めて地球防衛軍の国家試験をパスして就職。
でも、この仕事がこんなにも退屈だとは思わなかった。
「仕事がなさすぎて、脱皮しちまうぜ」
「先輩、こんなところで脱皮しないでください」
後輩は止めたが俺は脱皮して古い皮を脱ぎ捨てた。
「ほら、見て。脱皮直後だから肌つるつるだぜ」
「あーーはいはい。落ちた皮もちゃんと捨ててくださいね」
「おばけだぞーー。ほれほれ」
俺は脱皮した皮を持ち上げて後輩に近づける。
「先輩、もうふざけないでください。
仮にも地球防衛軍なんですから」
「あのな、普通に考えて地球に脅威なんてこないって。
それは地震とかの災害か、人間同士の争いだよ」
こんなやり取りをいつも続けている地球防衛軍。
この緊張感のなさを知ったら、地球外生命体もさぞ驚くだろう。
脱皮した皮は職場に捨てられないので、
しょうがなく自分の家に持ち帰ることに。
ゴミ袋に詰めていると、ふと思いついた。
「……そういえば、今まですぐに脱皮していたけど
もっと溜めて脱皮したらどうなるんだ」
脱皮はお腹が減るのと同じように、体の体内時計でタイミングがわかる。
でも、脱皮を溜めて溜めて……脱皮すればどうなるか。
「もしかして、つるつるの肌が永久になるかも!?」
完全に女子のような考えにたどり着いた。
「先輩、脱皮してないんですか?」
「ああ」
「肌、粉ふいてますよ」
「ほっとけ」
「地球防衛軍、たまに社会見学されるんですから」
わざと脱皮しないことで皮の劣化は進んでいく。
それでも来るべき解放の瞬間に備えて、俺は脱皮を控える。
3ヶ月ほどたって、もう内側から爆発するような脱皮衝動にかられる。
「よ、よし! 脱皮するぞ……!」
べり。
背中に亀裂が入って、脱皮すると生まれ変わったような解放感が待っていた。
「気持ちいぃ~~! サウナから出た瞬間みた……あれ!?」
声が高くなっている。
それに胸が重い。
「うそ!? 私、女になってる!?」
溜めて溜めて、溜めて脱皮した先には女になっていた。
脱いだ皮は分厚い着ぐるみのようだ。
「ふふふ、いいこと思いついちゃった♪」
私は女の体と男の体を楽しむ方法を思いついた。
翌日、地球防衛軍に出勤しても、誰も私を疑う人はいない。
それもそのはずで、男の皮を着ているからだ。
定時で仕事が終わると、どこかで皮を脱いで、女の姿で街に出る。
クリスマス間近で寂しさに飢えた男どもがちやほやする。
「男の体じゃこうはいかなかったなぁ」
二重生活の楽しみを心から満喫していた。
数日後、地球防衛軍にやってくると後輩にしてきされた。
「あれ? 先輩、顔に亀裂入ってますよ。
そろそろ脱皮したらどうですか?」
「え?」
鏡を見てみると、男の皮に亀裂が入って破れていた。
補修することはできるが顔なのでどうしても目立ってしまう。
「まずい……この皮もそろそろ限界なのかな」
とはいえ、この皮を捨ててしまえば、今の仕事も失う。
毎日女の体で好き勝手できるのも、男状態の日々あってこそ。
「……あ、そうだ! もっかい溜めて脱皮しよう!」
男→女 になったのであれば、一度女→男 に戻ればいい。
脱皮を我慢するのは少しつらいが、必死に耐えた。
3ヵ月後。
べりり。
背中に亀裂が入って、私はさなぎから生まれるように外に出た。
「よし、これで男に……ってあれ!? 声が高い!?」
慌てて鏡に向かうと、まだ女だった。
脱皮でスタイルや顔つきは大きく変わったのに、性別は変わってない。
「そんな! 前に性別変わったのは偶然だったの!?」
いままでの男の皮は内側がツギハギだらけでもう限界。
いつ、職場で皮がぜんぶばらけるかは時間の問題。
「い、いや、諦めるわけにはいかない。もう一度やらなくちゃ!!」
今から国家試験を受け直しても、覚えた知識はもう残ってない。
この脱皮にすべてがかかっている。
3ヶ月、6ヶ月……1年。
職場には「ものすごい敵が出てきたので倒しに行きます」と
長期休暇申請を出して、脱皮を貯める日々が続いた。
そして、ついに脱皮の日が訪れた。
「誰にも会わずにもう1年……。
これだけ脱皮しなければ、きっと性別も変わるはず」
びりっ。
内側から飛び出すように、脱皮がはじまった。
「あーあーあー。おお! 完全に男の声だ! 大成功だ!」
脱皮しながらも声で性別をチェックする。今度は男だ。
上半身が皮から出ると、外気に触れた体はみるみる大きくなり……。
『こちら、巨人が現れた現場に来ています!!
現在も地球防衛軍が懸命に戦っています!!』
「先輩が言っていた"敵"ってこいつだったのか!!」
後輩は光線銃で戦っていた。
「脱皮しすぎると巨大化するなんて……聞いてないよぉ!!」
顔も体もすっかり生まれ変わった俺は、
記念すべき地球防衛軍の最初の敵として永遠に記録に残された。
作品名:生まれ変われ!脱皮系人間! 作家名:かなりえずき