オトコの中の男を決める勝負!
男にとってのサウナとはすなわち戦いの場。
先に入っている先客より先に出ること叶わず。
お互いの男気をぶつけ合う戦いの場なのだ。
『ああーーっと!
フランス代表ジャンピエール選手、ついにサウナから脱落!
これで決勝戦へは日本代表が進みます!!』
俺は余裕たっぷりにサウナを出ると、静かに水風呂に浸かった。
「お、お前……どうして我慢できるんだ」
「自分を律することが日本の武士道なのだ」
「クレイジー……」
ピエールはくらくらと気分が悪くなり水風呂に水没。
風呂を出ると、3日後に控えた決勝戦に頭が切り替わる。
「次のロシア代表を倒せば、世界のサウナキングか。
絶対に負けられない戦いというわけだ」
その日から、決勝戦に向けた体作りが始まった。
高温サウナでのトレーニング、何事にも動じない精神力。
そして、トイレ行きたくならないように
トイレトレーニングも欠かさない。
3日後。
ついに決勝戦が始まった。
「ロシア、サムイ。サウナツカウ。
ニホン、マケナイ」
「風呂大国を舐めてもらっては困るな」
決勝戦の入り口が今開かれる!
会場の熱気以上にアツアツなサウナへと足を踏み入れる。
やや距離を取りつつも、お互いに最下段へと腰を落ち着ける。
(さすが決勝戦。安易に最上段へは座らないか……)
サウナにある階段状の腰掛け。
見下ろせる優越感からか一番上を選びがちだが罠なのだ。
熱い空気は上にいくほか、出口までの距離も遠い。
最もアツいヒートスポットなのだ。
開始からいくらたってもロシア代表は動かない。
目を閉じてじっとしている。銅像のようだ。
(このまま我慢くらべしてても、らちがあかない。
動揺させて心を先に折ってやる)
俺はおもむろに立ち上がると、入口へと歩き出す。
入り口で足を止めると体を曲げ伸ばししてまた席に戻る。
(どうだ! これが"勝ったと思っちゃったよ作戦!"
何度も勝てるのかと思わせることで精神的な負担を与える!)
サウナで我慢するコツは思考しないこと。
考えたりしてしまうと、エネルギーを使うし
「なにやってんだろ」とふいに冷静になることがある。
こうして入口への往復を不規則に繰り返せば、
止めていた思考を引きずり出すことが……
「な、なにぃ!?」
ロシア代表は動かない。
開始からまったく動いていない。
(俺の精神攻撃がきかないとは……ならこれだ!)
トントントントン……。
指でサウナの腰掛けをたたく。
(これならどうだ! 静かなサウナでの指先トントン!
音が出れば心頭滅却していようが無駄なこと!
さぁ、イライラして神経をすり減らせ!)
俺の音攻撃はさらに苛烈さを増す。
「あ゛ぁ゛~~」
ときおり、だみ声で聞こえよがしな声を出す。
(ふふふ……さぁ貯まれたまれ怒りのボルテージ!
そして、ムダにエネルギーを消費させるのだ!)
しかし、ロシア代表は動かない。
目をつむって腕組した姿勢からぴくりとも。
「こ、こいつ……!」
これが極寒で鍛えられた精神力なのか。
もはや小手先の技など通用する相手ではない。
「いいだろう……! 真っ向勝負というわけか! やってやる!」
・
・
・
もうどれだけ時間が過ぎただろう。
ぼーっとした頭ではもうなにも考えられない。
ぐにゃぐにゃと視界が歪んでいる。
長時間同じサウナで過ごしたロシア代表には、
ライバルというよりも戦友に近い絆を感じていた。
そう、俺たちはすでに勝利の先にある
もっと尊いもののを手に入れていたのだ。
「なぁ、ロシア代表」
「………」
「お前はもう仲間にしか見えない。
国をかけた勝負なんてどうでもいい。
一緒にサウナを同時に出ないか?」
「………」
「全世界に発信しよう。我慢比べよりも
もっと大事な友情というものが争いの壁を越えて
サウナで絆が温められるということを!」
「………」
「俺の言ってること、わかるか? ロシア代表?」
ロシア代表の肩にぽんと手を置いた。
「し! 死んでる……!!」
ロシア代表は弁慶のように同じ姿勢のまま死んでいた。
寝ていたんじゃなかった。
慌ててサウナを出ようと歩くと、急速に目の前が真っ暗になった。
「あれ? あれれれ……おかしい……ぞ……」
そして、二人の魂があの世へと飛び立った。
「閻魔さま! 閻魔さま!!」
地獄の使いが焦った顔でやってきた。
「なんじゃいな。こっちは忙しいんだ。
さっき処理したロシアと日本の男なら
滞りなく地獄へ送ってやったぞ」
「ええ、その2人ですが……」
「ふん、地獄行きが嫌だと文句を言っているのか?
それとも早々に逃げようとしたのか?
地獄初心者にはよくあることだ」
「いえ、そうではなく。地獄の窯の温度を上げてほしいと。
これじゃ我慢比べができないと言っています……」
「あいつらここでもやってんのかよ!!!」
決勝戦の延長戦は地獄からの生中継でお届けされた。
作品名:オトコの中の男を決める勝負! 作家名:かなりえずき