小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

地雷本ってどこが危険なの?

INDEX|1ページ/1ページ|

 
「カバーにお入れしますか?」
「あ、お願いします」

本屋でよく見もしないで本を買う。
それはまるで未知への冒険のような感覚だ。

家で本を開くと、目次の横にタイトルがある。


『地雷本』


「……なんかすごいタイトルだな。
 くそつまんない小説だから地雷ってオチじゃないよな」

おそるおそる読み進めてみると、
疑っていた数秒前の自分を袋叩きにしたくなるほど面白い。
とにかくおもしろい。

もう活字を追う目の動きが止まらない。
先へ、先へと引っ張られるようだ。

「す、すごい! なんだこれ! 面白すぎる!!」

この感動を自分だけでとどめるのはあまりに惜しい。
友達にもこの本の魅力を余すところなく伝えようとしたが
残念ながらすでに友達はこの本を知っていた。

「お前……知らないのかよ!? その本、地雷本だぞ!」

「それくらい知ってるよ。本を開いたらタイトル書いてあったし」

「そうじゃない! その本のどこかには読んだ人の心を破壊する
 本編とは関係ない地雷ページがあるんだよ!」

「地雷ページ……!?」

「いいか、それ以上本を読み進めるんじゃないぞ!
 うっかり地雷の文章を読んだが最後、取り返しがつかないぞ!」

友達は躍起になって止めていた。
その声のトーンからいかに恐ろしいかもわかったが、
すでにこの本を読まない選択肢なんて考えられない。

だって、今、すごく面白い所なんだもの。

「地雷っていったって所詮は文章だろう。
 地雷があるとわかって心の準備していれば……大乗だろ」

とはいえ、先ほど聞いた聞き迫る物言いは無視できない。
読むスピードはがくっと落ちて、慎重に慎重に。
かみしめるように文章を読んでいく。

「……よし、このページは大丈夫そうだな。読もう」

ページをめくるたびに心臓がひやっとする。
ページの冒頭を読んで地雷チェックするのも大変だ。

やがて、それらしい気配はついにやってきた。

「うっ! ま、まずい! なんか嫌な気配がする!」

ページの暴投からわずかに展開がおかしくなっている。
普通に読んでいれば気付かないほどのささいな"違和感"だが、
猫のように警戒していた俺は見過ごさない。

「き、きっとこの先に地雷があるんだ……!
 くそぅ……でも、地雷じゃなかったら先が読めるのか……!」

先が気になるのでもっと読みたい。
でも、もし地雷だったらと思うと理性がブレーキをかける。

「そうだ! ほかの人でテストしてみよう!!」

この本に地雷があるのかをチェックすることに。
道行く人に声をかけて本を預けた。

「よかったらこの本読んでください。とっても面白いんで」

「本なんて読まないんだけどなぁ」

ぶつくさ言っていた人も地雷本を読むなり、
あっという間に虜になってしまう。一心不乱に読み進む。

「ああ! このカバーじゃまだ!!」

さらには本屋でつけてもらったカバーまで取っ払う。
本についている"しおり"なんて握りつぶされる。
まるで魔力。

「あの、それじゃ読み終わったら返してくださいね」




数日後、本を貸した男のもとへ向かう。
そこには廃人のようになった男がへたりこんでいた。
近くには泡をふいて倒れている女。

救急車を搬送した後、男に事情を聴いた。

「ああ……ああ……なんていうことだ……ぼくは……最低だ……」

「あの、なにかあったんですか? 俺の貸した本は?」

「本……? ひぃぃぃ!! やめろ!! 本なんか見たくない!!
 本を見せるなぁ!! こっちへ見せるなぁあああ!!!」

「完全に壊れてる……」

数日前、やっきになって本を読んでいた勇ましい姿はどこへやら。
今や小動物のようにおびえている。

「これが地雷本……! 本当に人の心を壊すのか」

これだけの危険性を目の当たりにしてもなお、
俺はまだこの本の先を読みたいと思ってしまう。

仮に読み進める先で地雷を目で踏んで、
この男のようになったとしても……。

「ところで、地雷ページはどこだったんですか?」

「やめろ!! 本を向けるな!! こっちへ向けるな!!」

男は完全に本をおびえ切って話にならない。
それでも本能は開きっぱなしの本へと手が伸びる。

最初の数行を読んでしまったが最後、もう止まらない。
階段を転げ落ちるようにどんどん本を読んでいく。

やがて、前に感じた違和感のページへとたどり着いた。

「よし、いくぞ……!」

覚悟を決めて活字を目で追っていく。
どんな心を砕くような内容なのか……。


「あれ?」

めっちゃハッピーエンドだった。
冒頭こそ不気味にはじまったものの、途中から大どんでん返し。
違和感も地雷もなく、地雷本の面白さを際立たせるだけだった。


Fin


気が付けば、本を読み終わっていた。

「ああーー! 面白かった! この本は最高だ!」

すっかり満足した。
地雷のことなんて頭から消し飛んでいた。

「ふぅ、地雷ページなんてなかったな。
 何度読み返してもぜんぜん平気だ。
 いったいあの男はこの本の何をおそれていたんだ?」

なんてことのない稀代の名作だった。
それだけだった。

「まあいいや! この名作が地雷本なんて風評被害で
 正しく評価されないなんてもったいなさすぎる!
 もっとたくさんの人に読まれるべきだ!」

そこで、俺は本を図書館に寄贈した。
これでたくさんの人があの名作に触れてくれるだろう。


家に戻ると、本を貸した男が待っていた。

「あの本は?」

「ああ、さっき図書館に寄贈してきたところさ。
 今頃は棚に置かれて、きっといろんな人が手に取ってるよ」

男の顔から血の気がみるみる引いていく。



「おまえ! なんてことするんだ!!
 あの地雷本の地雷部分は背表紙なんだぞ!!
 自分が壊れるんじゃなくて、他人を壊す恐ろしい本なんだ!」