ガラス張りのおやすみ競争!
「ここはどこだ……」
「ちょっとなんなのよ、これ!?」
「おい、なにか聞いていないのか」
誰も状況はわからない。
そのうち1つがふと思い出した。
「わ、私……外の人が話してるの聞いた、よ。
落ちる……とか、スリープって……言って、た」
「スリープ?」
「待ってくれ。それなら俺も聞いたぞ。
なにかテストだとも言っていた」
「何かの実験かしら?」
「誰が一番先に眠れるのか……とか?」
誰がいったのか、その一言が全員の腑に落ちた。
全員の目の色が変わる。
「こうしちゃいられねぇ! 早く寝ないと!!」
「眠りにつけばこんな状況も変わるはずよ!」
「どけぃ! わしが先に寝るんじゃ!」
一斉に眠りにつこうとやっきになる。
けれど、こんなストレス環境で眠れるわけがない。
「ムリ……だよ、こんな場所で……眠れない、よ……」
「眠くなるまで待てってのか、ばかばかしい」
「ふふふ、悪ぃが一足先に眠らせてもらうぜ!
俺はいつでもどこでも眠れるのが自慢なんだ」
得意げに語るそいつは静かになる。
誰よりも早く眠りにつく。
「ま、まずいわよ! もし先着だったら……!」
「ピピピピ!! ピピピピ!! ピピピピ!!」
「ブーー!! ブーー!!!」
「う、うるせぇぇぇぇ!!!」
どうせ眠れないなら、自分が眠くなるまで眠らせない。
周りのやつは必死に騒音を出して妨害する。
わざと音量最大でゲームをしたり、
大声で聞こえよがしに電話したりとやりたい放題。
ただの騒音よりも意味があるぶん、聞き入ってしまうので効果的。
全員ギラついた目で誰一つ眠る気配はない。
その中で1つだけ、争いを好まないのがいた。
「お、おとなしくしてれば……眠くなる、よ……。
みんな、足を引っ張り合うんじゃなくて……普通に、しよう、よ」
何もせず横になっていれば自然と眠くなる。
そうして正々堂々比べればいい。
超平和的解決のはずだったが、ギラギラした彼らには届かない。
「なによ! いい子ぶっちゃって!!」
「そういってお前さんが一番先に眠るつもりじゃろ!」
「てめぇだけは眠らせんねぇかんな!!」
悪いことに全員から反感を買ってしまった。
なおのこと騒がしくされてしまい、とても眠る状況じゃない。
はずだった。
「あれ? なんだか……眠く……」
1つがこんな騒音の中でも静かに眠り始めた。
他の奴も例によって騒音を出そうとするが、
後を追うようにばたばたと眠りにつきはじめる。
「ど、どうしちゃった、の……みんな……」
自分以外のすべてがついに眠ってしまった。
あれだけやかましかったのから一転、静まり返ってしまう。
それはそれで眠りにくい。
「私だけ……残っちゃった、の……。どうし、よう……」
静かにしていれば眠くなると思っていたが、
みんなのように騒いだ方が疲れて早く眠れたのかもしれない。
ガチャ。
そのとき、ガラス部屋のふたが開けられた。
作業員は中から電源のついてい1台のスマホを取り出した。
「バッテリーテスト、完了です。
このスマホが一番長持ちしましたね」
作業員はスリープ状態のスマホを残して、ガラスケースを閉じた。
作品名:ガラス張りのおやすみ競争! 作家名:かなりえずき