アンドロイドの月バトル
このように月がきれいになったでしょう!
これこそ、最新のバージョンアップなんです!」
アンドロイド人間たちが住む町。
いたるところに工場ができいているなか、
とある一角で声高に宣伝している男がいた。
「ロボットOS9にバージョンアップすれば、
みなさんもこの素晴らしい名月を見ることができますよ!」
「他にはどんなバージョンアップが?」
「ないです!」
「え」
「月がきれいに見えるだけです!
余計なものはなにもいらない、そう、ロボットOSならね!」
まさに思い切ったバージョンアップ。
バージョンアップ事態もタダではない。
「どうする?」
「でも、OS8のときみたいにおしぼりが出てくる機能とか
余計な機能がついているわけでもないし……」
悩む人もいたが、だいたいがバージョンアップに応じた。
「おお! すごい! 確かに変わっている!」
おしぼりを出す機能よりも明確に差がわかるので、
バージョンアップを施した人は大いに喜んだ。
「ふん、わしは絶対にバージョンアップしないぞ」
そんな中、がんとして更新に応じない人もいた。
これはいいカモだとばかりに、競合他社がこぞって勧誘の手を伸ばす。
「では、こちらのROS1.9に乗り換えませんか!?
最近、新しく工場もできたのでぴっかぴかの新品です!
ロボットOSよりもキレイな月が見れますよ!」
「いえいえ! ならばこっちの方がきれいに見えます!
これから新しい生産ラインを作ってできる最新OS!
今ならあなただけ特別に先行体験させちゃいます!」
月がきれいに見えるようにと、機能拡張のために工場は増える。
熾烈な客の取り合いは始まっていた。
「いらん! バージョンアップなど、いらん!」
が、けして男は応じなかった。
そうこうしているうちに各企業はどんどん精度を高めていく。
「ロボットOS100なら、4K映像で見れますよ!」
「ROS991なら、3D映像で見れます!」
「SOS:2-1なら、色彩が鮮やかです!」
バージョンアップしていないアンドロイドは、
頑固な男だけとなり、しだいに格差からくる差別が生まれ始めた。
「あいつ、まだバージョンアップしてないんだぜ」
「えーー。まだあんなピンボケの月を見てるの?」
「時代は月なのに。まったく遅れてるぜ」
「ふん! わしは誰よりも月を美しく見れる方法を知ってるわ!」
男は鼻を鳴らした。
単なる強がりだと流した人もいたが、各企業はむしろ食いついた。
「どうやって!? どうすれば月がもっとキレイに?!」
「教えてくれ! ほかの工場に負けたくない!」
「他の工場には教えるなよ!! 俺のとこだけ教えてくれ!!」
なんとしても売りたい。
工場長たちは必死に男にくいついた。
男はひとりひとり別室に呼ぶと快く返事をした。
「ああ、いいとも。では、明日、従業員全員とここに来てほしい」
同じことをすべての相手に伝えた。
誰もが「自分だけに教えてくれる」と思っていた。
翌日、工場の従業員全員を連れて工場長がやってきた。
空を見上げると、男の言った通りどのバージョンアップよりも
美しくきれいにくっきりと月が見えていた。
「おお……なんて美しい……!」
「いったいどんな技術なんだ……!!」
「すごい! まさに神の所業だ!」
工場の人たちは競合他社がこの場にいることも忘れ、
しばし美しい月に息をのんだ。
やがて、男が現れるといっせいに食いついた。
「教えてくれ! いったいなんて技術なんだ!」
「どんな魔法を使ったらここまで月がきれいになるんだ!」
「金なら払う! この最新技術を教えてくれ!」
男はにこりと笑って答えた。
「お前ら全員の工場をストップさせれば、スモッグがなくなるんだよ」
作品名:アンドロイドの月バトル 作家名:かなりえずき