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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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ニックネームの悪魔

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勉強はいい。
努力すればしただけ結果が返ってくる。
寝ている時以外は勉強をしていたい。

「おい、がり勉! 今日も勉強かよ!」

「あっ、おい!」

ノートと筆記用具をひったくられる。
クラス替えしてからいつもこんな調子だ。

こっちは勉強したいのに。
テストの成績が下がったらどうしてくれる。

「悔しかったら取ってみろよーー」

「いい、帰る」

僕はさっさと荷物をまとめて去った。
あの手の連中はかまってやるとますます図に乗る。
相手にしないのが一番だ。

怖いとかじゃないし。
あんな低俗な連中と同等に扱われるのが不快なだけで……。

「はぁ……、ほんと勉強の邪魔だよ……」

「お困りかな?」

声に気付いて顔を上げると、真っ黒い服を来て
額に油性マジックで「あくま」と書かれた悪魔が浮いていた。

「私は悪魔」
「でしょうね」

「お前に不思議な力をやろう。
 好きな名前をお前の意のままに帰られる能力だ」

「デメリットとかないですよね!?
 命が削られるとか!」

「…………あっ」

「考えてなかったのかよ、おい悪魔」

かくして、悪魔から名前を好きに変えられる力を手に入れた。
さっそくあのいじめっ子の名前を「なめくじ」にしてやった。

これで名前に引っ張られて性格も更生するに違いない。

翌日、安心しきった僕を待っていたは
「山田なめくじ」くんによる熾烈ないじめだった。

「な、なめくじのくせに!」

「あ゛あ゛!? てめぇ、俺の名前なんつった!!!」

「ひ、ひえええ」


限りなく逆効果。


いじめっ子の名前を「なめくじ」にしたのは失敗だった。
名前のコンプレックスでさらに凶暴な性格になっている。

「いや、待てよ。向こうを弱っちい名前にするんじゃなくて
 僕をめっちゃ強そうな名前にすればいい!」

今度は自分の名前を変えることに。

アーノルド・スタローン。

重火器をぶっぱなしながらボクシングで勝てそうな名前。
こんなゴツい名前にすれば大丈夫だろう。

「ふふふ……これなら恐れ多くて手も出せまい。
 これで思う存分、勉強しまくってあいつらを成績の底へ叩き落とせるぞ」


翌日、肩で風を切りながら登校。

出席を取ると同時にいじめの火種が生まれた。

「アーノルド? そんなひょろひょろでその名前かよ!」

「や、やめてぇぇぇ!」

やっぱり逆効果だった。
名前負けはなはだしい状況だった。


「くそ……あいつらの名前を弱くしてもダメ。
 僕の名前を強くしてもダメ……八方ふさがりだ」

屋上で落ち込んでいると、いつぞやの悪魔がやってきた。

「困っているようだな」

「ああ困ってるよ! あいつらがいじめてくるおかげで、
 こっちはちっとも勉強できない!
 これじゃ成績が落ちてしまう!」

「お前は能力の使い方に工夫がないんだよ。
 私に任せてお前の名前をつけさせてみろ」

「なんだと。弱っちい名前にしても意味ないからな?
 それに強い名前はもう試した。なにやってもいじめは起きる」

「まぁ、任せておけ」

悪魔は僕の名前をかきかえた。
半信半疑だったが翌日に効果は現れた。

あれほど僕に絡んできたいじめっ子たちが来なくなった。

やってきたところで……。

「おい、パンヌハムフッヘ・ランダムバッハ・スンドゲランブット・
 コランジーム・アナスタシア・マイドレヅ……ああ、もういい!!」

名前が長すぎて諦めてしまう。
略称も使えないような名前なのが悪魔らしい。

「ははは! やった! これで思う存分、勉強ができる!」

僕の名前が長すぎるおかげで、
いじめっ子たちも僕の名前をいじめの標的としてリストアップしなくなった。

なにせ悪口ひとこというにも、
くそ長く噛みやすい名前を言わないといけなくなるんだから。

いじめっ子たちは疎遠になり、僕は好きなだけ勉強にまい進した。


 ・
 ・
 ・

屋上でたそがれていると、悪魔がやってきた。

「よお、俺様の言ったとおりだろ? いじめはなくなったな」

「あぁ、なくなった」

「おお、それなら勉強に集中できただろうな。
 で、テストは何点だったんだ?」

「その前に、名前を戻してくれないか」

「おいおい、何を言い出すんだ。またいじめられたいのか?」



「テストで0点取るくらいならいじめられた方がましだ!」

僕は長すぎる名前を書くだけで時間切れになった答案を
悪魔にたたきつけた。