夕闇の淵で
「小春のお兄さん?」こちらより早く、彼女のほうが僕に声をかけてくれた。
僕が妹の行方について教えてほしいと言うと、彼女はその場ですぐに電話をした。キラキラ光る小さなかけらがたくさん埋め込まれた携帯電話で、それは小春の電話に似ていた。電話を切ると、小春、すぐここに来るって、と彼女は言った。15分くらいで来れるはず。だから、そこで雑誌でも読みながら、待ってたら?
僕は店外に出て、走る車を見ていた。あまりにもあっさりと事が進んで、正直拍子抜けしたような気持ちだった。いや、違う、きっと小春は待っていたのだ。誰かが迎えに来るのを、ずっと待っていたのだ。
風は相変わらず冷たかった。僕は独りだった妹のことを思った。そして、同じく独りだった母と父のことを思った。