キメラ業の許されざる禁忌
若いころのように寝ても疲れが取れない。
体は緩慢になり、頭も回らない。
「はぁ……また昔の体になりたいな」
目の前を歩く若い男。
あの体が手に入れば……。
「お悩みですか?」
「わっ!? 誰!?」
「申し遅れました、私、キメラ業を営んでいます。
木目(きめ)というものです」
「はあ……」
愛想のいい男はニコニコしながら話している。
「あなた、昔のような若い体に戻りたいと?」
「……まぁ」
「なんなら今の体を捨ててもいいと?」
「そこまでは言ってないけど」
「ええ、お任せください。必ずやあなたの求めることを
さらに超えたサポートをさせてもらいますとも!」
木目に連れて行かれると、とある店にやってきた。
店内にはいくつもの人体がガラスケースに入っている。
「なんですかこれ……」
「あ、生きてないですよ。死体です。
若い人は恵まれた体なのに、すーぐ死んじゃうからもったいない。
そこで私がキメラ業を始めることにしたんです」
「何言ってるか全然わからないんですが」
「若いからだと、あなたの体を合成するんです。
すると、あなたの記憶などを保ったまま体はバージョンアップ。
それがキメラ業です」
「えっ」
「私なんて、御年92歳ですが、まだまだ若いでしょう?」
「92!?」
どう見ても年下にしか見えない。20歳後半がいいところだろう。
初回割引+クーリングオフもできるという文句に釣られて、
俺は若い体と合成を行った。
「こ、これは……!」
「どうです? 体が軽いでしょう?
根拠のない自信と若さゆえの無鉄砲さもおまけでつきます」
合成された体は、軽く活力に満ちていた。
点滴で生命力を直接注入されたかのようだ。
「おおお!! すごい! すごいい!!」
「またのご来店をお待ちしています」
すっかりキメラ化にハマってしまった。
今までは体力の限界を感じて諦めていた趣味も行い
歳相応に…なんて気にしていた場所へも出入りする。
キメラ化によって行動力が一気に上がり、日常は激変した。
俺がふたたび来店するのはそう時間がかからなかった。
「あれ? また来たんですか? キメラ化ってせいぜい1回が相場なのに」
「もっともっとできないか!? もっと新鮮な体で! 10代くらいの!」
「あのですね、10代の死体なんてそうそう手に入りません。
テレビで自殺だの報道していますが、あれはほんの一握り。
遺族も遺体を提供する確率が低いですしそれに……」
「言い訳はいい!! どうにかしろ!!」
「どうにかと言われても……」
しょうがないので一度諦めて夜の町をぶらつく。
すると、いかにもガラの悪そうな奴らに絡まれた。
「おい、てめぇ。財布出せ」
「恵まれない未成年に寄付しろやボケ」
「抵抗したら刺すぞ」
彼らの体を頭からつま先までじっと見つめる。
「ああ、なんていい体だ……新鮮で、若くて、活力があって……」
「てめぇ! キモいこと言ってんだ! ぶっ殺すぞ!!」
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少年たちをぐるぐる巻きにして、店に運んだ。
「木目、キメラ化してくれ」
「生きた人間を!? そんなのできません!!
合成するには1つ問題があるんです!」
「こいつらの命のことか? 気にすることはない。
この社会悪どもは生きていても犯罪しか起こさないが
俺と合成されれば社会貢献する体の一部になれるんだ。むしろ善行だろ」
「いえそうではなく……」
「逆らうなら、お前も容赦しない」
未成年たちから奪った凶器で木目を脅す。
ぎらついたナイフをすぐに出せるのは、若さゆえだろう。
前の体じゃこうはいかなかった。
「わかりました……後悔しますよ」
「しないさ。肉を食べるたびに後悔しないのと一緒だ」
そして、キメラ化に成功した。
術後は今まで以上の活力と生命力を感じる。
「おおおおお!! すごい! こんなにも力が!!」
「死体とはわけが違いますから。でも、必ず後悔しますよ」
「しつこいな。こんなにもいい体になれて、後悔なんてしないさ!」
体は羽のように軽く、頭はスーパーコンピュータのように早く。
どの会社へいってもヒーローになり、異性にはモテまくり。
何不自由ない暮らしをその先も続けていった。
「はははは。やっぱり後悔なんてしないじゃないか!」
順風満帆な人生はその後もずっと続いた。
いつまでも体は快調そのもの。
妻が老衰で死んで、子供が成長して自分より年上になっても。
俺の体はまるで衰えることを知らない。
「ま、まさか……寿命も人数分ふえてしまったのか……!?」
後悔したころには、木目も死んで店もない。
残されたのは、あと300年分の人生だった。
作品名:キメラ業の許されざる禁忌 作家名:かなりえずき