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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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母校から生まれ落ちる子供

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母校という言葉がある。
本当に子供が学校から生まれるのはここ最近になってからだった。

「見てください! 東大の赤門から……!
 赤門から今! 子供が生まれ落ちてきました!」

「シュレディンガーの猫! シュレディンガーの猫!」

「ああ! すごい! まだ生まれたばかりなのに
 産声がなんだかよくわからないことを口走っています!」

赤門から生まれた子供は、生後0秒で言葉を話すのはもちろん
普通の子供よりもずっと頭がよかった。

「で、この子供は誰が里親になるんだ?」

誰かがいったこの疑問はいつしかときのニュースとなり、
政府も頭を悩ませ、最終的な結論は原始的なものになった。

「ひろった人でいいんじゃない?」

かくして、第一児子供争奪戦である。


「私が拾うのよ!! 道をあけなさい!!」
「ちょっと何言ってんの! この子は私のもの!」
「いいえ! この子は私が拾って、医者にするの!!」

東大はもとより、学校はスーパーのタイムセール以上の
圧倒的な人口密度となっていた。

誰もが母校から生まれてくる子供を拾って、
願わくば社会的な成功をおさめんとする野心がうずまく。

「はぁ……今日も取れなかったわ……」

そんな中、一人の母は肩を落として学校を去った。

母校からは定期的に子供が生まれてくるものの、
有名な学校から生み出される子供は競争率が激しい。

とても手に入れることはできない。

「これじゃ私の一生はこのまま何もない日常を
 だらだらと消費しながら死んでいくなんて絶対いや!!」

今日の敗北でさらに闘争心に火が付いた。

翌日……というより、今日の深夜。
まだ日付が変わらないうちに学校へと不法侵入。

ここで出待ちしていれば、生まれた瞬間の子供をキャッチできるはず。

「えっ! もうこんなに……!?」

甘かった。
すでに校内には同じことを考えている親が何人も。
その眼は出世と社会的地位への野望で充血している。

その日もやっぱり子供を勝ち取れなかった。

「出待ちもできないなんて! これじゃどうすればいいの!!」

いっそお金でも使って出待ち勢を追い払うか。
いや、やつらに金は通用しない。

「……待って。思いついた! 学校を作っちゃえばいいのよ!」

勝ち取れないのなら、作ればいい。
ここまで壮大な考えは誰も行きつかなかったに違いない。

「学校を作るのは時間もお金もかかるけど、
 確実に完璧で崇高でパーフェクトな我が子が手に入るのなら
 お金なんて出し惜しみしないわ!!」

幸いにも使うあてのなかった金が大量にあったので、
完璧な母校を作ることにした。

完成したのはしばらくたってからだった。
時間こそかかれど完成度に納得した。

「ああ! これこそ私の求めた最高の母校よ!
 完璧な教育に、完璧な生活環境!
 ここから生まれる子供は間違いなくパーフェクトね!!」

教育面の充実はもちろん、校内に宿舎を設けられている。
子供の私生活もきっちり管理できる仕組み。

勉強はもちろん、交友関係、さらには体力もしっかりサポート。
どこからどう見ても完璧な子供しか生まれない。

「楽しみだわ! 早く子供が生まれないかしら!!」

母校が完成すると誰も人を入れないようにした。

いの一番に子供を手に入れるため。
最高に賢い我が子をこの手に収めるため。

 ・
 ・
 ・

「……あれ? ぜんぜん出てこないわ?」

母校完成から日が流れた。
待てど暮らせどいっこうに子供は出てこない。

頭がいいから生まれるスパンも長いのか。

「ううん、焦っちゃダメ。大事なのは質よ、質。
 最高の子供を手に入れて、最高の親になれるのよ」

自分に言い聞かせて待つことにした。

 ・
 ・
 ・

年単位で時間が過ぎた。
いくら待っても子供が出てこない。

「なんなのよ!! どうして出てこないの! おかしいわ!」

耐えきれなくなり、校内を探し回る。
すると、すでに子供は何人も生まれていた。

「ああ、よかった。
 この母校から子供は生まれないのかとヒヤっとしたわ」

子供たちは、子供が生まれる門をじっと見ながら動かない。

「さぁ、行きましょう。今日から私が母親よ。いいわね」

念願の子供を手に入れた。



と、思ったら、子供は首を振った。


「なに言ってるのおばさん。
 子供を選ぶような大人が僕らにふさわしいわけないじゃない。
 ぼくらだって親くらい選ぶよ」

母校から生まれた賢い子供たちは、
この母校から生まれる親をずっと待っていた。