トランスフォームするおともだち
元気そうな顔をしているが少し顔に違和感がある。
「よお、久しぶり」
「あのどちら様?」
「え? あ、ああ、そうか。トランスフォームしてなかった」
俺は体の皮を裏返し関節をバキバキと音をならして変形する。
あっという間に通常の体になる。
「ああ、佐藤か。変形してたからわからなかった」
「仕事では変形している方が客がつかめるんだよ」
すべての人間は変形できる。そんなのは当たり前だ。
みんな表の体と裏の体を持っている。
「でも、こうして飲むのも久しぶりだな」
「実は佐藤に話したい笑い話があるんだよ。
お前の冷徹な鉄仮面の嫁さんも笑っちゃうネタさ」
「美人の妻をもらったことをひがんでんじゃねぇ」
すると、友達は目の前で変形をはじめた。
裏の体になった友達は平然と酒を飲む。
「どう?」
「どうって……」
「普通だろ」
「まあな」
そもそも変形してもイケメンになるわけではない。
どこにでもいる人間が、どこにでもいる別の人間になるだけ。
「変形ってそういうものだろ?」
「いや違う!」
友達は急に熱を上げて話し始めた。
「オレは考えたんだ、どうすればモテるかって。
でも変形しようがしまいが結局はモテなかった!」
「そんなもんだろ」
「でも、パーツ単位で変形できれば違うと思ったんだ。
俗にいうイケメンなんてパーツの配置が整っているだけなんだ」
「パーツ単位の変形なんてできるのか?」
俺たち人間が行う変形は完全に内側から裏返る。全とっかえだ。
そんな器用な変形なんてしたためしがない。
「それができたんだ」
「え!」
「これが変形した写真」
友達はスマホに取った画像を差し出した。
パーツには見覚えのあるものがある。たしかに友達本人だ。
「すごい……! 信じられないくらいイケメンだ……」
「だろ。変形後の顔でいい部分は変形して、
元の顔の方がいい部分は残していったんだ」
「器用なことするもんだな」
「もちろん普通じゃできない。特別な手術をしたんだ。
そのかいはあったぞ。めっちゃモテたからな一生ぶん」
写真から友達の顔に目を戻す。
今の顔はイケメンどころか俺の知っている元の顔だ。
「……それじゃ、どうして治したんだ?
モテまくりだったらずっとそのままにすればよかったじゃないか」
「それが実はオチがあってな……」
友達にオチを聞くと俺は笑った。
家に帰っても思い出して笑いそうになる。
「あなた、どうしたの。ニヤニヤして」
妻がいつもと同じ表情で立っている。
出会ってから一度も笑顔を見せたことがない美人妻。
せっかくなので話してみようと思った。
「実は今日、友達と久しぶりに会って話したんだ。
そいつの失敗談が面白くってさ」
俺は友達の話を妻に話していった。
オチが気になるのか妻も真剣そうなあいづちをうつ。
「で、そいつどうなったと思う?」
「どうなったの? どうしてイケメン顔を辞めたの?」
「実は部分変形すると、笑ったりしたときに顔が歪むんだ。
顔の右半分と左半分がちがうとかな。
部分変形してるから表情変化すると、元の顔以上に醜くなるんだってさ!
あはははは」
俺は話して爆笑した。
釣られて妻もおおいに笑った。
妻の笑顔が左右めちゃくちゃになっているのを見て
俺は一気に笑顔がひいた。
作品名:トランスフォームするおともだち 作家名:かなりえずき