二人だけの秘密
二人には子供がいませんでした。
お爺さんの精力も衰え、老夫婦はお互いにそのことを口には出しませんでしたが、子供が出来ないまま余生を過ごすのかと、なんとも暗い毎日を送っていました。
そんなある日のこと。街でお爺さんはこんな話を聞きました。
「どんな願いも叶えてくれる鬼が、隣の島に住んでいるそうな。その鬼に何か宝を持っていけば、願いを叶えてくれるらしい」
お爺さんは、『おいおい、寝言は寝てから言ってくれ。しかも、鬼とは……』と思いましたが、町の中に鬼の世話になった人が何人もいることを知って、お爺さんは驚きました。
重い病が治ったとか、商売が繁盛したとか、死んだ恋人を生き返らせてもらったとか。
とすれば、その鬼に頼めば、子供が出来るかもしれません。
さっそくお婆さんにこのことを話した所、お婆さんはコンマ2秒で「欲しいっ!」と答えてくれました。とても老人の判断力とは思えません。
そして次の日。
お爺さんは家宝である金屏風を抱えて、隣の島に向かい、そして鬼に出会いました。
「爺、お前の願いはなんだ?」
「わしらに子供をお恵みください」
鬼は『なんだそんなことか、この甲斐性なしめ』と思いましたが、「たやすいことだ」と言って、願いを聞き入れてくれました。
さすがは鬼です。
人間が……いや、鬼が出来ています。
しかし、お爺さんが家に戻っても子供はいませんでした。
次の日、お爺さんはがっかりして、山に芝刈りにでかけました。
鬼は約束を破ったのだろうか……?
仕事を終えて家に戻ると、お婆さんが嬉しそうにお爺さんに駆け寄ってきました。
「川で洗濯をしていたら、でっけえ桃が流れてきたんじゃ。さ、お爺さん、一緒に食べよう」
……後々のこと。
その息子が持ち帰った財宝の中に、あの金屏風が含まれていたことは、もちろん、お爺さんとお婆さんの二人だけしか知らない。