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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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その主食、がまんできますか?

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「まったく、元受刑者の再犯率が高いのは
 本当だったんだな」

「さぁ、洗いざらい話してもらおうか!
 お前はどうして盗みなんてしたんだ!!」

2人の取調官が俺をにらんでいる。

「ああ、わかった……話すよ。話すとも……」

※ ※ ※

「静粛に! では、被告の判決を言い渡す。
 被告は……パン刑10年に処する!!」

俺の暴力事件の判決が出た。
きょとんとしたのは俺だけだった。

「被告は10年の間、パンのみを食すものとする!
 食パン、ハンバーガー、サンドイッチ……。
 ただし! ごはんだけはけして口にしてはならない!」

裁判官は厳格な顔をしていたが、
心の中でガッツポーズをとっていた。そんなんでいいのか。

服役がはじまっても俺の自由は保障された。
ただし食事はパンのみ。

「ふふふ、パンは好きだからな。
 なんならごはんより好きなくらいだ。ちょろいぜ」

昨日もパンを食べた。
今日もパンを食べた。
明日もパンを食べる。

パン、パン、パン、パンづくしの毎日。

春のパン祭りのお皿が棚に置けなくなるほど
3食欠かさずにパンばかり食べた。

飽きが出たのは1週間ほどたってからだった。

「毎食パンの種類変えてるのに、さすがに飽きるなぁ……」

湧き上がるのは禁止されているごはんへの欲求。
パンをごはんっぽくして食べても、いっこうに満たされない。

1ヶ月もするとパンを体が受け付けなくなった。

「うう……! もうパンなんていやだ!
 ごはんが食べたい! なんでもいい! ごはんが!!」

何食か抜いて、おなかの減りが限界まできてやっとパンを食べる。
そんな日々が続いた。

パン刑がここまで辛いなんて思わなかった。
自由が保障されている分、襲ってくる欲求も多い。

そのつど自分の理性と戦わなければならない。辛すぎる。


「もう限界だ!! こんなところにはいれない!!」


テレビをつければおいしそうなご飯のCM。
コンビニに行けばレジ前におにぎり。
ネットを観れば広告にごはんの画像。

耐えきれなくなった俺は外国へ渡った。
この国ではあまりに誘惑が多すぎる。
パンだけの国に行けば忘れられるだろう。

「すごい! どこもパンばかりだ!
 ここなら惑わされずに、逃げられることもない!」

パン文化が根付いている海外にはごはんなんてない。
菓子パンなどのバリエーションは乏しいものの、
ごはんの誘惑がなければ安いものだ。


相変わらずパンには飽きて、
飢餓状態になってやっとパンを食べる日々だった。
倒れたのはすぐだった。

「ここは……?」

「病院です。あなた家で倒れてたんですよ。
 ドクターがいうには無理のしすぎて衰弱してたんですって」

「そうですか……」

「いったい、なにをしてたんですか?
 こんなにぼろぼろになるまで」

「極限のダイエット生活をしていただけです……」

「ムリな食事制限は体に毒ですよ。
 食事を用意しましたから、しっかり食べてくださいね」

看護師はトレイで食事を運んできた。
目にした瞬間、よだれが出ていっきに視野が狭くなる。

「あなたが日本人と聞いてごはんを用意しました。
 国が違うので口に合うかわかりませんが……」

食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい……!

脳内がお椀にもられたごはんでいっぱいになる。
外国に来て抑えていた欲求がはちきれそうだ。

しかし……!

「ああああああああ!!! ダメだ!! うあああああ!!」

※ ※ ※


「……え、終わり?」

取調室の2人は俺の供述を聞いて目を丸くした。

「今の話が、お前の盗みとなにが関係あるんだ?」

「言っておくが、これから控えてるお前の罪状に
 今の話は少しも酌量されないぞ」


「……俺はパン刑で頭がおかしくなってたんです。
 だから……自分でも……盗みをしたんです……」

俺は口の中で舌を噛んで必死に涙を流す。

「お前の国でパン刑だったかもしれんがこの国では関係ない。
 お前はより新しい罪で裁かれるのだ」

「はい……わかっています……」

「では裁判へ行くぞ」

裁判が進むと、判決の流れは俺の予想した通りに運んでいく。
裁判長がカンカンと木槌を鳴らす。


「判決を言い渡す! 被告は……ごはん刑10年の刑に処す!!」


「待ってました!!!」

俺は思わず声を出してしまった。
母国語だったのでわかった人はいない。

念願のごはんにありつける。
やっとパンから離れることができるんだ。

わざと盗みをしたかいがある。
パン刑なんてあれいじょう我慢するのは無理だった。

だったらいっそ別の罪で上書きしたほうがずっといい。


「ワハハハ、ざまみろだな。パンが10年も食べれないぞ」

「うう……あんまりだ……」

俺は必死に演技をつづけた。
パンを食べれないことが辛いと思ってるのだろうが、
それはこの国がパン文化だからだ。

ごはん文化の俺には痛くもかゆくもない。
めくるめく母なるごはんの下にかえるだけだ。

「よし! ごはん刑10年をエンジョイするぞ!!」

パン刑がごはん刑に切り替わると、
迷わず国を出て母国へとカムバックした。

ごはんだらけの美しい国へ……!
ビバ・ごはん!!





「ああ! しまった! おかず食べれない!!」

ごはん刑の恐ろしさに気付いたのは帰国してからだった。
残り10年の白米生活が幕を上げる……。