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かなりえずき
かなりえずき
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とあるルポライターのブログから

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「もう12時か、今日も収穫無し……はぁ」

ジャーナリスト目指してはや10年。
売れないからとネタ探しに「ドール電車」の噂を聞いて
かれこれもう24時間近く駅のホームで寒風にあたっている。

「……帰ろう」

電車に乗ると、座席に座ってひと息ついた。
人形だけが集まった電車があると聞いたがとんだガセだった。
食いつく自分もどうかと思う。まさに末期。





うとうとして目を覚ましたら、すでに窓の風景はトンネル。

「まずい、こんな場所見たことないぞ。
 絶対寝過ごしたなぁ」

次の駅で降りようと待っていたが、電車は止まらない。
さすがに心配になったので乗客に聞いてみることに。

「あの、今って何駅へ向かっているんですか?」

「………」

「あの?」

「…………」

何度か声をかけても反応がない。ほかの人も同じだった。
すると、車両の奥の方で声が聞こえた。

「あっははは!! ドール電車や! ついに見つけたんや!!」

男は乗っている乗客を殴ったり触ったりしているが、
誰ひとりとして反応していない。

まさか、本当にドール電車なのか。
俺が探し求めていた電車がついに。

慌てて写真を撮って、記事になりそうな情報を回収する。

電車が「回送」になっていること。
乗客はドールになっていること。
男と、俺がドール電車に紛れ込んでいること。

書いても書いても筆が止まらない。
これは面白い記事になりそうだ。


プシュー―。


がくんと電車が揺れたあと、ドアが開いた。

マスクをつけた人が電車に入ってきて、
載せられていたドールたちをどんどん運んでいく。

「おい、お前さん。これがドール電車なんやろ?」

俺と一緒に紛れていた男は、マスクの人に声をかけた。

「おい、ケースBだ」
「了解。ゲートDを開錠」

「無視すんなや。ドール電車なんやろ?
 お前らなにしてんの? ドールでなにすんねん?」

マスクの人たちは質問を続ける男に迷いなく銃を撃った。
頭を一発撃たれた男は静かに倒れた。間違いなく即死。

「う、うそだろ……!?」

俺は慌てて身を固めてまばたきを禁止した。
マスクの人たちは気付かずに俺をドールとして電車から運んでいった。

「このドール少し重くないか?」
「特注なんだろ」

マスクの声に俺は冷汗が流れそうになった。

運ばれた場所はビルや住宅街がならぶ街だった。
人はいるが、みんな同じポーズで固まっている。

俺も歩道の上に立たされると、ポーズを固定された。
歩いている途中のポーズみたいだ。

「これでいいだろ」「次へ行こう」

マスクが去っていくと、ポーズを解いた。

「こんな町があったなんて……」

ドール電車はただの移動手段。
本当はドールシティへ運んでいたんだ。

歩道には歩くドールが置かれ、
店には買い物の瞬間を切り取ったようなドール。

ごく自然で、どこまでも不自然な町だった。

「すごい……! これは記事になりそうだ……!」

「……ねぇ」

「もう少し町を見てみよう。
 いったいどこまでこだわって作っているんだろうか」

「ねぇってば」

声に気付いて、あたりを見回した。
でもみんなドールなので、誰が話しているのかわからない。

「おい、お前」

やっと目の前の男に気が付いた。
女は車を運転しているドールでハンドルを握ったままの姿勢。
口は動いていない。

「あなた、人間でしょ。どうしてここに来たの」

「どうしてって……迷い込んだんだ」

「ここはドールシティ。ドールになりたい人だけが来るのよ。
 人間が紛れ込んでるのがばれたら殺されるわ」

「あ、ああ……」

男が躊躇なく殺されたのを見てしまった。
ドール以外のものは容赦なく処分されてしまう。

「まだ従業員は来てないわ。早く人間世界に戻って」

「戻るって……電車に乗ればいいのか?」

「ダメ。電車は行きしかないし、従業員の出入りも多い」

「じゃあどうすれば……」

「従業員用の出入り口があるはず。そこから現実に戻って」

従業員、と呼ばれたマスクの人たちは確かに人間だった。
どこかで現実とを出入りする場所があるに違いない。

「それはいいけど……君は戻らないのか?
 マスクの人たちに、体をドールにさせられたとか?」

「ううん、私は望んでこの体になったの」

「望んで……?」

「老いることもなく、太ることもなく
 周りに邪魔されない穏やかで静かな生活。
 それが私が望んだ人生なの」

「……俺からすれば、拷問のようにも思えるけど」

「ふふ、あなたとは価値観がちがうもの。
 私は充実しているわ。このいつでも終われる静かな生活が」

「それじゃあ……俺は戻るよ」

「気を付けて。従業員には見つからないでね」

俺は静かに歩き出した。
去り際に女は言った。

「ありがとう。久しぶりにおしゃべりできて楽しかった」

手を振った気がするが、ドールなので不可能だろう。
しばらく歩くと従業員が出入りしている鉄のドアがあった。

「あれか……」

従業員が出入りするたびに
だるまさんがころんだのように体を固めてドールを装う。

従業員たちもドールシティだと思い込んでいるのか
俺のことを疑ったりするそぶりはなかった。

(誰もいないな……)

従業員たちがいなくなったのを確認すると、
静かにドアを開けた。

が、ドアに立っていたのはマスクをつけた従業員。

最悪のタイミングで鉢合わせしてしまった。

「あっ……!」

「おお、今日入る新人か。ほら、マスクをつけろ。
 マスクをつけないとドールに紛れてしまうからな」

従業員と勘違いされた。

「さぁ、初日だが、今日は積み荷を手伝ってもらおう」

従業員に案内されてドアの向こう側に進んでいく。
銀行の金庫のような分厚い扉の前に立つ。

「3、2、1……開錠」

合図とともに自動でドアが開くと、現実世界につながっていた。
ただし、みな動きを止めている。
全部ドールみたいだ。

「新人、人間を回収するぞ」

「は、はい!」

従業員と一緒に指定された住所に向かい、
ドールを回収しては回送電車の中に運び入れていく。

ドール電車は現実世界からのドールの集荷だったんだ。

「よし、今日のドール希望者はこれですべてだ。お疲れさま。
 人間をドールに変える作業はこっちでやっておくから
 新人は今日はあがっていいよ」

「あ、ありがとうございます」

一刻も早くばれないように去ろうとしたとき、
従業員は俺の肩に手を置いた。

「おい」

「はひぃ!?」


「マスク、外すの忘れてる。現実に戻ったときに変人扱いされるぞ」


「あ、ああ……はい」

マスクを外すと、従業員は腕時計を見ている。

「3、2、1……閉錠」


ガコンッ。

何かが動き出す音とともに、人間たちが動き始めた。
みんなみんなドールじゃなかった。

「さっきまでは時間を止めていたんだ、それじゃお疲れさま」

従業員は去っていった。
このあと、運んだ時間停止人間たちを
食事も排せつも不要なドールへと変える作業をするんだろう。


回送電車が発車する。


この不思議な出来事を記事にもしようと思った。