舌先三寸の地球防衛軍
「はい、火星いきの方はこちらでーーす」
「土星ご予約のパンヌラフッダ星人様いませんかーー」
「第二宇宙ターミナルはあちらです」
宇宙ターミナルでは大小さまざまな宇宙人が、
さまざまな惑星へと侵略旅行をしている。
そして、俺は地球防衛軍。
ただし映画とかでよく見るダサいレーザー銃も
ぴっちぴちの宇宙スーツも着てはいない。
「ケロケロ。地球行きの超時空船はどれケロ」
「あの、もしかして地球へ行くんですか?」
「そうケロ。あの惑星は緑と水の惑星と聞いたケロ。
われらケロロン星人にうってつけな侵略先ケロ」
「M674惑星ってご存知ない?」
「知らんケロ」
「M674惑星では地球なんか目じゃないほど
たくさんの水に囲まれている自然そのものの星なんですよ!」
「そうだったのかケロ! 至急行き先を変更するケロ!」
敵対異星人であるケロロン星人は行き先を変えた。
人知れず俺が地球の危機を防いだのだ。
「ふふ、ちょろいもんだぜ」
前職はホスト兼詐欺師をやっていた。
人間を騙すよりも侵略で目の色を変えている宇宙人を騙す方が
何百倍ドンペリ簡単だ。あ、これ業界用語ね。
さて、次の敵対宇宙人は……。
「あの、もしかして地球に行くんですか?」
「そうザマス! 私たちPTAザマス星人にとって
地球というのはこれ以上ない侵略先ザマス!
なんでも宝石やら湯水のように取れるザマス!」
「あ、それじゃM647惑星には行ったんですね」
「ザマス?」
「M647惑星では地球よりも高品質な宝石が採れるんです。
すでに行って取りつくしたから地球に行かれるんでしょう?」
「そ……そうザマス! もちろんザマス!
あーー……でも、忘れ物をしたからM647惑星に戻るザマス!」
かくして、また地球の危機は救われた。
俺のたぐいまれな言葉で。
この調子で宇宙ターミナルから地球へ侵攻する予定の宇宙人を
ガンガン別の惑星へと誘導していった。
お昼になるころには地球を侵略しに行こうとする宇宙人なんて
どこにもいなくなってしまった。
「作戦成功だ。これで地球も安泰だな」
自分へのご褒美として豪華なお昼ご飯を
宇宙ターミナルの発着場レストランで食べていた。
超時空船から輸入されてくる銀河おりおりの食べ物がおいしい。
食事を進めていると、隣のテーブルから会話が聞こえた。
「なぁ、聴いたポヨン?」
「なにポヨン?」
「M647惑星のことポヨン。あそこヤバイらしいポヨン」
「ああ、知ってるポヨン。もう生物が住めないって噂ポヨン」
思わず宇宙スプーンを落としてしまった。
額からはあぶら汗が流れ始める。
「ま、まずい……テキトーにM347惑星なんて勧めたけど、
その惑星がどんなものかなんて考えもしなかった……!」
とにかくこのターミナルに留まるのはまずい。
報復されるかもしれない。
慌ててレストランを出たところで、
今日声をかけた敵対宇宙人がずらりと並んでいた。
「見つけたケロ」
「あなたに話があるザマス」
「あ……その……」
土下座して許してもらえるのか。いやダメだ。
宇宙人相手に土下座なんて意味がわかってもらえない。
どうすれば……。
「ご、ごめんなさい! 騙す気はなかったんです!
M647惑星があんな惑星だとは知らなくって……!!」
「ケロ? 何言ってるケロ?」
「M647惑星はいい惑星ザマス」
「え?」
「M647惑星は良い惑星だったケロ。生物がいないので
手つかずで独特な自然が満ちていた惑星だったケロ!」
「さらに、この惑星でしか取れない宝石もたくさん採れるザマス。
あなたには感謝しかないザマス」
「そ、そうですか……よかった」
張りつめていた緊張の糸がやっとほぐれた。
この場で食われるんじゃないかと本気で怖かった。
かくして、地球の平和は守れたんだな。
でもふと気になった。
「……あれ? それじゃどうしてターミナルに戻って来たんですか?
M647惑星を侵略しているものだと思っていました」
「ああ、それケロね。実はもっといい惑星の存在に気付いたケロ」
「それで慌てて引き返してきたザマス」
「へぇ、どこの惑星なんですか?」
「それはあなたの惑星ケロ。
これだけ素晴らしい惑星を知っているあなたが住んでる惑星なら
その中でもバツグンにいい惑星のはずケロ」
「教えてほしいザマス。あなたの住んでる惑星はどこザマス?
さぞ、素晴らしい惑星であるはずザマス!」
期待たっぷりな宇宙人の目に嘘はつけなかった。
近々、地球には宇宙船団が大量に向かってくると思う……。
作品名:舌先三寸の地球防衛軍 作家名:かなりえずき