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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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自分大好き病は治らない!

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「自分を見てないと……死ぬ!?」

「はい、若い人に多い病気なんです。自分大好き病。
 あなたは自分を見ていないと死……何見てるんですか?」

「先生の瞳の中に映る自分を見てます」

「……ほらね。自分以外は興味ないのが特徴です。
 風景も、状況も、違和感や危機感も感じなくなるんです」

先生はやれやれとため息をついた。

「こればかりは薬でも臓器移植でもブラックジャックでも治せません」

「ネットでは治るって書いてました!」

「ネットよりも医者の言葉を信じてくださいよ!!

 ……とにかく、あなたは自分の症状を自覚して下さい。
 一過性のものなので、自分を見なくても大丈夫なように
 少しづつリハビリしていけば自然と治りますから」

「ここ、病院でしょう?
 なにか治る薬とかないんですか?
 せめて多少症状を和らげる薬とか!」

「薬はないですが……ビデオカメラなら」

「なんで?!」

「これで自分を撮影していれば、自分を見ないで死ぬことはないかと」

医者の勧めもありゴツいカメラを手に取った。
でも、このゴツさが幸いだった。

スマホで自撮りし続けることもできたが、盗撮だと誤解されかねない。
鏡だと光を反射しすぎて直視できない。

"自撮りしてる"とわかりやすく、光も反射しないビデオカメラは
ある意味これ以上ないくらい好都合なものだった。

「うーーん、機械はよくわからないなぁ。
 ここかな? これ? あれれ?」

適当にボタンを押しまくっているとカメラが起動した。
カメラを自分の頭に向けて撮影をはじめる。

反転して自撮り用モニターを見る。

「ああ、私って本当に美人……」

ため息が出るほどの美人。
昔から自分は人より優れた容姿だと思っていた。

モニターに映る自分こそが本当の姿。


その日から私はビデオカメラを自分に向けて生活した。
モニターに映る私は

「はーーい、これが今日の料理でーーす」
「今日は○○山まで来てみました――」
「わぁ、あの水槽のサカナ大きい!」

さまざまなリアクションを取っている。
カメラで自撮りしはじめて気づいたことで、
前よりもアクティブになった気がする。

ひとりで山にも上るし、水族館にもいく。
ビデオを回していると新しいものを撮りたくなるのかも。

「……ねえあんた」

「え、私!?」

ある日、歩いているところで声をかけられた。

「そのビデオは誰?」

「ああ、これは自分を撮影してるの。
 自分を見てないと死んじゃう病気だから」

「それ、ちょっと貸してくれない?」

「それは無理。だって自分見れないと死んじゃうし」
「すぐだから」

声をかけた人はカメラから何か抜き差しして元に戻した。
何をしているのか機械オンチの私にはわからない。

その答えは、数日後の街頭のバカでかいモニターでわかった。

「な、なんで私が映ってるの!?」

パブリックビューイングのモニターには私が映っていた。
しかも化粧品のCMまでやっている。

それだけじゃない。
町のいたるところで私のポスターやらが貼られている。

「このポスター? ああ、最近話題の謎の美人だよ」

「えへへ、嬉しいです」
「なに照れてるんだ」

まあ、肖像権とかさまざまな問題こそあれど
こうしていい感じに持ち上げられれば悪い気はしない。

「あ、そうだ! これだけ町が私一色なら
 自撮りしなくても大丈夫かもしれない!」

ビデオカメラをそっと手放した。
でも、なにか発作が起きることはなかった。

「やった! カメラなしでも大丈夫みたい! 少し改善してる!」

カメラのように至近距離で自分を見る必要がない。
これは間違いなく症状が改善している。

その足で病院に向かった。

「先生、見てください! もうカメラ必要なくなりました!」

「いや……事態は非常に深刻です……」

「どうして? こんなにも症状が改善してるのに?
 なんなら、もう病気を克服したといってもいいですよ!」

「ええ、あなたの病気はもう治っています。
 ですが、もっと深刻な病気にかかってるんですよ。気付きませんか?」

「はあ?」

医者は鏡をそっと取り出した。
鏡をのぞいてびっくりした。

だって、鏡には私じゃない人が映っていたから。

「あのビデオはすでに入っているデータを再生していたんです。
 あなたは自撮りなんてしてなかったんですよ」

「それってどういう……」

「あなたは、すでに録画されているデータを再生して、
 それを自分だと思い込んで、モニターに映る自分に合わせてたんです。
 モニターの自分がしゃべるのに合わせて、しゃべってたんです」

医者が渡した別人のビデオカメラで『自分大好き病』は治った。

これからは、『自分誤認病』のリハビリが始まる……。