黒川
それでは色彩を失ったやつらは一体どうなっているのか。それを確かめようとする変人が存在したとしても、ほかの景色を見たいと欲してしまっては最後、色彩は忽ち元に戻る。
色彩を失った者たちを見ることができるのは私だけ。
両目に映る色は花火の色だけ。単純な世界に広がるのはすべての色彩。艶やかなトマトの色、爽やかな風の色、すべてがそこにあった。
そんなすべてだ、つかみたくなるのは人間の性で、私もそうだった。上を見上げる世界の中でひたすら川に向かって走っていった。大きな石が足にかかる。色はない。脱げた靴は同時に色を花火に渡し、素足の私だけが色を持っていた。無色の草の上を走るのは初めてだが、どうも色を吸い取られていくように思えて足が速くなる。
透明でもない、色彩なしの世界。
川がすぐそこにある。私は飛び込んだ。
泳ぐ。
泳ぐ。
泳ぐ。
どうかあそこまで、花火の元まで。歪んだ世界にだんだん霞んでいく。他に誰も、何もいない世界があそこにある。
体が重くなってきたくらいで気が付いた。あそこに花火は上がっていない。一体どこへ向かっていたのか。黒い水があった。色彩は失われていなかった。