ケツ持ち稼業! 笹塚さーーん!
「ごめんじゃ警察をいらねぇんだよ兄ちゃん!!
さっさと肩の骨の治療費出せやコラァ!!」
もめているところに、ゆっくりと歩み寄る。
コツは"こんなことも慣れてる"と見せることだ。
「あ! 笹塚さん!」
絡まれていた男は俺を見るなり顔が緩んだ。
「さ、笹塚……さん!?
あの、いくつも暴力団をひとりで壊滅させた!?」
「おう」
いつもよりワントーン落とした声で返事する。
そして、さも意識してないように絡まれた男に声をかける。
「で、こいつ誰?」
「さ、さっき肩ぶつかったときに折れたとかで……。
慰謝料を求められてるんですよ」
「ふぅん」
ガラの悪そうな男をじろりと見て、一言。
「もいっこも、折ろうか?」
「ごごごごごごめんなさい! 折れてません!
お騒がせしました! 許してください!!」
さっきまでの威勢はどこへやらで男は逃げた。
「笹塚さん、さすがです!
笹塚さんにケツ持ちやってもらって本当に助かりました」
「おう」
俺は金を受け取って去った。
心臓はバクバク鳴って、今にもちびりそうだった。
相手、めっちゃこわい。
本当に殴られるかと思った。よかったーーー。
ケツ持ち。
やくざなどがバックにつくことで、トラブルを解決する。
普通は組織などを後ろ盾にするのが多いが、俺は個人事業。
安い値段と、恐ろしい武勇伝を盾にケツ持ちをしている。
「まあ……武勇伝なんて全部うそだけど……」
昔からウソは得意で、飲み会の席で調子こいてしゃべったのが原因。
噂が独り歩きしてついには反社会勢力まで伝わった。
今じゃ過去の経歴(嘘)を引けに出すだけで、みんな逃げる。
「っと、電話か」
『もしもし? 笹塚さん!? 助けてください!!
ガラの悪い奴に絡まれて……あ――ブツッ』
「おう」
都会で生きていくにトラブルはつきもの。
ケンカっ早い人間はごまんといる。
さて、仕事しに行きますか。
髪をキメて、眉間にしわをよせて、ドスの利いた顔を作る。
血っぽいにじみを残した服に袖を通して、いざ急行。
現場につくと、電話した男の前に土下座したおっさんが一人。
「あ、笹塚さん!」
「なんだ、もう解決してるみてぇじゃねぇか」
良かったーー!!
俺なんかケンカとかできるわけない!
穏便に解決されていればなんの文句もない。
「で、こいつ誰?」
いつものフォーマットで会話を続ける。
威厳を保つにはこのパターンが必須なのだ。
土下座おっさんは顔をあげる。
「実は……笹塚さんをお呼びしたくて、難癖をつけたんです」
「あ?」
「笹塚さんにつぶして欲しい暴力団があるんです!
いくつもの組織を壊滅させた笹塚さんにしか頼めないんです!」
ムリムリムリ!!
それ酒の席でいった冗談だから!!
し、しかし断れば俺の仕事生命も終わる。
「お、おう……」
「声震えてませんか?」
「震えてねぇよ」
足は震えてるけどな。
「笹塚さん、やってくれますか!? お金なら出します!」
「そういう問題じゃねぇよ」
1人で壊滅させるのが無理なんだよぉぉぉ!!
発するセリフと心の声との葛藤で頭がおかしくなりそう。
「え……!? まさかただでやってくれるんですか!?
笹塚さん……! あなたって人は……!」
「え」
「それじゃお願いします!」
「おう」
やんわり断るはずが、了承してしまった。
その帰りに、こっそり依頼された暴力団事務所に行ってみると
入口に番兵を置くほどの気合いの入りよう。
こんなところに乗り込んだら3枚におろされてしまう。
「ど、どうしよう……」
肩書きだけの強さでケツ持ち稼業をやっていた。
それだけに1回でも失敗すれば致命的になる。
俺の肩書きを疑われたら完全に廃業だ。
肩書きがなければ俺なんて、色白のひょろ人間なんだから。
「まずいまずい!! このままじゃ完全に終わる!」
追い込まれた俺は必死に頭を回す。
でも思いつかないので任侠映画を見て勉強することに。
「そうだ! 組織を対立させればいいんだ!!」
映画から作戦を思いついた。
任侠映画では組同士のなんだかわからない対立で
組員がばっさばっさと死んでいく。
組織同士を対立させて共倒れさせて、俺の手柄にすればいい。
どっちも壊滅したら、連合軍を俺一人で倒したとかにすればいい。
「よし! さっそく対立……」
そこで止まった。
どうやって対立させればいいのか。
そんな方法は何もない。
暴力団じゃないにせよ、火のない所に煙は立たない。
焚き付けるにも俺は暴力団を襲撃する勇気なんてない。
・
・
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気が付けば、期限は明日にまで迫っていた。
何をどうやっても組織同士を争わせるなんてできない。
なにより、危ない場所に関わりたくない。
「もう終わりだ……。
俺の肩書きが嘘だってばれて、今までの敵から
ボコボコにされてしまうんだ……ああぁぁぁ……」
死を悟った俺はパソコンに自分の遺書を残すことに。
パソコンを開いたら、またアイデアが思いついた。
「そうだ……この組織をぶつければ……!!」
数日後、土下座おっさんが嬉しそうにやってきた。
「笹塚さん、さすがです!!
あの暴力団、見事に壊滅してました!!」
「おう」
「でも、暴力団の本拠地はまっさらできれいでした!
笹塚さんなら、抗争すらせずに収束させちゃうんですね!」
「まあな」
俺は額から出るあぶら汗を必死に抑えて話を終えた。
い、言えない……。
俺が暴力団に焚き付けたのはPTAだったなんて……。
作品名:ケツ持ち稼業! 笹塚さーーん! 作家名:かなりえずき