アフター６時はケダモノの夜
１８時～４時までは本能と夜となります」
なんだかよくわからないニュースが報道されていた。
世界のどこでどんな一大事が起きてようとも
俺にはもっと悩むべき問題がある。
「モテねぇなぁ……」
「それいつも言ってるよな」
「いったい何が足りないんだろうなぁ。
ワイルドさかなぁ。それともクールさかなぁ」
「どっちもだろ」
友人にぴしゃりと言われた。
ファミレスでダラダラとしゃべっていると１８時になった。
客たちは立ち上がり急に声たかだかに暴言を発し始める。
「さっきからてめぇうるせぇんだよ！！」
「前からむかついてたんだよな！！」
俺自身も自分の感情のリミッターが外れたのか、
ファミレスからダッシュで退店して、目につく女性を口説きまくる。
「あ゛？ ふざけんじゃないわよ！！」
「ぶっ殺されたいの！ この腐れ＊＊＊！！」
女性も血気盛んに、大和撫子が失神しそうな罵倒を返してくる。
そんなケダモノのような時間が過ぎて翌日になると
酒が抜けたようにすっと冷静になった。
「昨日のはなんだったんだ……」
引っかかったのはニュースだった。
最近見てなかったテレビをつける。
『昨日、はじめておこなわれた『人間解放システム』により
カップルが増えて、出生率は4倍まで向上しました。
みなさん、アフター６時からは本能のままに行動しましょう』
「ぜ、ぜんぜんわからない……」
調べてみると、１８時以降になるとどんな人間も
抑えていた本能を爆発させるとか。
昨日も暴力事件で逮捕されていた人がいるらしい。
「いったいなんでこんなものを……」
理由はよくわからないがこれはむしろ好都合。
酒の勢いではないが本能の勢いで自分を変えるチャンス。
恥ずかしがったり、遠慮したりといった
「理性」のタガが外れる１５時を狙えばあるいは。
１８時。
誰もが本能のままに行動し始めるのを確認し町へ繰り出す。
「うおおお！！ 彼女になってください！！」
「ムリムリムリ！！ 絶対無理！ 死ね！！」
「あんたみたいなヘドロ顔なんて１００％ない！！」
「その＊＊＊蹴り上げたくなかったらさっさと消えろ！！」
本能が解放されているのは女性も同じ。
相手を気遣って言葉を選んだりすることはなく
思いついた口ぎたいない言葉をオブラートゼロでたたきつけてくる。
そして、腹が立ってしまった。
「んだと、このっ……！！」
本能のままに拳を振り上げた瞬間。
待ってましたとばかりに警察がやってきて、力任せに押さえつけられた。
「暴力未遂男を現行犯逮捕！！」
「やった！！ ノルマ達成だ！ ばーかばーか！！」
警察も本能のままに行動しているので本音が出まくっている。
警察に連れて行かれた独房では医者がまっていた。
「ああ、またか……」
医者は禿げ上がった頭をなでながらため息をついた。
「なんだよここは！！ 俺はまだ暴力振るってねぇぞ！！」
俺も本能のままにほえる吠える。
「はぁ……警察が重大犯罪を未然に防ぐために、
本能を解放して小犯罪で一斉に摘発するなんてバカげてる……」
そんな狙いがあったのか。
いや、それよりも。
「おい！ 俺を解放しろ！！」
「それはできない。君は治療をしてもらわないと」
「治療！？ 改造人間にする気か！ ショッカーと戦わせる気か！！」
「ちがう。君の本能を抑えるだけだよ。
疲れてるからツッコまないでくれ。耳に響く」
医者は慣れた手つきで注射針を俺にうった。
「これでよし。逮捕者が多すぎて本能逮捕しても収容できない。
本能は抑えて引き続き行動してくれたまえ」
「ああ、そんな……」
ただでさえ恋に奥手だった俺が本能の勢いを奪われてしまえば、
もうこの先一生恋をすることなんてできない。完全終了。
妙にクールになった頭で、本能うずまく町へと戻っていった。
「あれ？ 間違って、"本能-理性の逆転薬"を注射しちゃったかも」
医者は本能のままに間違った処方を行っていた。
翌日から１８時～４時にかけての本能タイムに、
なぜか俺だけ「理性」が働くようになった。
「おっと、もうこんな時間だよ。タクシーを呼んだ方がいい」
「みんなが本能のケダモノになっているのに、
クールな対応ができるなんてステキ！」
一方で、５時～１７時の理性タイムには
俺だけ「本能」が働くようになった。
「うおおおお！！ いいから黙って付き合えやぁぁぁぁ！！！」
「みんなが理性で真面目になっているのに、
強引でワイルドなところがステキ！」
俺はモテまくった。
なんだこれ。
作品名：アフター６時はケダモノの夜 作家名：かなりえずき