果てしなくお人よしの動画サイト
『なぁ、見てるんだろ! 助けてくれ!』
ふと開いた動画では、男が1人真っ白い部屋で助けを求めている。
まるでエンターテイメント性のない退屈な動画。
『お願いだ! あんたしか助けられないんだ!』
「なんだこのクソ動画……」
『なにがクソ動画だ! こっちは必死なんだ!』
「え、ええ!? 聞こえてる!?」
『当たり前だ! こっちは動画に閉じ込められたんだ!』
「うそだろ……!?」
合いの手の入れ方から、本当に生きているみたいだ。
『なぁ、あんたオレっちを助けてくれよ。
ほかの奴は信じなかったり気味悪がったりして
すぐにWEBページを閉じてしまったんだ』
「それはわかったけど……どうすればいい?」
『閉じ込められている間、ほかの動画を調べてみたら
どうやら現実世界に触れれば元に戻るらしい』
「あいまい……」
『だってしょうがないだろ!
動画サイトに有益な情報を流すなんて少ないんだ!
Youtuberの商品宣伝ばっかしなんだ!』
その言葉に閃いた。
俺の試行錯誤を省略するアイデア。
「ユーチューバ―の動画に入ればいいんじゃないか?
あれは現実世界の人が商品を宣伝しているだろ?」
『もちろん、試したさ。でもダメだった。
現実に触れるといっても、ユーチューバ―の動画は過去のもの。
アップロードされた時点で過去になってしまってるんだ』
「まぁ、それはいいけど」
『あれ? アイデア突っぱねられたのに反応薄くない?』
「いや、思いついたアイデアはそっちじゃない」
『……え? じゃ、なにしてるの?』
「ダウンロード」
動画の男はなるほどと喜んだ。
白い部屋の中を何度もジャンプしている。
『その手があった!! どうして気付かなかったんだ!
ダウンロードされれば、この動画からおさらばできる!
なんて単純でシンプルな発想なんだ!』
「ふふふ、そういうこと」
ダウンロードボタンを押して読み込みが入ったとき。
家のインターホンが鳴った。
『誰だ?』
「タイミング悪いな……」
玄関に行くと制服の警察官が立っていた。
「午後6時45分 違法ダウンロードの現行犯で逮捕する」
「え、えええええ!?」
逮捕されてしまった。
ダウンロードはキャンセルされてしまい、
警察からも二度とやるなよと釘を2、3本刺されてしまった。
家に戻ってくるころには、げっそりと落ち込んでいた。
『だ、大丈夫か……?』
「大丈夫じゃないよ!! お前のせいでさんざんだ!!」
『悪かった、ダウンロードができないなんて知らなくて……』
「そもそも! なんで俺がお前を助けなきゃいけないんだ!
見ず知らずの男を助けるために逮捕されるなんてばかばかしい!!」
俺はウェブページのバツボタンを押した。
たちまちページは閉じられてデスクトップが画面を覆った。
「これでよかったんだ……これで……」
そうは思っても、心の中ではあの男の言葉が何度も繰り返される。
きっと、俺以外にも助けを求めていたんだろう。
でも誰も助けてくれなくて……。
アイデアが出たときは本当に喜んでいた……。
「くそ! 俺はとんだお人よしだ!!」
再び画面を開くと、動画は終盤に差し掛かっていた。
動画内の男はひざを抱えて縮こまっている。
『……よお、俺っちのことはもう気にしなくていいよ』
「そうはいくか。ここで放置したら目覚めが悪い」
『ダウンロードもできない以上、戻る方法なんてない。
また動画は最初に戻って、誰かに助けを求めるさ』
「もとに戻るには現実に触れさせればいいだよな?」
『そうだけど……どうしたんだよ、急に』
その言葉を聞いて、俺はカメラのスイッチを入れた。
『なあ、その背中側においてあるカメラはなんなんだ?』
「現実に戻すための魔法のツール」
『へ?』
今度はパソコンで生放送開始のボタンを押す。
カメラに撮られた映像がリアルタイムに出力される。
俺と、動画の男が一緒くたに同じ現実へと再生されている。
「生放送なら俺の現実と動画を合体させることができる!」
『お、おおおおお!!』
男はパソコンから引きずり出され、現実へと帰還した。
動画には何もない白い部屋が残されている。
「戻れた!! 俺っち戻れた!! ありがとう!!」
「現実だとお前、ブサイクだな」
「うっさいわ。再生回数1回の生主に言われたくないわ」
現実で会った動画の男は、動画よりも小生意気だった。
男が入っていた白い部屋の動画は削除申請を出しておいた。
これでもう誰も閉じ込められることはないだろう。
俺は動画サイトを閉じようとした。
あなたへのおすすめ
・【助けて!】動画に閉じ込められました!
・お願い! ここから出して!!
・白い部屋の動画を見たら閉じ込められた!
関連動画には、びっしりと似たような動画が表示されていた。
「もういい加減にしろーー!!」
といいつつも、全員助けるために動画を開いた。
俺はどこまでもお人よし。
作品名:果てしなくお人よしの動画サイト 作家名:かなりえずき