小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

黒川

INDEX|1ページ/1ページ|

 
夜空に花火は上がる。これは当然のことだが、飛ぶことができない私はそっちではなく、黒い川に向かって花火を見ていた。河川敷では人が群れ、上を見上げる。その下を進む虫たちは色をなくした。すべての色彩はあの花に向けられ、黒い空に浮かぶ。そう、すべてだ。

 それでは色彩を失ったやつらは一体どうなっているのか。それを確かめようとする変人が存在したとしても、ほかの景色を見たいと欲してしまっては最後、色彩は忽ち元に戻る。
 
 色彩を失った者たちを見ることができるのは私だけ。

 両目に映る色は花火の色だけ。単純な世界に広がるのはすべての色彩。艶やかなトマトの色、爽やかな風の色、すべてがそこにあった。
 そんなすべてだ、つかみたくなるのは人間の性で、私もそうだった。上を見上げる世界の中でひたすら川に向かって走っていった。大きな石が足にかかる。色はない。脱げた靴は同時に色を花火に渡し、素足の私だけが色を持っていた。無色の草の上を走るのは初めてだが、どうも色を吸い取られていくように思えて足が速くなる。


透明でもない、色彩なしの世界。


川がすぐそこにある。私は飛び込んだ。
泳ぐ。
泳ぐ。
泳ぐ。
どうかあそこまで、花火の元まで。歪んだ世界にだんだん霞んでいく。他に誰も、何もいない世界があそこにある。


体が重くなってきたくらいで気が付いた。あそこに花火は上がっていない。一体どこへ向かっていたのか。黒い水があった。色彩は失われていなかった。
作品名:黒川 作家名:晴(ハル)