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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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刑務所バンドのコンサート

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「お前たち――! 脱獄したくないかーー!!」

昔のクイズ番組のような掛け声に乗ってくる囚人は誰もいなかった。

「囚人番号1番。お前なにいってるんだ」

「いや、今脱獄する方法を思いついたんだよ」

「同じこと言うやつが1年に1人はいるな」

「協力してくれれば逃げられるって!」

1番の言うことを真に受ける囚人はいない。
なにせ番号は囚人の注目度そのものを表している。

1番ともなれば守衛も看守も一目置く存在。
要注意人物がおいそれと脱獄できるとは思えない。

「いいか、よく聞けよ……」

けれど1番が話したことには囚人は全員納得した。

「「「 よし、やろう!! 」」」

独房に奇妙なチームワークが生まれた瞬間だった。

一方、看守はというと平和そのものだった。

「今日の見回りは?」

「いつもと同じっすよ。平和なもんです」

静かにコーヒーを傾ける看守2人だったが、
独房の方がなにやらうるさくなっていた。

「ちょっと行ってくる」

看守の一人が見に行ってみると、囚人たちは壁をたたいたり
床をたたいたり、鉄策をぎーぎー言わせたりして音楽を奏でていた。

「なんだなんだこの騒ぎは!?」

「ああ、看守さん」

1番が指揮をやめると演奏が止まる。

「独房で過ごすのも暇なんです。
 せっかくなのでみんなで音楽を作ろうと思いまして」

「楽器もないのに?」

「アカペラでもいいですが、どうせなら刑務所ならでは。
 つまり、こう床とかを楽器に見立てるのが面白いかなと」

「時間帯考えろ」
「もちろんです」

看守が部屋に戻ると、もう一人の看守が訪ねた。

「なんの騒ぎだったんです?」

「囚人どもが音楽を作るとかぬかしていた。
 何か企んでいるに違いない。警戒しておけ」

「はい」

看守たちは一層注意深く見るようになった。
特に演奏をしているバンドメンバーの4人を警戒した。

しばらくすると、この刑務所バンドの噂はどこからか広まり
今ではアイドル級の人気になるほどだった。

「今や囚人フィーバーですよ。どうなってるんですか」

「まったく、どいつもこいつも見慣れないもの尊びやがる」

ひっきりなしに面会を求めてくるファンの対応にうんざり。
このままではいつ刑務所に不法侵入されるかわからない。

「まさか、これが狙いかもな……」

「どういうことです?」

「奴ら、ここまで考えていたに違いない。
 人気になりさえすればテレビの露出が増えるだろう。
 そうなれば外に出る機会も出るはずだ」

「ああ、なるほど」

「刑務所の外にさえ出れば警備は手薄になる。
 まして、ファンという味方もいれば脱獄の人手は十分だ」

「どうしますか?」

「乗ってやろうじゃないか。奴らの作戦に。
 そのうえでとっちめて、お灸をすえてやる」

刑務所バンドのコンサートが決まったのはそれから数日後だった。
都内でも有名な会場を貸し切って囚人を招待するのは、
歴史上はじめての催しだった。

「いいか、入口や出口の警備は徹底的にな。
 ファンが手助けするかもしれないから手荷物検査も中止しろ」

看守たちは奴らの脱獄計画を阻止すべく、
これまで類を見ないほどの人手と時間を割いて警備を徹底した。

ここまでくるともはや国賓級の扱いだ。
それでも看守たちは目を光らせる。

「看守長、ファンの手荷物検査問題ありません」
「看守長、会場に爆発物や危険物はありません」
「看守長、看守の中に裏切者はいません」

「よしよし、警備は完璧だな。
 奴らめ、さぁここからどうやって脱獄する気だ」

バンドメンバーの囚人4人による演奏が始まった。

会場が暗くなり歓声で音が聞き取りにくくなる。
脱走にはまたとないチャンス。
看守たちも気合を入れて監視を続けた。

「みんなーーありがとーーー!!」

床や鉄柵を叩いたりする刑務所バンドのコンサートは終わった。
コンサート終わりには床も壁も柵もぼろぼろになっていた。

「看守長、奴らは誰一人逃げていません。
 どうやら本当に音楽を奏でたかっただけなんですかね」

「それか俺たちの警備によって脱獄計画も不発だったんだろ」

看守たちは刑務所に帰る間もいっそう注意深く囚人を見張った。
ついに、誰ひとり逃がすことなく刑務所に到着した。

「何を企んでいたか知らんが
 俺たち看守を出し抜こうなんて100年早い。
 俺たちの目の届くところで悪さなんてできないとわかったか」

「はい、それはもう……」

看守は満足して囚人を独房に連れて行った。
独房につくと、ほかにとらえていた囚人たちがもぬけの殻だった。

マヌケな看守はそこでやっと気が付いた。

「お前!! まさか最初から自分以外を逃がすために囮をしてたのか!!」

「お前が言ったんだろう? 目の届くところで悪さはできないって」

鉄柵は破られ、床は彫られ、壁は破壊されている。
奴ら音楽とは名ばかりで最初から脱獄の準備をしていたのか。

囚人にこんな自己犠牲の精神があったなんて。

「おい!! 看守全員を呼べ!! 逃げた囚人を追う!!」

「「「 はっ!! 」」」


看守たちが全員いなくなると、
隠れていた囚人たちがぞろぞろ出てきた。

「よし、それじゃ全員で逃げるか」

誰ひとり看守がいないのを確認して、看守とは逆方向に逃げていった。