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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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言葉の暴力を禁止させろてください

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増え続ける家庭内暴力。
際限のない暴力犯罪。
職場で繰り返される恫喝。

そんな世界とはもうお別れ!

今日から『言葉の暴力禁止法』が施行されました!


「はぁ!? 何言ってやがんでぇ! べらんめぇ!
 こんなふざけた法律通しやがったのか! 死ね!」

テレビに毒づいた男はその場で現行犯逮捕となった。

「ちょ……ちがう! さっきのは勢いで……」

「はいはい、わかりました。でも言葉の暴力ですから」

男をパトカーに乗せると上司と部下は車を発進させた。

言葉の暴力禁止法がはじまって数日もすると、
警察に届く事件の数は驚くほど減った。

「上司さん、禁止法の力、すごいですね。
 前に比べて犯罪率が0.0000%ですよ」

「ふむ、世紀末シティとまで言われたこの町も平和になったな」

町を牛耳っていた暴力団も禁止法で一網打尽。

わずかに残った団員も「死ねコラぁ!」を
「お死になりますか? このぉ!」と発言しなければならず
迫力もドスも失われどんどん空中分解していった。

「よし、パトロールするか」
「はい!」

上司と部下はパトロールに出た。
しばらく車を走らせると上司が言った。

「小腹空かないか? そこのコンビニに止めてくれ」
「はい」

部下と上司はコンビニに入って軽食を買っていると、
覆面をした男たちがコンビニに入って来た。

バァン!!

白昼堂々と銃を天井にぶっぱなす。

「……」

覆面の男のひとりがレジにバッグを置いた。
"金をつめろ"とジェスチャーで促す。
警察がここにいるとも知らずに。

部下は警察の銃を構えて立ち上がった。

「警察です! 全員お動きにならないでください!」

"動くな!"といった強く怒鳴ることは禁じられている。
これが最大限の制止の表現。

「……」

犯人はさっさと金を詰めて逃げてしまった。
この件は警察署に戻るとすぐに報告された。

「……なるほど、これは問題ですなぁ」

警察署長はあごひげを撫でながら考える。


「言葉の暴力は市民はもとより警察も含まれている。
 "動くな!手を上げろ!"は
 "お動きにならないでください! よろしければお手を拝借!"になる」

「署長、それは問題ですよ」

「迫力が出ないからか?」
「いえ、長すぎます。犯人逃げちゃいます」

「だよなぁ……」

署長もこのことについては悩んでいた。

「禁止法によって、全体の犯罪件数は減った。
 それでも、極悪犯罪については言葉を使わずに行われている」

衝動的な犯罪は減ったものの、計画的で容赦のない犯罪はむしろ増えている。

「警察は! 警察はなにをしておいでになられているんですか!?」

「みんなで頑張ろう本部へ行くといい」

署長に伝えられた場所へ行ってみると、
部屋の前には木の板でどっしりと文字が書かれていた。


悪い犯罪が増えているのでみんなで頑張ろう本部


「……上司さん、なんですかねこれ」
「書きたい内容はわかるが、禁止法の影響だろうな」

本来は"極悪犯罪対策本部"と画数の多い漢字を
ゴツくならべたものを書きたかったのだろう。

ただし、言葉の暴力になりそうな"撲滅"などはNGだし
テレビに映る可能性もあるのでテレビコードにも配慮されている。

本部に入っても警察官は血管を浮き上がらせながらも
極めてソフトで優しい言葉の作戦会議をしていた。

「次の犯人さまがおいでになる場所は、
 まだおつかみになられてないんですか!」

「犯人さまの作戦がつかめないんです!」

「くやしいでございます! 警察が後手後手に回らせていただけるなんて!」

上司と部下も会議に参加する。
部下は若さゆえか問題点をドストレートで聴いてしまう。

「あの、どうしてそんなに犯人が捕まえられないんですか?」

「それもこれも禁止法の影響ですよ!
 この法律があるおかげでコミュニケーションがとりずらくって」

「いちいち言葉の暴力は大丈夫かフィルターを通さないと
 まともに作戦会議なんでできやしない!」

「そうこうしているうちにも、犯人さまたちはジェスチャーだけで
 さっさと作戦を練って実行に移しているというのに!」

犯人たちは少人数で、対策本部は大人数。
必要となるコミュニケーションも犯人たちはジェスチャーだけで済んでも
こっちは会話やら文書やらの必要があるのでどうしても遅れる。

「いっそ禁止法を一時的に止めるとかできないものか……」

「そんなことしたら、抑えられていた犯罪者が戻ってきますよ」

「もう終わりだ……いったいどうすれば……」

絶望感うずまく会議室。
部下はひとり手を挙げて進言した。


「潜入捜査をしましょう!!」


「……なんだって?」

「敵の本部に潜入するんです。だって、考えてみてくださいよ。
 相手はジェスチャーでしか会話できないんですよ?
 そこに潜入するなんてラクショーじゃないですか?」

「「「 たしかに!! 」」」

「潜入して作戦の全貌を記録した後で離脱すれば完璧です!」

「「「 最高の作戦だ! 2階級特進!! 」」」

言葉の暴力が禁止されているので尋問もできない。
彼らは疑ったとしても、それを確かめるすべなどないのだ。

「では、潜入任務を明示させていただきます!」
「らじゃー!」

部下は潜入任務につき、犯人の一派として組織へ溶け込むことに。


「ここか……」

海沿いの貸倉庫に入ると、見るからに悪党の奴らがいた。
彼らはすぐに銃を構えて警戒した。

「……」

部下は何も言わずに敬礼をして黙って待った。
するとリーダーらしき人物がやってきて握手した。

(やった! やっぱり簡単に信用してくれた!!)

部下は心の中でガッツポーズ。
開始3秒で悪党の一味に仲間として迎え入れられた。

とんとん拍子で作戦の全貌を知ることができた。

誰もいないのを確認して、警察署に無線をつないだ。

「やりました! 作戦の全貌を記録に収めました!」

『でかした! これで犯人さまも逮捕させていただけるな!
 あとは記録をもって戻ってくるだけだ!』

「実はそのことで問題が……」

『どうした? 記録が破損しているとかか? ロックされてるとか?
 安心しろ。警察は復元も解除もお手の物だ』

「いえ、そうではなく……」

部下はためらいがちに言った。



「あの、組織を離脱するジェスチャーってどうやるんですか?」