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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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死んで→レンタルDVD

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「あなた昨日死んでたわよ」

「えっ」

「無呼吸症候群っていうの? 寝ている間息してなかった。
 まあ、そのまま死んでいてもいいけど」

たしかに、今朝みた夢はなんだか死後の世界だったような。
もうまるで覚えちゃいないけど。

最近忘れっぽい俺は、妻から注意されたことすらも
その日の夜にはすっかり忘れて眠りに落ちた。

目を覚ますと、死後の世界にやってきた。

どうしてそれがわかるかというと……。

「ま、松田優作だ! 勝新太郎に……夏目 雅子!?」

「おや、あなたも死んだんですか」

「あ、やっぱり俺も死んだんですね。
 でも死後の世界でこんなに往年の名優に会えるなんて
 いやぁ死んだかいがあったもんです」

「あれ? どうやらあなたはまだ死んでない?
 おかしいですね、死んでいるのに死んでいない」

「え? 俺が? どっちなんですか?」

「どうやら仮死状態みたいです。
 半分死んでいるからこっちに来れているんですね」

「俺ってそんなに器用な人間だったんですか!」

とにかくこの機を逃すわけにいは行かない。
慌てて名優たちにサインをねだりに行った。

「サインね、いいですよ。死んでしまうとファンとの交流も薄れ
 いまや忘れ去られるだけですから……辛いもんです」

「なに言ってるんですか! あなたは日本に財産を残した名優です!」

「そう言ってくださる人が、現世にどれだけ残っているのか……」

そこで目が覚めた。
手にはサイン色紙が握られていた。

「ゆ、夢じゃなかった……!」

色紙には寅さんの「渥美 清」のサインが書いてあった。
見ているとあまりに惜しい人を亡くしたと涙が流れる。

「はぁ……なんとか今の若い人にも
 あの死んだ名優たちの素晴らしさを伝えたいなぁ」

色紙に視線を落としていると閃いた。
死後の世界にはなんでもそろっていることに。


その夜、眠って仮死状態になるとまた死後の世界へやってきた。

「黒澤明監督ですね! お願いがあります!」

「……なんだ」

「実は、ここで映画を撮ってもらいたいんです!!
 死後の世界には名優も、名監督も、名脚本家もたくさんいます!
 そして、それを現実世界に伝えるんです!」

「同じことを死んだ1年目に考えたよ。
 だがな、現世に伝える方法なんてない。死んでいるんだから」

「俺はまだ死んでいません! まかせてください!」

事情を話すと黒澤監督は俺の誘いに乗って撮影をはじめた。
完成した映画は、死後世界の評論家に見せても納得の出来。

「それじゃ、頼んだぞ」
「はい! 必ずやこの名作を伝えます!」

目を覚ますと、俺は職場のレンタルDVDショップへと向かった。
陳列されているDVDの中に、死後で撮影したDVDを紛れ込ませた。

「大々的に公表することはできない……でも。
 こうして誰かの目に留まればきっと故人も浮かばれる」

大々的に広まれば関係者が過去との矛盾に気付かれるかもしれない。
これくらいが一番いいんだ。




数日もすると、その反響はまたたく間に広がった。

「隠れた名作を発見しました!」
「これが最高傑作だ!」
「どうしてもっと早く見つけられなかったんだ!」

反響は俺の勤めるレンタルショップにとどまらず
ネットもテレビもこの名作、というより遺作をこぞって評価した。

死後世界でもそれを伝えると、ますますやる気を出した。

「そうか! そんなに喜んでくれているのか!」
「ふふっ、ますます創作意欲がわいてくる!」

「俺もバンバン公開します! 頑張りましょう!」

レンタルショップには死後世界の新作がどんどん並んだ。
人気がありすぎてひっきりなしにレンタルされる。
この店の看板商品になっていた。

有名になればなるほど、違和感は現世に広がっていった。

「この映画、いったい誰が撮ったんだ?」
「こんなの撮った覚えがないぞ」
「配給会社も入ってないし……どうなってんだ?」

違和感はネットを通じて一気に広がる。
ひいては、現世の映画関係者が苦言をもらしはじめた。

「最近話題の隠れた名作?でしたっけ。
 あれには困ってるんです。
 人気がありすぎて、誰も新作を見てくれないんです」

「こっちはいい迷惑ですよ。
 映画産業がなりたたなくなってしまう」

CGとワイヤーアクションをふんだんに使った新作映画も、
往年の名優たちの夢の共演の前にはかすんでしまう。

現世での新作映画の本数はみるみる減っていってしまった。

死後の世界の人たちもこれにはさすがに顔色が変わった。

「我々は調子に乗りすぎてしまったのかもな……」
「もう映画を公開するのはよそう」

「待ってください! あなたたちの作るものは名作です!
 間違いなく名作なんですよ!? なのにどうして!?」

死後映画はどれも傑作ばかりだ。
それが作られなくなるのが惜しい。

「映画を作って現世の人が楽しんでくれるのは嬉しい。
 でも、それ以上に、現世の人の創作機会を奪うのは悲しいんだよ」

「そんな……」

「我々は死んだ身。世代交代を阻む老害にはなりたくない……」

死後の世界には公開の日の目を浴びられなかった
傑作映画たちが残されていた。

これを公開できないことが何より悔しい。

落ち込んでいる俺のもとに、死んだ建築士がやってきた。

「なぁ、現実に影響が出さずに公開するんだろ?」

「そんなのどうやって……」

 ・
 ・
 ・

ソレができてからというもの、死後映画館は大盛況だった。
行き方の方法を知った人は現世で仮死薬を買うほど。

「大盛況だな、死後映画館」

「それも提案してくださったあなたのおかげです!
 こうして、死後映画を公開できて嬉しいです!」

目を覚ませば感動だけが残り、映画の内容はすっかり忘れている。

死後映画館なら、現実世界の映画産業を圧迫しない。
故人たちはさらに名作映画を作っては公開した。

「それで、客はどんな人が多いんだ?」

「映画関係者が多いですよ、どうしてでしょうね」


現実に戻った映画関係者は、
いましがた見た死後映画をリメイクして新作を出していた。

映画館は今日も大盛況。
現世も死後も……。