映画 戦国生徒会
第15章: クランク・アップ
「今日で、ついにクランク・アップだな」
以前、博之の演技の問題で撮り残していた、千鶴との長台詞の絡みのワンカットは、一番最後にお盆前に撮影することになっていた。
この日は、本物の生徒会執行部役員の夏休み中の登校日であり、その中には撮影にエキストラで出演してくれている生徒もいるので、映画スタッフも全員が登校することにしていた。しかし、上坊は合宿での覗き騒動がバレて来なかったので、背格好が似ているという理由で、最も嫌悪していた桐谷が、上坊の代わりに虎吉の衣装を着て、顔が写らないように代役をさせられることになった。
撮影前、博之が龍子役の恵美莉に乗鞍高原ロケのお土産の「サルボボ」を渡すと、
「キッドォ、私も黒が良かったな」
「お前もか! どこがいいんだ?」
「忍者みたいでカッコいいでしょ」
中川がメガホンを持った。
「じゃキッド、緊張しなくてもいいから。頼むぞ」
「ああ。大丈夫だ」
他の映画スタッフは、緊張していた。なぜなら、エキストラ参加してもらっている生徒に、何度も撮り直しをお願いする訳にいかないからだ。
「生徒会長」役の博之は、これから長台詞を言い合う相手、「副会長」役の千鶴に微笑みかけた。
「それじゃ、ラストワンカット! 用意、スタート!」
カチン! とカチンコが鳴り響いて静かになった。
(木田博之) 「僕が新生徒会長!?」
(エキストラ)「そうだ。この印鑑を任せたぞ」
(木田博之) 「ありがとうございます。絶対に守って見せます」
(佐藤千鶴) 「何言ってるのよ! あなた、これがどういうことか分かってるの?」
(木田博之) 「もちろん。副会長とずーっと一緒にいられるってことです」
(佐藤千鶴) 「な、なんて悠長なこと言ってんのよ! あなたバッカじゃないの!?」
この後、執行部役員室を動き回りながら、博之と千鶴の掛け合いが延々続くのだった。出演者以外は、移動するカメラの後に付いて、音を立てないように動いた。博之の演技はまだ少しイントネーションがおかしかったが、言い回しはスムーズに出来ていた。早口の台詞も問題なくこなし、千鶴との呼吸もぴったり合った。そして3分ほども続くワンカットは、ミスなく終了した。