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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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機能不全でお金をかせごう!

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「わしはもう動けんから、かまわなくていい。
 自分の人生だから、好きに生きるといい」

「うん、そのつもり」

体が不自由にな親父をおいて一人暮らしをはじめた。
やってみて気付いたが、金がどんどんなくなっていく。
自分で好きなことに金が使えるのを想像していたのに。

そこで、大学の先輩に相談してみることに。

「ああ、それなら良いバイト紹介するよ」

「やばくないですよね?」

「ちょっとヤバイ」

「え」

「どうする? やっぱりやめるか?」

「……やります」

ヤバイ仕事を「やばくない」とごまかされるよりは、
先に言ってもらった方がまだ正常な気がする。
先輩に言われた場所にやってくると、店があった。

「いらっしゃい。今日はどこにしますか?」

「左手の……小指で」

何かの暗号かパスワードなのか。
先輩には店に入ると、そういうように伝えられた。

「はい、わかりました」

店主はカウンターに1万円を出した。
なんだこの楽すぎるシステム。もっと苦労するかと思った。

ポケットの中でスマホが振動している。
きっと先輩からだろう。

「もしも……あっ!」

スマホを取り出そうとした瞬間、思い切り落としてしまった。
すっぽ抜けたわけじゃないのにどうして……。

手を見て分かった。

小指が1本だけぶらりと力なく垂れている。
まるでここだけゴム手袋みたいに。

「お客さん、お気をつけてくださいね。
 小指とはいえ、使えなくなると不便なものです。
 1週間後に元に戻るまでの辛抱です」

「い、一週間……!」

そういうシステムか。
小指がどうのこうのというのは呪文でも合言葉でもなく、
体のどこかを機能不全にさせてお金をもらえるんだ。

1週間後、店に訪れると数百円で小指は戻った。

「おお! すごい! 元通り!」

「別に骨折しているわけじゃないですから。
 あなたが機能不全にした小指を誰かにレンタルしているだけです。
 元に戻すこと自体はかんたんですよ」

「お金はとるんですね」
「そういう商売です」

俺はすっかりこの店が気に入った。
確かに危険ではあるけれど、危険性を理解していれば大丈夫。
包丁と同じで、使い方によっては便利なものになる。

「あの、今度は右足を機能不全にしてもらっていいですか!?」

「はい、わかりました。50万円です」

さらりと50万円を手に入れた。
足が使えなくなるのは不便だが、金に比べれば安い対価だ。

松葉づえで歩いていると、先輩と会った。

「おう。その足どうした?」

「ああ、これは1週間機能不全にしているだけです。
 またすぐに戻せますよ」

「気を付けろよ。1週間でも使ってないと、戻したときに立ち上がれないからな」

「それより先輩。ちょっと相談があるんです」

俺は自分の考えていることを先輩に話した。
先輩は血相を変えて反対した。

「バカ! それだけはダメだ! 絶対にダメだ!」

「なんでですか? 足1本で50万ですよ!?
 俺には今後介護が必要になる両親もいるわけで、金もかかるんです!」

「いくら金が欲しいといってもダメだ!
 絶対にやるな!! わかったな!! 損をするだけだ!」

先輩の猛反対を受けた。
でもそれはたぶん俺が思いついた案のすごさへの嫉妬だろう。
どうせこの後、先輩も俺の後について同じことをするに違いない。

1週間後、足を1万円で戻してもらった俺はその足で次の機能不全を持ち掛けた。


「あの、今度は、心臓を機能不全にしてください」


「お客さん、本当に大丈夫なんですか? 1週間ですよ?」

「1週間、死んでいればいいだけですよね。必ず復活しますよね?」

「もちろんです。あくまでも1週間です。
 ただ、1週間後の料金は復活後に徴収させていただきます」

「あ、そっか。死んでるもんな」

今までは機能不全の状態で店にやってきて治してもらった。
でも死んでるとそれもできないので、治してから支払うことに。

多少不安ではあるが、足1本で50万。
心臓を機能不全にさせたら、いったいどれだけの金が手に入るというのか。

「それじゃ、お願いします」

 ・
 ・
 ・

目が覚めると、店のソファで寝かされていた。

「あれ……?」

「お客さん、1週間経ちましたよ」

「うそ!?」

少しうたた寝しただけの感覚だった。
起き上がると、体の節々からバキバキと音が鳴る。

カウンターには500万円が用意されていた。

「ありがとうございました!! それじゃ!!」

お金を受け取ると、さっそく遊びに出かけた。
たった1週間で500万円を手に入れるなんて。
世界の億万長者でもここまでできないだろう。

「そうだ! 先輩にお礼をしないとな! ぱーーっと!」

500万円を使ってバカでかいパーティ会場を貸切り、
美女をはべらしごちそうをセッティング。

こうして500万円手に入れられたのも、教えてくれた先輩のおかげだ。
先輩がやってくると、豪華絢爛な会場に目をチカチカさせていた。

「これは……すごいな」

「先輩、それもこれも先輩のおかげですから。
 あの店を教えてくれた先輩への感謝を形にしました」

「それで、何を機能不全にさせたら、こんなに金が入るんだ?」

「ああ、心臓と脳ですよ。またやろうかなと思っています」

先輩の表情がいっぺんした。

「なっ……本当にやったのか!? どうして!
 あんなにダメだと言ったじゃないか!!」

「先輩、大丈夫ですって。医者にも見てもらって、後遺症はないですし。
 金がたくさん手に入るだけで、悪いことなんてないですよ」


「お前……知らないのか!?
 心臓を復活にかかる金は、1000万円なんだ!」


「えっ?」

「機能不全にさせても損するだけなんだよ!
 "損するだけ"って言っただろ!?」

「そんな……」

それじゃどうして俺は500万円を手に入れられたんだ。
思えば、俺はカウンターで治療費用を渡していない。

まさか……!

思い当たる人が1人だけいた。




家に帰ると、ベッドの上で動けなくなっている親がいた。

「親父だろ、俺の復活費を出してくれたのは」

「すまんの、黙ってて。
 実はあの店にはわしも出入りしていてな。
 死んでるお前を見ていてもたっても入れれなくなったんじゃ」

「それじゃ介護が必要になったのも……」

「わしは老い先短い。
 だったら、お前になにか遺産でもと思ってな。
 あの店なら体を不自由にするだけで金が手に入るから貯めていたんじゃ」


「そんなのいらない!!」

自分でも気づかないうちに声が出た。

「遺産なんていらないよ、親父。
 健康で……元気でいてくれればそれでいいよ。それだけでいい」

親父はにこりと笑った。

「わしも同じじゃ」

俺たち似た者親子があの店を訪れることはもうなかった。