証 - A・KA・SHI -
多分、3ヶ月か4ヶ月ぐらい前だったと思う。
まず最初に気になったのが、男との電話が増えたこと。それもどうやら特定の男らしい。長い時は3時間以上も話してる。
僕が『明日は仕事なんだから、早く寝ようよ』と言っても、電話の声に笑っていたりする。彼女だってきっと眠いはずなのに、電話を切らないのはなぜなんだろう?
電話の男が好きなのだろうか?
以前は僕のことだけを『大好き』と言ってくれたのに。『カワイイ』と言ってくれたのに。なのに最近はその後に『けど』という文字がくっつくのだ。
『カワイイけど』・・・・・・いったいなんなの?
そりゃあ以前よりは体重は増えてしまったけど、それは成長期なんだから仕方がないじゃないか。
ひょっとして、僕のこと嫌いになったのだろうか?
僕なんかより電話の男のほうがいいのだろうか?
彼女が休日に出かけるのはずっと前からで、それについては何の問題もない。問題なのは、微妙に帰りが遅くなってるってことだ。
例の男と会っているのだろうか?
そう考えると、僕はムカムカしてくる。
彼女は僕のものだったのに。彼女の手は僕を撫でるためにあるはずなのに。
つい、カッとなって、彼女の手にキズをつけたことがある。
彼女は『痛ぁい』と言って僕をにらんだけど、僕は謝らなかった。
そのキズは・・・・・・『証』だから。
彼女が外で男と会っていても、僕のことを思い出すための『証』。
男がそのキズを見て、彼女が誰のものであるかをわからせるための『証』。
だから、彼女がちゃんと僕を見てくれるまで僕は彼女の手にキズを作り続けるんだ。
罪悪感は・・・・・・ある。だってそれは、僕の事を見てくれなくなった彼女にだって責任があるんだ。僕だけが悪いわけじゃない。
今日はクリスマス・イブ。
彼女はいつもより仕事を早く終わらせて、ママさんに『ゴメン』と言って家を出ていった。
今日は大切な日だから彼女もきっと例の電話の男に会いにいくのだ。
僕は追いかけることは出来ない。いつも留守番だ。
だったら僕にだって僕のやり方がある。今日彼女が帰ってきたら、とっておきの笑顔で言ってやるんだ。『メリークリスマス』って。
僕はママさんとパパさんの部屋でずっと彼女が帰ってくるのを待っていた。
やがて、やっぱりいつもより少し遅くに彼女が帰ってきた。
僕はママさんをつついて、いつものように部屋の外に出してもらう。
彼女が赤い袋を持って玄関に立っていた。
僕に気づいて、そっと小声で彼女は「ただいま」と言った。
僕は彼女に向かって、満面の笑顔で答えたんだ。
「ニャア」
作品名:証 - A・KA・SHI - 作家名:じりおら