誰か俺の代わりにプロット書いてよぉ!
「まだまだ様子を見ないといけませんね」
「いや、もう治ってますけど」
兄とともに事故に遭ったのが半年前。
自分ではすっかり治っているのに通院は続いている。
「では、また病院に来てください」
「またぁ!?」
半年前の事故で兄は死に、俺はケガをした。
そのケガをまだ治せないなんて、実はヤブ医者なんじゃないか。
俺は納得いかないまま家に帰った……。
(了)
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「ふぅ……終わった」
小説を投稿するとひと息ついた。
もともとは兄の趣味だった執筆だが、事故を機に初めて見た。
といっても、ネットで公開するWeb小説だし
内容は創作というよりも日記に近い。
毎日感じたことや体験したことをしたためている。
半分以上が通院に対するグチだけど。
「……アクセス数、4か」
およそ創造力がない俺の日記に評価はつかない。
投稿サイトで書いている以上、ポイントは気になってしまう。
「くそ……。でも、ファンタジーなんて書けないしなぁ」
なんとか人気を取りたいものの、
病院の悪口ばかり書いているもんだから何も思いつかない。
その日はあきらめて寝た。
翌日、小説サイトの自分のページに行くと変化があった。
プロフィールが勝手に更新されている。
ハッキングやコンピュータウイルスを疑う前に
そこに書き込まれている内容にくぎづけになった。
「これ……プロットか……!?」
小説のプロットがマイページに書き込まれていた。
その面白さに、ウイルスやハッキングなどといった邪念は吹っ飛んだ。
すぐさまプロットをもとに小説を書く。
今まで日記しか書いてこなかった俺が初めて創作した。
結果は大成功で、サイト内で俺の評価は爆増した。
>本当に面白かったです!
>早く続きが読みたいです
>書籍化して文庫本でも読みたい!
「おおお! やった! やったぞ!!」
念願の人気作家の仲間入り。
調子に乗って、通院日記もまた投稿してみた。
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今日も通院。
医者からは
「まだ治らないのか」「自覚してないのか」
など、いつもと同じ問いかけ。
もう治ってるつーの。
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が、こっちは相変わらず低評価。
「ちくしょーーーーー!!」
血の涙が流れた。
プロットはその日だけでなく、毎日目が覚めると書かれていた。
それをもとに書いた小説は大人気。
まさに姿の見えない人との共同執筆。
最近は漫画でも脚本と絵を描く人は別のもあるので、
こういうやり方もあるかもしれない。
気になるのは、書いているのが誰なのか。
「うーーん、ちょっと監視してみようか」
サイトのマイページをじっと見つめて
更新されるのをまったことがある。
途中で眠ったスキに更新されていた。
「……きっとネットワークを介して
誰か俺のファンが書き込んでるんだ! そうに違いない!」
犯人を特定できなかったことを棚上げして、
勝手にそういうことで納得した。
次の日、いつも通り病院に行った。
「治るのには時間かかりますから……」と医者。
「だから治ってるって!
折れた腕も治って、足も今じゃ100m走れます!」
「まずは自分で自覚してもらわないと……」
今日も平行線。
いらいらしながら家に帰って、サイトを立ち上げる。
いつも通りプロットを小説に書き起こそうとした。
「あれ!? これ……まさか……兄貴……!?」
どうして今まで気が付かなかったのか。
書かれているプロットは兄の面影がある。
慌てて兄の部屋を漁ると別の小説のプロットが出てきた。
内容は、俺のマイページに書かれるプロットとは違うが
書筋や展開の仕方を見ていると、どう見ても同一人物。
「兄貴……小説書くの好きだったもんな……。
きっと死んでも魂がネットの中に残ってたんだ」
今までプロットを書いていた人を探していた。
でも、こんなに近くにいたなんて。
その日から、俺は小説執筆者の部分に兄も書くようにした。
兄弟で書いた作品はまた人気になった。
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翌日、通院すると医者が腹をくくった顔をしていた。
「やはり、ここは荒療治しかないと思います」
「何する気ですか!? ケガは治ってますよ!?」
何されるのか。こんなにも健康体なのに。
「あなたは、弟ではなく兄なんですよ。
事故で死んだのは弟の方です。
本当は自覚して過去を乗り越えてほしかったんですが……」
「え? それじゃ俺の病気ってケガじゃなくて……」
「解離性同一性障害。つまり……二重人格です」
その後、親に聞いたら、俺が寝た後にいきなり起き上がり
小説のプロットを書いたかと思えばまた寝る。
そんな奇妙な姿が何度も見られたらしい。
作品名:誰か俺の代わりにプロット書いてよぉ! 作家名:かなりえずき