デリバリーコントロールされる人たち
ものの数分でデリバリーが届くと、
箱にはファミリーコンピュータに近い
コントローラーが入っていた。
「これが人間デリバリーコントローラー。
いったいどの人間をあやつれるんだろう」
試しにボタンを押してみると、
デリバリーにやってきたお姉さんがその場でジャンプ。
「あんたかぃ!!」
デリバリーにやってきた人をそのまま操れるとは思わなかった。
かくして、俺はデリバリーに来た女を操作して一緒に銀行へと向かう。
なんで銀行かというと、
失踪した父親から肩代わりした借金がある。
デリバリーコントローラーを頼んだのも、
すべては銀行強盗の身代わりを探すためだった。
計画通り、女を窓口に向かわせる。
「ワタシは銀行強盗です。抵抗すればここを爆破します。
全員手をあげて床に伏せてください」
コントローラーにある小さな穴。マイクらしい。
俺がしゃべる言葉をデリバリーの人がそのまま話す。
銀行強盗は驚くほどスムーズに進む。
コントローラーで操られているぶん、
変に顔に焦りの色が出ないのが逆に効果的になっているんだ。
「よしよしこの調子だ」
『よしよしこの調子だ』
「そこはしゃべんなくていいよ!」
『そこはしゃべんなくていいよ!』
うっかりコントローラーにひとり言を拾われたりしたが、
あっという間に大金をせしめることに成功した。
あとは立ち去るだけだ。
コントローラーのBボタンと十字ボタンを押して
デリバリー女をダッシュさせる。
「……あれ?」
女は金のつまったバッグを持ったままきょとんとしている。
おかしい。ついさっきまで意のままに操っていたのに。
「私……ここで何してるんだろ」
女に取り付けた盗聴器から、素に戻った女の声が聞こえる。
「まさか、バッテリー切れ!?」
慌ててコントローラーをひっくり返すと、後ろに注意書きが書いてあった。
"電池が切れた段階でデリバリー終了となります"
「こ、このタイミングで!? くそ!!」
電池カバーをはずすと、中から「単7電池」が転がってきた。
単7なんて初めて見たぞ!?
近くにコンビニはあるけど、行ったところで電池はない!
モタモタしているうちに、
女は何事もなく窓口にお金を返却しはじめている。
「そ、そうだ!! もう一度デリバリーをしよう!
あの女じゃなくても操作できればなんでもいい!!」
デリバリーコントローラーへと連絡を入れた。
あっという間に配送車がやってくる。
一刻を争う事態なので、車を勝手にこじ開けて中からコントローラーを手にする。
「よし! 行け! 強盗の再開だ!!」
コントローラーを操作すると、
配送車からデリバリー担当のおじさんが銀行へと向かった。
「お……親父……!?」
その後ろ姿を見て、コントローラーを持つ手が止まった。
昔見た大きな背中。
借金を残して消えた親父。
見間違うはずもない。あれは親父だった。
「どうしてこんな……こんな仕事を……」
誰かに操られる仕事。
そんな仕事なら間違いなく高給だろう。
俺は親父の優しさに気付いてしまった。
「そうか……親父、母さんと離婚した後も、
借金を返そうと必死だったんだ……こんな仕事をしてまで……」
もうコントローラーは動かせない。
自由になった親父はきょろきょろとあたりを見回していた。
「……親父」
「健二! 健二じゃないか!」
「親父、デリバリー代だ。受け取ってくれ」
借金返済にあてている金を親父に渡した。
「健二……ありがとう、わかってくれたのか」
「これでも親父の息子だからさ。借金のたしにしてよ」
親父はお金を手にすると、
嬉しそうに銀行にいたデリバリー女のもとへ向かった。
「理恵ちゃ~~ん! お給料入ったよぉ~~!
今度はどの国へ旅行しよっか~~!」
「ちょっと操られるだけでお金がもらえるなんて、
デリバリーコントローラーって最高~~」
俺は親父のコントローラーを手にすると、
はしゃぐバカップルを池に叩き落とした。
作品名:デリバリーコントロールされる人たち 作家名:かなりえずき