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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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香り郵便の配達はいかが?

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「では、香りの配達にいってきます」

会社を出ると配達依頼先の家へやってくる。
貧乏な苦学生の家につくと、苦学生は待ってましたと飯を準備。

「いらっしゃい! 香りの宅配を頼むよ!」

「わかりました。では、"焼肉の香り"を配達します」

特殊な薬品をまぜて香りを生成すると、
いましがた焼きあがったばかりのような肉の香りがつつむ。

「うおおお! これだ! 焼肉!
 お金がなくてもこれだけで飯が食えるぞぉお!!」

苦学生が満足すると、男は次の配達場所へと向かう。
次の配達場所は閑静な住宅街の寝室。

「おじゃましまーす……」

男は依頼通りこっそり入って、静かに調合をはじめる。
寝室にはリラックス効果の高いアロマの香りが広がる。

いびきをかいていた依頼者も静かになり安らかな顔に。

配達を終えた男はまた次の場所へ。
今度は彼氏ができたばかりの女の家。

「ああ、待ってたわ! 早く香りを!」

「はい、ご依頼の"女の子の部屋の香り"ですね」

男が調合すると部屋をやや甘めな香りが部屋に広がる。

「ありがとう! これから彼氏が家に来る予定なの!
 これならきっと可愛いって思われるわ!」

「また利用してください」

男は配達を終えて香り郵便本社へと戻った。
本社ではえびす顔の社長が扇子を仰ぎながら大笑い。

「いやぁ、お疲れお疲れお疲れーしょん。
 香りビジネスが大成功でわしは笑いが止まらんよ」

「社長、最近は依頼が増えてきてますね」

「いいことじゃないか! 香りを求める人がいて
 それをわしらが運ぶ。経済の活性化に一役買っているのだよ」

「ではなくて、予約が増えすぎて回らなくなっています。
 少し休業して人手を増やしてみては?」

「そ、そんなことしたら、会社がつぶれるだろ!」

社長はまっすぐに突っぱねたが、その日はわりと早く訪れた。
香り郵便の依頼があまりに多すぎてとても回りきれない。
しだいに香り郵便へのクレームは増えていく。

>ちょっと!ぜんぜん来ないんだけど!
>時間指定してたのに香りが届かない!

社長は青ざめて、額から脂汗が流れた。

「き、君! 早くなんとかしてくれ!」

「僕は配達だけで精いっぱいですよ。
 それにどんどん香り郵便の依頼数も減っています」

「な、なに!? なぜだ!?」

男はテレビをつけると最近話題の脱臭郵便のCMがやっていた。

『どんな匂いもたちどころに回収します! 脱臭郵便!
 もう香りでごまかさない。香り郵便とはおさらば!』

「なんじゃこりゃあああああ!?」

「香り郵便が、"香りを消すため"と思われてるみたいです。
 本当は香りを届けるためなんですけど……」

そこに、かっぷくのいい男が入って来た。

「邪魔するぜぃ、香り郵便さんよ」

「お、お前は!」

「大学以来だな。いつも俺に劣っていたお前が
 香りビジネスなんてやるもんだからたたきつぶしに来たんだよ。
 あ、これ名刺。利用するときがあれば言ってくれ」

「脱臭……郵便?」

「おうよ、香りでごまかさない脱臭郵便を以後よろしく」

ライバルである脱臭郵便は社長の大学時代のライバルだった。
社長は顔を真っ赤にして歯噛みした。

「くそ! あいつめ! わしをつぶしに来たんだ!!
 負けるわけにいかない!!」

「それよりも、どうすればお客様に最高の香りを届けられるかを……」

「そんなことはどうでもいい!!
 さっさと配れ! 根性だ!!」

根性論がまかり通るはずもなく、香り郵便はしだいに脱臭郵便に浸食された。
いまでは依頼件数も数えるほどしかない。

なにせ、脱臭郵便には特殊な調合など必要ない。

専用のバカでかい掃除機を持ってきて香りを吸収して終わり。
誰にでもできるしすぐ終わる。
あとは特殊な香り閉じ込め袋に香りを詰めて終了。

立ち食いそばよりも回転率がいい。

『不快なにおいをたちどころにシャットアウト!
 香りでごまかさない脱臭郵便をよろしく!!』

CMでは社長が白い歯を見せていた。




しばらくすると、脱臭郵便のCMは放送されなくなった。
脱臭依頼する人も増えなくなった。

「どういうことだ? あいつめ、何かやらかしたのか」

「社長。脱臭しすぎが問題みたいです」

脱臭したことでかえって体臭が気になるようになったり、
香り袋が捨てられることで悪臭問題になったりと
いまや脱臭郵便は諸悪の根源として扱われていた。

脱臭社長が泣きついてくるのも早かった。

「ちくしょぉぉ! 依頼通り香りを抜いたのに、なんでだぁぁ!」

「わしだって知るか! こっちの依頼も増えなくて困ってるんじゃ!」

「「 誰かなんとかしてくれぇぇ!! 」」

どちらの社長も追い詰められて泣くしかなかった。

「僕にまかせてください」

郵便屋の男はアイデアを話した。

 ・
 ・
 ・

次の依頼は、ゴミ屋敷からの脱臭依頼だった。

「どもッス。郵便ッス」

脱臭人は専用の掃除機で一気に悪臭を吸い込んで回収する。
その後、本社から渡された香りの袋を開封する。

「おお、脱臭したあとに香りをつけてくれるのか。
 これなら体臭も気にならなくなる」

「うす。また"脱臭香り郵便"をよろしくッス」

若い配達員は次の現場へと向かった。


香り郵便と脱臭郵便が手を取り合ってからというもの、
会社はV字回復へと転じた。

脱臭郵便のもつ、人手と香り袋の技術。
香り郵便のもつ、調合技術。

やがて世界は幸せな香りに包まれた。


「どうしてもっと早くに協力しなかったんだ」
「ホントだよ!!」

両社長は今じゃすっかり親友になっていた。