西ノ丸殺人事件
「では戦をはじめられるおつもりか。ばかなことをっ、吉川民部はじめ、まだ旗色の明らかでない武将があまたおるというに。そもそも上杉との戦で疲弊した徳川軍を叩くというのが我らの策ではござらぬか。お屋形さま、なにゆえお止めくだされなんだ」
「面目ござらん。例の落首の一件でどうも気後れしてな。それに備前宰相(宇喜多秀家)どのがすでに陣触れを発せられたとの由、さすがのわしも事ここに至ってはどうすることもできぬと思い定めたのだ」
「……つらい戦になりますぞ」
「覚悟のうえよ」
勝猛は長い嘆息のあと、窓の外の闇に目を向けた。
「我らが挙兵を知れば、内府どのは狂喜なさるでしょうな。それにしても謀略のためなら家臣をも手に掛けるとは、まさに氷のような心を持ったおかたじゃ……」
※ この物語は創作であり史実に取材したものではありません。