みんな余命1日
布団に入ると、今日の出来事を振り返る。
「今日も充実した1日だったなぁ、よし、死のう」
目をつむると、静かに俺は息を引きった。
翌日、既定の時間に蘇生されると紙が置かれている。
昨日の記憶なんて死んでないから、
毎朝政府から発行される労働指示にそって毎日仕事する。
それがこの世界。
すべての人間が余命1日の世界。
みんな毎日死んで、毎日蘇る。
わずらわしい人間関係も、明日に引きずる二日酔いも
頭の隅にある悩みも、体にたまった疲れもなにもかも死んで消える。
「過去を気にしないだけで、こんなにも楽だなんてなぁ」
最初は抵抗のあったこの生活もしだいに慣れた。
「よし、今日は時間あるし部屋の掃除でもしてようかな」
と、思った矢先足元にメモが落ちていた。
反射的にそれを隠して誰にも見られないようにする。
メモをはじめ、過去の出来事を記録するのは犯罪。
すべて死んでリセットされなければならない。
それがこの世界のルール。
「で、でも……ちょっとだけならいいよな」
メモには殴り書きでかかれていた。
>10/19 杉川をさがせ
「……だれ?」
人名だとはわかるけど、毎日死んでるので身に覚えもない。
携帯の電話帳にも登録されてないから友達出もなさそう。
パソコンを調べてみると、入り組んだフォルダの中にメモファイルが残していた。
しかも2つ
・本当にお世話になった恩人。いくら感謝してもしきれない
・心から尊敬できる人。優しい人
1行で要約するとこんな感じ。
めっちゃ褒めちぎる言葉がつづられていた。
「……杉川って人、そんなに素晴らしい恩人なのか。身に覚えないけど」
ここまでくると気になって仕方がない。
友達に連絡しまくって「杉川」なる人物を探すことに。
・
・
・
「ここか。あっさり見つかったな」
ついに杉川の住所を特定した。
友達に電話をかけているうちに、杉川に心当たりのある人間を見つけた。
どうせみんな毎日死ぬから、知ってる情報をばらすことに抵抗はない。
胸に貯めた罪悪感なんて明日には消えている。
「あの、誰かいませんか――」
「はい、なんでしょう」
家から出てきたのは、キレイな女性。
「あなたが杉川さん?」
「ええ、それがどうしたんですか?」
状況を飲み込めないきょとんとした顔。それすらも美人。
「実は生前、俺はあなたにだいぶお世話になったみたいで、そのお礼……」
「いたぞ!! こっちだ!!」
俺が言い切らないうちに、遠くから声がした。
ただならぬ危機感を感じた俺は、彼女の手の引いて逃げた。
まもなく、警察が血相変えてこちらへ走ってくる。
とっさの判断だったので無意識だったが、俺は「過去の所持者」。
麻薬を隠し持っているような状況。
絶対に捕まるわけにはいかない。
「はぁっ……はぁっ……! 君、俺のこと知ってる!?」
「し、知らない! でも……ついさっき、私の家のこれが……!」
女が見せたのは、見覚えのある紙質。
まさか彼女のところにも、俺のメモがあったなんて。
「朝起きたら、誰にも見られないように……みたいに強く握ってたの。
このメモになんの意味があるのか……」
「きっと、あなたがどんなに素晴らしい人間かを俺が書いたんだよ。
それを大事に守ってくれていたんだね」
「そんなふうに言ってもらえるなんて……。
はい、これがメモです。あなたなら意味がわかるかも」
なんて甘い言葉のやりとりをする間もなく、警察が先回り。
小説の中に出てくる国家権力は無能というのが相場なのに。
「おとなしくしろ!!」
「くっ……こうなったら……!」
完全に警察に包囲された俺は腹をくくった。
思い切り警察の方へ飛び出すと、道を切り開いた。
「さぁ、俺にかまわず先へ行くんだ!!」
ヒロインを救う英雄のように、かかんに挑んだ。
こんな思い切った行動やこっ恥ずかしいセリフを言えるのも
明日には死んで何もかもなくなるという安心感もある。
「ありがとう! あなたのこと、忘れないわ!!」
彼女は俺の開いた道をまっすぐ。警察を振り切って逃げていった。
これでよかった。彼女さえ助かれば……。
「おいお前。いったいなぜ逃げたんだ」
「……自供をうながすんですね。わかりました。
もう知ってるでしょうが、俺はメモを残していました」
「な、なにぃ!? そうなのか!?」
「……え?」
警察の新鮮すぎるリアクションに違和感を覚えた。
「え? だって、俺がメモを残したことを知ってて、追いかけて来たんじゃ……」
「我々は、ここで起きた殺人事件を追っていただけで、話が聞きたいだけです。
ちょうど、あなたと同じくらいの牧野という男性が殺されましてね。
その証言を集めたいと思ってたんですよ」
すべては俺の被害妄想だった。
「いきなり全力で逃げるもんだから、我々も疑っちゃうでしょ」
「そ、それじゃ俺はこれで……」
そろりそろりと、その場を立ち去る。
……けれど、すぐに警察の服を着たゴリラに襟首をつかまれる。
「お前が誰であれ、過去を持ち込んだ罪は別だぞ☆」
「で、デスヨネー……」
俺は見た目が怪しそうという理由で終身刑を言い渡された。
といっても、今日中に死ぬので危機感はなかった。
※ ※ ※
男を逮捕した警察たちは、男の所有物を洗いだした。
「あぁ、これだな容疑者の言っていた「メモ」は」
「政府で過去の記載は犯罪だとされているのに、メモを残すなんて」
警察官2人はだんだんとメモの方に興味が出てきた。
袋とじを開ける前の男の顔をしている。
「なぁ、メモはなんて書いているんだ?」
「10/19 杉川をさがせ」
「容疑者のケータイは?
「本当にお世話になった恩人。いくら感謝してもしきれない
心から尊敬できる人。優しい人……だとさ」
「おい、紙はもう1枚あるじゃないか」
「あ、ほんとだ」
警察官は、もともと女が持っていたメモを手に取った。
「なんか殺すとか書いてあるけど、どういうことなんだろうな」
持ち物をあさっていた警察官は飽きてしまった。
もう1人はまだ興味があるらしく紙とデータのメモを見比べた、
「おい、お前、読む順序バラバラじゃないか。
メモが書かれた日付に合わせて読んでみろよ」
警察によってメモの並び替えが行われた。
そのメモの中には、女が握りこんでいたメモも加えられた。
--------------------------------------
10/16
・本当にお世話になった恩人。いくら感謝してもしきれない
10/17
・心から尊敬できる人。優しい人
10/18
・そんな先生が、杉川に殺された。絶対に許さない。
10/19
・杉川をさがせ
--------------------------------------
警察官は顔を見合わせた。
「なぁ、もしかして俺たちの追っていた殺人犯って……」
「さっき取り逃がした女、杉川だったのか?」
間違いに気づくころには、時計の針が頂点を示していた。
全人類が死静まり、警察官も息を引き取った。
「今日も充実した1日だったなぁ、よし、死のう」
目をつむると、静かに俺は息を引きった。
翌日、既定の時間に蘇生されると紙が置かれている。
昨日の記憶なんて死んでないから、
毎朝政府から発行される労働指示にそって毎日仕事する。
それがこの世界。
すべての人間が余命1日の世界。
みんな毎日死んで、毎日蘇る。
わずらわしい人間関係も、明日に引きずる二日酔いも
頭の隅にある悩みも、体にたまった疲れもなにもかも死んで消える。
「過去を気にしないだけで、こんなにも楽だなんてなぁ」
最初は抵抗のあったこの生活もしだいに慣れた。
「よし、今日は時間あるし部屋の掃除でもしてようかな」
と、思った矢先足元にメモが落ちていた。
反射的にそれを隠して誰にも見られないようにする。
メモをはじめ、過去の出来事を記録するのは犯罪。
すべて死んでリセットされなければならない。
それがこの世界のルール。
「で、でも……ちょっとだけならいいよな」
メモには殴り書きでかかれていた。
>10/19 杉川をさがせ
「……だれ?」
人名だとはわかるけど、毎日死んでるので身に覚えもない。
携帯の電話帳にも登録されてないから友達出もなさそう。
パソコンを調べてみると、入り組んだフォルダの中にメモファイルが残していた。
しかも2つ
・本当にお世話になった恩人。いくら感謝してもしきれない
・心から尊敬できる人。優しい人
1行で要約するとこんな感じ。
めっちゃ褒めちぎる言葉がつづられていた。
「……杉川って人、そんなに素晴らしい恩人なのか。身に覚えないけど」
ここまでくると気になって仕方がない。
友達に連絡しまくって「杉川」なる人物を探すことに。
・
・
・
「ここか。あっさり見つかったな」
ついに杉川の住所を特定した。
友達に電話をかけているうちに、杉川に心当たりのある人間を見つけた。
どうせみんな毎日死ぬから、知ってる情報をばらすことに抵抗はない。
胸に貯めた罪悪感なんて明日には消えている。
「あの、誰かいませんか――」
「はい、なんでしょう」
家から出てきたのは、キレイな女性。
「あなたが杉川さん?」
「ええ、それがどうしたんですか?」
状況を飲み込めないきょとんとした顔。それすらも美人。
「実は生前、俺はあなたにだいぶお世話になったみたいで、そのお礼……」
「いたぞ!! こっちだ!!」
俺が言い切らないうちに、遠くから声がした。
ただならぬ危機感を感じた俺は、彼女の手の引いて逃げた。
まもなく、警察が血相変えてこちらへ走ってくる。
とっさの判断だったので無意識だったが、俺は「過去の所持者」。
麻薬を隠し持っているような状況。
絶対に捕まるわけにはいかない。
「はぁっ……はぁっ……! 君、俺のこと知ってる!?」
「し、知らない! でも……ついさっき、私の家のこれが……!」
女が見せたのは、見覚えのある紙質。
まさか彼女のところにも、俺のメモがあったなんて。
「朝起きたら、誰にも見られないように……みたいに強く握ってたの。
このメモになんの意味があるのか……」
「きっと、あなたがどんなに素晴らしい人間かを俺が書いたんだよ。
それを大事に守ってくれていたんだね」
「そんなふうに言ってもらえるなんて……。
はい、これがメモです。あなたなら意味がわかるかも」
なんて甘い言葉のやりとりをする間もなく、警察が先回り。
小説の中に出てくる国家権力は無能というのが相場なのに。
「おとなしくしろ!!」
「くっ……こうなったら……!」
完全に警察に包囲された俺は腹をくくった。
思い切り警察の方へ飛び出すと、道を切り開いた。
「さぁ、俺にかまわず先へ行くんだ!!」
ヒロインを救う英雄のように、かかんに挑んだ。
こんな思い切った行動やこっ恥ずかしいセリフを言えるのも
明日には死んで何もかもなくなるという安心感もある。
「ありがとう! あなたのこと、忘れないわ!!」
彼女は俺の開いた道をまっすぐ。警察を振り切って逃げていった。
これでよかった。彼女さえ助かれば……。
「おいお前。いったいなぜ逃げたんだ」
「……自供をうながすんですね。わかりました。
もう知ってるでしょうが、俺はメモを残していました」
「な、なにぃ!? そうなのか!?」
「……え?」
警察の新鮮すぎるリアクションに違和感を覚えた。
「え? だって、俺がメモを残したことを知ってて、追いかけて来たんじゃ……」
「我々は、ここで起きた殺人事件を追っていただけで、話が聞きたいだけです。
ちょうど、あなたと同じくらいの牧野という男性が殺されましてね。
その証言を集めたいと思ってたんですよ」
すべては俺の被害妄想だった。
「いきなり全力で逃げるもんだから、我々も疑っちゃうでしょ」
「そ、それじゃ俺はこれで……」
そろりそろりと、その場を立ち去る。
……けれど、すぐに警察の服を着たゴリラに襟首をつかまれる。
「お前が誰であれ、過去を持ち込んだ罪は別だぞ☆」
「で、デスヨネー……」
俺は見た目が怪しそうという理由で終身刑を言い渡された。
といっても、今日中に死ぬので危機感はなかった。
※ ※ ※
男を逮捕した警察たちは、男の所有物を洗いだした。
「あぁ、これだな容疑者の言っていた「メモ」は」
「政府で過去の記載は犯罪だとされているのに、メモを残すなんて」
警察官2人はだんだんとメモの方に興味が出てきた。
袋とじを開ける前の男の顔をしている。
「なぁ、メモはなんて書いているんだ?」
「10/19 杉川をさがせ」
「容疑者のケータイは?
「本当にお世話になった恩人。いくら感謝してもしきれない
心から尊敬できる人。優しい人……だとさ」
「おい、紙はもう1枚あるじゃないか」
「あ、ほんとだ」
警察官は、もともと女が持っていたメモを手に取った。
「なんか殺すとか書いてあるけど、どういうことなんだろうな」
持ち物をあさっていた警察官は飽きてしまった。
もう1人はまだ興味があるらしく紙とデータのメモを見比べた、
「おい、お前、読む順序バラバラじゃないか。
メモが書かれた日付に合わせて読んでみろよ」
警察によってメモの並び替えが行われた。
そのメモの中には、女が握りこんでいたメモも加えられた。
--------------------------------------
10/16
・本当にお世話になった恩人。いくら感謝してもしきれない
10/17
・心から尊敬できる人。優しい人
10/18
・そんな先生が、杉川に殺された。絶対に許さない。
10/19
・杉川をさがせ
--------------------------------------
警察官は顔を見合わせた。
「なぁ、もしかして俺たちの追っていた殺人犯って……」
「さっき取り逃がした女、杉川だったのか?」
間違いに気づくころには、時計の針が頂点を示していた。
全人類が死静まり、警察官も息を引き取った。