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鍵っ子なむ
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あなたに送るよ、メッセージ

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あなたの母も猫なで声でいちいち「今日はご飯たべる?」とか「テレビみないの?」とか「お風呂空いてるよ」とか終いには「電気ついてるけど消そうか」と言い出す。

あなたはそんな、回りくどくて無理やりもう一度兄を家族に引き込み、良い大学に行かせるためのアウシュビッツ行きの線路に乗せようとする母を嫌悪した。確かに良い大学に行くことは大切だとあなたは思う。ただ、それは自分が決めることであって親が決めることではないと思った。


しかし、あなたの母の努力の甲斐なく、あなたの兄はそのままS高校を中退し、バイトをして、貯めたお金で漫画やゲームを買い、挙げ句の果てにぼそりと「面接で受かる大学に行く」と言いだし興味があるかどうかあなたは知らないが、ホテル業を専門とするYMCAに入学する。その頃からあなたの兄はタバコを吸うようになる。


ところであなたにも問題が起きる。あなたは今までサッカー部のキャプテンとしてレギュラーで出ていたが、
足首を捻挫したためにしばらくの間サッカーをせずリハビリ組として別メニューで行っていた。
そして復帰するとあなたは考えられないようなミスを連発してしまう。当然すぐに交代させられ、監督からこっぴどく叱られる。
まだそれだけならいい。しかし問題はこれからだった。
あなたと同期でポジションを奪い合って負けたYがあなたからポジションを奪う。
さらにあなたより下手だったはずのTとAがあなたが知らないうちに急成長し、レギュラーで出るようになる。

あなたはそんな彼らをみて、劣等感や焦りを感じる。あなたはYやTやAのせいでベンチになった他のメンバーを見ると、安心と同族意識を感じる。
また、自分の背番号である10がプリントされたユニフォームを見ると、
恥ずかしさと
Yの方が似合うのではないかというのを感じる。
YやTやAが活躍するたびに他の部員が盛り上がるのをみると
画一化されていく危機感と
彼らが感じているであろう優越感を嫉妬する気持ちを感じる。

そしてあなたはこんな惨めなあなたにした監督を憎むようになる。
監督を虚ろな目で見て、表面上、従順な様子を見せるが内心では監督を罵倒し続ける。

あなたはサッカーに意欲を無くしていく。
あなたははやく部活が終わらないかと常に時間を気にするようになる。そして家に帰ると監督にイライラし、YやTやAを恐れる。
というのもあなたに対するYやTやAが段々と見下すような関係性になっていることに気づく。そして他の部員も、大きなものに巻かれるようにあなたを見下すようになる。

あなたはそうしてやっと人の普遍性、あなたの醜さ、弱さ、差別に気づく。

あなたがそうした暗い日々を送っている時あなたの兄はYMCAを休むようになり、バイトを更に入れるようになる。
あなたはたまたま新宿駅で兄が風俗店のボーイとしてビラ配りをやっている姿を見つける。あなたは風俗店なるものを知っている。

あなたはあなたの兄がとりあえずあなたの母のビジョンからかけ離れた、真反対の場所にいるなあと思う。

あなたはふと思って、新宿のネオンサインの大通りから一本外れた暗い通りに行くと案の定浮浪者が一人ゴミ袋を漁っていた。
裸足は真っ黒く、いかにも固そうな皮膚で、指先は変なふうに曲がり、身体中プルプル震えている。
灰色の煤けたジーパンとブルゾンを着て頭は白髪の混じるハゲ頭だった。
あなたは浮浪者の一挙手一投足を観察する。浮浪者はしばらくして食い残しのある弁当を取り出し、中の余ったコメをその汚い変なふうに曲がった黒い指で掴みひげもじゃな口に押し込む。全て食べ終わると指を舐めて、ジーパンでふく。口からはとろーりとよだれが垂れる。
時々風向きが変わると、ビルの裏手に寄っかかって、浮浪者を見ているあなたの元に異臭がくる。ゲロとフンと加齢臭が混ざり合う匂いである。
あなたは浮浪者が何のために生きているのか疑問に思い、あなたは更にしばらく観察した後家に帰って寝た。

あなたはその日危険な夢を見る。車のボンネットに体が乗り上げ、そのまま車は加速し、ストレートの二車線からカーブになるところで目の前のビルに突っ込み死ぬ夢だ。視界は真っ白くなり身体中溶けるくらい熱くなり、最後ビリッとしてはね起きる。

あなたはそしてダイニングキッチンの窓に誰かいることに気づいて、寝ながら首をあげてもっと注意深く見ようとするとあなたは金縛りにあい、耳元で救急車のサイレンが大音量で響く。
あなたはしかしどうにかして窓を見ようとする。そしてあなたはもう一人のあなたがあなたをのぞいてることに気づく。もう一人のあなたがあなたをのぞいてる。
あなたは次の瞬間、視界が真っ白くなり、気を失う。

あなたはいつも通りの時間に起きるといつも通りに朝食を食べてまだ寝ているあなたの母や父を起こさぬように外に出る。
自転車に乗って小川沿いを走る。
学校まで20分だが、あなたはその間、ウォークマンでボーイツーメンを聴きながら小川にいるガチョウの群れと一匹の白鳥を見る。
あなたは白鳥がほとんど微動だせずその屹立した真っ白い姿が雨上がりの青い空と相まってはっとさせられるほど美しいことに気がつく。それに比べてガチョウの群れはグゥアーグゥアーと鳴き、
親ガチョウの後を何も考えずに泳いでついていく子ガチョウと孫ガチョウや、
グゥアーグゥアーと威嚇しあって喧嘩する男ガチョウや
日向ぼっこできる岩の上を独占して他のガチョウが入ってきたら突き落とす権利者ガチョウとかがいた。
あなたはその白鳥とガチョウの様子を見て何だか考えさせられる。何か考えなくてはならないことがある。
あなたはしかしそんなことを考えて、耳元では救急車のサイレンの音を使って歌うボーイツーメンのミュージックを聴いていると、
気づかないうちに赤信号のまま横断し、横から猛スピードって走っていたタクシーのボンネットに体が乗り上げて二車線のストレートの道からカーブになるところでビルに突っ込み、
熟れて腐ったリンゴのように弾け飛ぶ。