電車コンのはぶられ人
電車コンパの略で「パ」しか略されていないのはさておき、
出会いを求めた男女が同じ電車に乗っていく。
意気投合すると駅に降りてそのあとは食事などしていく。
ラフで現代らしいインスタントなコンパだ。
「はぁ……モテたい……」
女日照りになることはや数十年。
仕事いっぽんでこれまで生きてきたが浮ついたこともしたくなる。
プシュー。
「永福町ぉ~~永福町ぉ~~」
電車が止まり、出会いを求めた男女がホームからぞろぞろ乗り込む。
窓ガラスから見てもきれいな女性はたくさんいる。
プシュー。
「明大前ぇ~~明大前ぇ~~」
電車が次の駅に着くころには、
キレイな女性はイケメンと肩を並べて去っていく。
ガラス越しに遠ざかる背中に「あぁ……」と切ない声が漏れる。
「はぁ……俺はいつもこれだ……」
電車はしずかに発信する。
みんな俺が電車コン参加者だと気付いていないのか。
そんなことはない。
この電車のことは俺が一番知ってるわけだし、焦ることはない。
まだ駅はいくつもあるし、終点についたら売れ残りメンバーで
なし崩し的に仲良くなるに決まっている。
プシュー。
「終点渋谷~~渋谷ぁ~~」
電車が止まると、乗客たちはぞろぞろと降りていく。
誰もが売れ残った者同士でカップルになっていく。
「なぜ俺だけ相手にされないんだ!?」
電車にひとり残されたのは俺だけだ。
俺のいったい何がいけないんだ!
男は背中で語ると聞いたことがあったのに!
背中じゃ加齢臭くらいしか伝わらない!
「……ということがあったんだ」
その日、友達に相談してみることにした。
自分でも気づけない部分が友達にはわかるかもしれない。
「原因わかったよ。お前がモテない原因」
「ほ、ほんとか!」
「そりゃお前、自分から声をかけてないだろ」
「そ、それは……」
そうかもしれない。
思い返してみると、俺は自分のことで頭がいっぱい。
もしかしたら、相手が声をかけられるのを待っていたかもしれない。
「わかったよ! 俺がんばって声かけてみる!」
「おう。男らしくビシッと決めてこい!」
友達に後押しされて電車コンにまた参加した。
今度は前回の俺とは違う。
「いかに声をかけてもらうか」で必死だった守りではなく
「いかに声をかけてやるか」と攻めの姿勢。
きっとうまくいく。
「へい、彼女。俺と一緒にパーティしない?」
最高にイケてるナウい誘いをぶちかました。
彼女は焦った顔で言い返した。
「車掌さん!! いいから運転席に戻ってくださいよ!!」
作品名:電車コンのはぶられ人 作家名:かなりえずき