ギャンブルダイエットで勝負!
それでは、これから皆様にチップをお渡しします。
このチップでどんどんギャンブルをして、痩せてくださいね!」
男からチップを受け取ると、
なんだかお金を使っていないからか得した気分になる。
「ギャンブルダイエット、本当にうまくいくのかなぁ」
「上手くいきます! 痩せれば彼女もできて万々歳ですよ!」
スタッフは思い出したように付け加える。
「なお、ここでチップを増やさない限り
このカジノから出ることはできません。
食事はたっぷりあるので心行くまで楽しんでください」
参加者は散り散りになって、それぞれギャンブルを始めた。
ポーカー、ルーレットなどあるが、わかりやすくスロットへ向かう。
「よし、ダイエット開始だ!」
スロットのレバーを回した。
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気が付けば惨敗。
残りのチップは10枚。
「あははは、俺って才能ないなぁ」
チップがなくなったらどうなるんだろう。
カジノダイエットスタッフに尋ねると、笑顔で答えた。
「はい、あなたのチップは山田さんの全財産になってます。
あなたが負けると、全然関係ない山田さんが破産します」
「は!?」
「お子さんが大学行くために毎日積み立てて、
毎日夜遅くまで残業して、早くに亡くなった妻のために働く。
そんな山田さんを後戻りできない借金地獄に叩き込みます」
「待てよ! なんでそんなこと!?」
「これはカジノダイエット。
リスクを意識させるのが大事なんです。
自分が不幸になるだけだったら、本気にならないでしょう」
「そんな……」
「あなたのお金も今誰かが使っています。
そのことを意識して、さぁ、残りのチップで勝負してください」
俺の顔から余裕が一気になくなった。
10歳くらいは老けたと思う。
あぶら汗が流れて奥歯がカチカチと音を鳴らせる。
けれど、ここから出ることはできない。
俺の残り10枚のチップで、1つの家族をつぶしてしまう。
「負けられない……!」
俺はポーカー台へと向かった。
勝って、負けて、負けて、勝って、勝って、負けて。
何度も何度も勝ち負けを往復して、じわじわとチップを貯めた。
最後にチップを元手の2倍になるとやっとスタッフが解放してくれた。
「カジノダイエット、お疲れさまでした。
チップを目標まで増やしたのでこれで終了です」
「でもダイエット失敗してるじゃないか」
カジノで誰かの不幸を賭けるストレス。
自分の人生を誰かにゆだねられているストレス。
ストレスの板挟みが過食へと走らせて、
俺の体重はカジノダイエット開始よりも太っていた。
「いえいえ、ダイエットは大成功ですよ」
「もういい。金を見るだけでもう吐き気がする……」
「またのご利用、お待ちしています」
「するか!!!」
カジノダイエットで痩せるどころか、
単にトラウマを植え付けられただけだった。
「まったく、とんだガセだったな……」
帰り道にコンビニに入って弁当をレジへ運ぶ。
店員が手際よく会計を済ませると、
「お会計480円です」
「あ、はいはい。400……うっ!!」
財布からお金を出したとたん、一気に気持ち悪くなった。
お金を見るとあのギャンブルの恐怖が体をかけめぐる。
もはや食欲なんて消し飛ばされた。
「ま、まさか……カジノダイエットはここからなんじゃ……」
数日後、俺の体重は病的なほど激減した。
今では病院で出される食事で命をつなぎとめている。
金を見なければいいのだから……金さえ見なければ……。
作品名:ギャンブルダイエットで勝負! 作家名:かなりえずき