正直者たちのウソ証言
大丈夫。私は隣町から来た探偵です。
この殺人事件の解決に来ました」
部屋には1体の死体と4人がいた。
「それじゃあ犯人がわかるのか!?」
「こんなに早く!?」
「そんなのどんな名探偵でもできない!」
「いえいえ、それができるんですよ。
みなさん、まずはお話を聞かせてください」
探偵は4人に話を聞くことにした。
「正直に、誠意をもって、正しくお願いします」
最初は第一発見者のAさん。
「Bと別れて部屋に戻っている途中だった。
銃声が聞こえて、部屋に向かったんだ。
部屋にはすでに死体があって……。
死体を見てすぐロビーへ人を呼びに行ったよ」
「なるほど」
次はBさん。
「ええ、Aの言う通り、ロビーでAを見かけました。
慌てていたのと、直前に銃声も聞こえたんでね。
ああ、そういえばDも部屋に向かっていました」
「ふむふむ、AとDを見かけたんですね」
「はい」
次いでCさんが話す番になる。
「ぼ……僕は、AとBが話してるのを見た……。
部屋に行く前だったよ、うん……。
ぼ、僕はトイレに行ってたから……。
それ以外は知らないよ……」
最後にDさんが話す。
「Cの言う通り、Cはトイレに言ってましたね。見かけました。
俺は遊技場で遊んでたら、銃声聞こえたんで部屋に行った。
んで、死体を見て部屋を出ると……。
今に至るってわけだ」
「ロビーで話を聞いた、探偵の私が来たわけですね」
全員の話をしっかり書き留める探偵。
「探偵さん、こんな話、いったい何になるっていうんだ?
いいから現場から証拠をちまちま探した方が
よっぽど有意義な操作になるんじゃねぇの?」
「みなさん、ここはなんていう町ですか?」
「正直者の町……あっ!」
Aは納得した。
「そう、ここは正直者の町。
この町の出身者はウソが言えないんです。
つまり、証言を照らし合わせて矛盾が出た人が犯人です」
「でも、今までの話で矛盾なんてあったか?」
「ええ、1人だけ」
探偵は腕を振りかぶると、Cを指さした。
「犯人はCさん、あなたです!!」
「「「 な、なんだってー! 」」」
「もう一度、Cさんの証言を思い出しましょう」
・AとBが話しているのを見た(部屋に行く前
・Cはトイレに行っていた
・それ以外は知らない
「Cさんが部屋に行く前、AさんとBさんは何を話してましたか?」
「明日の朝食を……」「楽しみだねって」
「はい、これは真実」
AとBはほっと胸をなでおろした。
「Dさんの証言から、Cさんがトイレに行っていたのも真実」
「おう、確かに見かけたぞ」
Cの額に汗がにじむ。
探偵は最後の項目を確かめた。
「それ以外は知らない、とCさんは答えました。
だったらどうして、あなたはこの現場に来れたんですか?」
「あっ……!」
C以外の3人は目を丸くした。
しれっと来ていたが、Cにとっては初めてのはず。
Cは床にがっくりと手をついた。
「実は……Aより先に死体を発見したのは僕なんだ……!
信じてくれ! 殺したのは僕じゃない!」
「なにを今さら……」
「最初に発見したら疑われると思って隠れてたんだ!
Aが部屋を離れた後、そっと部屋から抜け出して……。
みんなが合流するときに戻って来たんだ!」
「もうすぐ、隣町から警察が来ます。
話は警察の方にあらいざらい話してください。
大丈夫。私も警察署まで同行しますから」
しばらくしてパトカーが正直者の町に到着した。
Cは最後まで弁明を続けていた。
「正直者の町の人はウソをつかない……。
でも、真実を隠すことができるなんて皮肉ですね」
探偵はパトカーの中でぼそりとつぶやいた。
隣町の警察署が近づくと、探偵は運転手に声をかけた。
「それじゃ私はこれで。Cさん、あとはよろしく」
「え? 警察署まで来てくれるんじゃないですか?」
答えはなくパトカーは再発進。
Cには隣町の看板が一瞬だけ見えた。
『大ウソつきの町』
一方、残されたAたちは違和感に気付いていた。
「なあ、そういえばあの探偵。
隣町から来たって言ってたけど、
いったい誰があいつを呼んだんだ?」
作品名:正直者たちのウソ証言 作家名:かなりえずき