週刊誌ゾンビ
俺のつかんだネタが週刊誌に掲載された。
女優は政府批判をよくする落ち目の女優だった。
週刊誌には俺が数年かけて積み上げた証拠と、
言い逃れできない関係者からの供述がしっかり載せている。
「ふふふ、明日が楽しみだ」
今や、誰がゾンビで誰が人間なのかは区別できない。
だからこそ、ジャーナリストである俺たちが探さねばならないのだ。
翌日、俺の取り上げた記事はニュースへとのぼった。
けれど思い描いていた内容ではなかった。
『……と、このように記事に対して事務所は否定しており
取材した記者を訴える方向で動いています』
「え!? そんな!?」
ゾンビであることを突き止めたのに、逆に訴えられてしまう。
取材した関係者に連絡してみても、掌を返したように言葉を濁す。
『ああ……こないだのことは忘れてくれ。
なんていうか……ぼくも被害者になりたくないんだ』
「なにいってる! ここでゾンビを野放しにしたら
いつどこで新しいゾンビが生まれるかわからないんだぞ!」
『こっちには家庭もあるんだよ!』
完全に孤立無縁になってしまった。
こうなればさらなる証拠をつかむしかない。
言い逃れできないほど証拠を乱打して、認めさせてやる。
すぐさま証拠を探して取材をはじめた。
「な、なにも知らないよ……」
「あんたには何も話せないよ」
「言えない! なにも知らない!」
「くっ……先手を打たれたか……」
調べを進めていると、明らかに何か知っている風なのに
誰かに口止めされているような反応ばかりだ。
その中で、気になる情報がきけた。
「そんなに気になるんなら……に、人間図鑑でも探せばいい」
「人間図鑑?」
「人間ひとりひとりを詳しく書いた図鑑さ。
都市伝説レベルだけど、あんたら記者にはいいネタだろ」
話題をそらされるように出されたネタだが、いいかもしれない。
「そうか……! 人間図鑑がもしあれば、俺の記事の照明になるかも!」
人間図鑑があるというスクープ。
自分の記事が正しいというスクープ。
ダブルパンチが成功するかもしれない。
取材を始めると、ゾンビ女優のことには口をつぐむ人も
人間図鑑になるとガードがゆるくなっていく。
しだいに人間図鑑の保管先をつきとめていった。
「……それじゃ、人間図鑑は国会議事堂にあると?」
「わしも見たことはないが、そうらしい。
そこに保管されて次の首相候補の参考にも使われているとか」
「たしかに。首相がゾンビだったらたまったもんじゃないですしね」
その夜、議事堂への潜入を決意した。
子供のころはよく立ち入り禁止の場所に足を踏み入れたので
この手の潜入は泥棒よりもこなれている。
いくつもの部屋を回っていると、
電話帳以上に分厚い本がどんと置かれていた。
「まさかこれが……」
黒いハードカバーの表紙には『人間図鑑』と書いてある。
おそるおそる開くと、個人にまつわることが細かく書いてあった。
「間違いない! 人間図鑑だ! 本当にあったんだ!」
ページをめくって、あの女優のページを開く。
女優の名前の横には「100%」と書かれていた。
「やっぱり! やっぱりゾンビだったんだ!
俺の記事は間違いなかった!」
人間図鑑からこのページだけを切り抜いて持ち出す。
部屋を立ち去る前に、自分のことも気になった。
「……ちょっとだけ見てみようかな」
自分のページを開くと、幼少からのさまざまなことが書いてある。
国勢調査はこういうために行っていたのか。
そして、俺の名前にも100%と書かれていた。
「はぁ!? なんで!? 俺はゾンビじゃないぞ!?」
なんならベジタリアンだ。
ゾンビじゃないし、かまれた経験もない。
まさか、何か誤解されているんじゃないか。
「これは大変だ! 人間図鑑への誤表記があるなんて大スクープだ!
すぐに裏を取らなくちゃ!!」
翌日、政府関係者を呼んで記者会見を行った。
「みなさん、これを見てください!
人間図鑑にはウソの記述があります!
100%とありますが、私はゾンビではありません!」
ゾンビでない証拠をいくつも提示する。
それには政府関係者も納得した。
「なるほど、確かに君は人間だな」
「そうでしょう! 人間図鑑の訂正をお願いします!」
「いや、人間図鑑は間違っていない」
「え?」
「その確率はゾンビである確率ではない。
政府にとって都合の悪い人間である確率なんだよ。
ちょうど君だけを呼びつけたかった。手間が省けたよ」
翌日の週刊誌には、俺の記事が誤りだったと表記された。
もう誰も真実を知ることはない。