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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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ひかるげんじ35さい。

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光源氏35歳。
彼は今、孤独に飢えていた。

「光さんはいつになったらご結婚なさるんですか?」
「うちの子なんて、もうすぐ小学生ですよ」
「たしか光さんと同級生でしたよね」

「うああああああ!!」

光源氏は周りのプレッシャーと孤独の葛藤で狂いそうだった。

「悪いのは僕じゃないのじゃ!
 サクラをする出会い系SNSが悪いのじゃ!」

光源氏が騙されること、被害額数百万円。
会おう会おうなどと持ち掛けられてはドタキャン。
そのくせ、メッセージのやり取りには金がかかるという不親切設計。

浮世で蹴鞠をしながら詩を読んでるような男に
現代の闇は容赦しなかった。

「おのれ! こんなことなら詩なんて詠むんじゃなかった!」


出会えども この気に勝る心とは 紅葉の色に燃ゆる思ひを
―たとえ出会えなくとも紅葉のように燃えるこの思いに勝るものはない―
            光源氏:35歳(無職、童貞)


本当は出会えるつもりだっただけに恥ずかしい。

「おや?」

ネットをあさっていると光源氏は「街コン」なるものを見つけた。
合コンの規模を大きくした交流の場。さっそく参加することに。

「ここならきっと恋に飢えている男女が集まるのじゃ!
 僕もきっといい相手が見つかるのじゃ!」

勝負着である十二単に袖を通して向かった。
場所は都内にある小さなカフェだった。

薄暗い店内にはすでに男女がひしめいて、
いくつものテーブルのグループがまとまっている。

「僕は光源氏じゃ、みな、よろしぅ」

「えーー光るんカワイイー」
「それ和服? おしゃれー」

「くるしぅない、くるしぅない」

サバンナの肉食獣レベルでがつがつしているかと思いきや、
女性からくるアプローチは優しい感じだった。

自己紹介が終わって、自分の趣味や好みのタイプを話そうとしたとき。

「はーーい、時間でーーす。次のテーブルに移ってください」

「ええ!?」

司会の号令でテーブルを移動しなければいけなくなる。
まだ自己紹介が一周しただけでお互いのことなんて何も知らない。

「あ、それじゃLINE交換しよ」

「え、ああ、わかったのじゃ」

こんな調子でかわるがわるテーブルに移動しては連絡先を交換した。
光源氏の連絡先リストにはいくつもの女性が登録された。

「……なんじゃろうな、この感じ……」

連絡先に登録された相手と名前と顔が一致しない。
出会い系とは違って会えるには会えるものの、
"その他大勢の友達"として扱われるだけで楽しくない。

まるで、友達の頭数を増やすためだけの構成員にされた気分。

「なぜじゃ!? あんなにも恋を求めていたはずなのに、
 いざこうして恋の種を目の当たりにしても一向に燃えないのじゃ!
 僕はもしかして病気なのじゃ!?」

光源氏なりにいろいろ考えてみた。
たまにローラースケートに乗ったりしながら考えてみた。

「いや、僕は病気じゃない。
 こんなのが本当の恋じゃないからじゃ!
 だから、燃えるような恋心を感じないのじゃ!」

光源氏は本当の恋を探しに街に出た。
家に引きこもって和歌を書いているだけでは恋はできない。
かつて、夜這い王とまで言わしめた実力を発揮する時だった。

が。

「なんじゃ……ぜんぜん声かけられる雰囲気じゃないのじゃ……!」

本当の恋、もといナンパしにきた光源氏。
けれど町の人は早歩きで歩いては、矢継ぎ早にスマホを操作。
まるで声をかけられる隙が無い。

かけたところで、

「あ、セールス? あっちいってください」
と断られるか、
写真撮られてSNSで拡散されるかのしっぺ返し。

「だ、だめじゃ! 本当の恋がわからない!」

今度は映画館で恋愛映画を見ることに。
現実は寒々しくても、創造物の世界なら本当の恋がわかるはず。

映画が始まると、光源氏はあっという間に現実に引き戻された。

「ええ……こんなの無理じゃ……」

恋愛映画の土台として、そもそも相手がいる状態。
くっついたり離れたりしながら、くっつく→はい感動。

本当の恋を学びに来たのに、スタートの段階で大きく離されている。

「恋を始めたいのに、恋が始まってる段階じゃん!!」

スクリーンにツッコミを入れた光源氏は劇場から連れ出された。
昔はあれほど騒がれたプレイボーイも現代には太刀打ちできなかった。


ぼくはもう 真の恋愛 できんのじゃ


情緒もへったくれもないグチまで詠んでしまう光源氏。

「ひょっとして……僕は本当の恋ができないような病気なんじゃ……」

そうとしか思えなくなってきた。
あの手この手で恋愛の扉をたたいても蹴りだされるばかり。

重い足を引きずりながら家路についたときだった。

「あ、あぶない!!」

誰が言ったかわからないその声。
反応したときには、目の前に現代の鉄の馬が迫っていた。

 ・
 ・
 ・

「……のじゃ?」

目を覚ますと白いカーテンに囲まれた病院。

「車に引かれてこの程度の傷だったのは幸いでしたね。
 重ね着しまくった十二単がクッションになったんですよ」

「ここは病院……じゃ?」

「ええ、そうですよ」

「先生、ここは心の病気も治せるのじゃ?」

「そちらの病棟は併設されてますけど……どうかしたんですか?」

「僕は本当の恋ができない病気にかかっているのじゃ。
 これはもう薬で治療するしかないのじゃ……」

「それは違います」

医者は光源氏の言葉をさえぎった。

「一番の病気は"自分はこうだ"と思い込んでいることですよ。
 まだ本当の恋に出会えてないだけで、
 その原因を自分だとすべて抱えることが問題です」

「先生……」

「本当の恋なんて誰にもわかりません。
 でも、あなたは病気なんかじゃない。それだけは言えます」

医者の言葉に光源氏は頭の霧が晴れていくのを感じた。

「そうじゃ……僕は自分が病気だと思い込んでいたのじゃ。
 本当の恋がこれから訪れるかもしれないのに、気持ちを閉ざしていた!
 先生、ありがとうございますじゃ! 目が覚めたのじゃ!」

「本当の恋、見つけられそうですか?」

「きっと見つけてみせるのじゃ!」

すると、病室に小学生が入って来た。
同室の入院患者らしい。

「おじちゃん、だいじょぶ? けがしてない?」

小学生の女の子は小さな目をうるませて、やってきた。
それを見て光源氏は確信した。




「先生……僕、本当の恋見つけたのじゃ……!
 燃えるような恋心、熱くたぎる気持ち……間違いないのじゃ!」



「病気ですね」

光源氏はすぐにロリコン病棟へ移され、念入りな薬用治療を受けた。