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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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キメラ業の許されざる禁忌

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最近、体の衰えをひどく感じる。

若いころのように寝ても疲れが取れない。
体は緩慢になり、頭も回らない。

「はぁ……また昔の体になりたいな」

目の前を歩く若い男。
あの体が手に入れば……。

「お悩みですか?」

「わっ!? 誰!?」

「申し遅れました、私、キメラ業を営んでいます。
 木目(きめ)というものです」

「はあ……」

愛想のいい男はニコニコしながら話している。

「あなた、昔のような若い体に戻りたいと?」

「……まぁ」

「なんなら今の体を捨ててもいいと?」

「そこまでは言ってないけど」

「ええ、お任せください。必ずやあなたの求めることを
 さらに超えたサポートをさせてもらいますとも!」

木目に連れて行かれると、とある店にやってきた。
店内にはいくつもの人体がガラスケースに入っている。

「なんですかこれ……」

「あ、生きてないですよ。死体です。
 若い人は恵まれた体なのに、すーぐ死んじゃうからもったいない。
 そこで私がキメラ業を始めることにしたんです」

「何言ってるか全然わからないんですが」

「若いからだと、あなたの体を合成するんです。
 すると、あなたの記憶などを保ったまま体はバージョンアップ。
 それがキメラ業です」

「えっ」

「私なんて、御年92歳ですが、まだまだ若いでしょう?」

「92!?」

どう見ても年下にしか見えない。20歳後半がいいところだろう。
初回割引+クーリングオフもできるという文句に釣られて、
俺は若い体と合成を行った。

「こ、これは……!」

「どうです? 体が軽いでしょう?
 根拠のない自信と若さゆえの無鉄砲さもおまけでつきます」

合成された体は、軽く活力に満ちていた。
点滴で生命力を直接注入されたかのようだ。

「おおお!! すごい! すごいい!!」

「またのご来店をお待ちしています」

すっかりキメラ化にハマってしまった。

今までは体力の限界を感じて諦めていた趣味も行い
歳相応に…なんて気にしていた場所へも出入りする。

キメラ化によって行動力が一気に上がり、日常は激変した。

俺がふたたび来店するのはそう時間がかからなかった。

「あれ? また来たんですか? キメラ化ってせいぜい1回が相場なのに」

「もっともっとできないか!? もっと新鮮な体で! 10代くらいの!」

「あのですね、10代の死体なんてそうそう手に入りません。
 テレビで自殺だの報道していますが、あれはほんの一握り。
 遺族も遺体を提供する確率が低いですしそれに……」

「言い訳はいい!! どうにかしろ!!」

「どうにかと言われても……」

しょうがないので一度諦めて夜の町をぶらつく。
すると、いかにもガラの悪そうな奴らに絡まれた。

「おい、てめぇ。財布出せ」
「恵まれない未成年に寄付しろやボケ」
「抵抗したら刺すぞ」

彼らの体を頭からつま先までじっと見つめる。

「ああ、なんていい体だ……新鮮で、若くて、活力があって……」

「てめぇ! キモいこと言ってんだ! ぶっ殺すぞ!!」

 ・
 ・
 ・

少年たちをぐるぐる巻きにして、店に運んだ。

「木目、キメラ化してくれ」

「生きた人間を!? そんなのできません!!
 合成するには1つ問題があるんです!」

「こいつらの命のことか? 気にすることはない。
 この社会悪どもは生きていても犯罪しか起こさないが
 俺と合成されれば社会貢献する体の一部になれるんだ。むしろ善行だろ」

「いえそうではなく……」

「逆らうなら、お前も容赦しない」

未成年たちから奪った凶器で木目を脅す。
ぎらついたナイフをすぐに出せるのは、若さゆえだろう。
前の体じゃこうはいかなかった。

「わかりました……後悔しますよ」

「しないさ。肉を食べるたびに後悔しないのと一緒だ」

そして、キメラ化に成功した。
術後は今まで以上の活力と生命力を感じる。

「おおおおお!! すごい! こんなにも力が!!」

「死体とはわけが違いますから。でも、必ず後悔しますよ」

「しつこいな。こんなにもいい体になれて、後悔なんてしないさ!」

体は羽のように軽く、頭はスーパーコンピュータのように早く。
どの会社へいってもヒーローになり、異性にはモテまくり。
何不自由ない暮らしをその先も続けていった。

「はははは。やっぱり後悔なんてしないじゃないか!」

順風満帆な人生はその後もずっと続いた。
いつまでも体は快調そのもの。

妻が老衰で死んで、子供が成長して自分より年上になっても。
俺の体はまるで衰えることを知らない。


「ま、まさか……寿命も人数分ふえてしまったのか……!?」


後悔したころには、木目も死んで店もない。
残されたのは、あと300年分の人生だった。