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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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みんな余命1日

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布団に入ると、今日の出来事を振り返る。

「今日も充実した1日だったなぁ、よし、死のう」

目をつむると、静かに俺は息を引きった。
翌日、既定の時間に蘇生されると紙が置かれている。

昨日の記憶なんて死んでないから、
毎朝政府から発行される労働指示にそって毎日仕事する。

それがこの世界。
すべての人間が余命1日の世界。

みんな毎日死んで、毎日蘇る。

わずらわしい人間関係も、明日に引きずる二日酔いも
頭の隅にある悩みも、体にたまった疲れもなにもかも死んで消える。

「過去を気にしないだけで、こんなにも楽だなんてなぁ」

最初は抵抗のあったこの生活もしだいに慣れた。

「よし、今日は時間あるし部屋の掃除でもしてようかな」

と、思った矢先足元にメモが落ちていた。
反射的にそれを隠して誰にも見られないようにする。

メモをはじめ、過去の出来事を記録するのは犯罪。

すべて死んでリセットされなければならない。
それがこの世界のルール。

「で、でも……ちょっとだけならいいよな」

メモには殴り書きでかかれていた。

>10/19 杉川をさがせ

「……だれ?」

人名だとはわかるけど、毎日死んでるので身に覚えもない。
携帯の電話帳にも登録されてないから友達出もなさそう。

パソコンを調べてみると、入り組んだフォルダの中にメモファイルが残していた。
しかも2つ

・本当にお世話になった恩人。いくら感謝してもしきれない
・心から尊敬できる人。優しい人

1行で要約するとこんな感じ。
めっちゃ褒めちぎる言葉がつづられていた。

「……杉川って人、そんなに素晴らしい恩人なのか。身に覚えないけど」

ここまでくると気になって仕方がない。
友達に連絡しまくって「杉川」なる人物を探すことに。

 ・
 ・
 ・

「ここか。あっさり見つかったな」

ついに杉川の住所を特定した。
友達に電話をかけているうちに、杉川に心当たりのある人間を見つけた。

どうせみんな毎日死ぬから、知ってる情報をばらすことに抵抗はない。
胸に貯めた罪悪感なんて明日には消えている。

「あの、誰かいませんか――」

「はい、なんでしょう」

家から出てきたのは、キレイな女性。

「あなたが杉川さん?」

「ええ、それがどうしたんですか?」

状況を飲み込めないきょとんとした顔。それすらも美人。

「実は生前、俺はあなたにだいぶお世話になったみたいで、そのお礼……」



「いたぞ!! こっちだ!!」

俺が言い切らないうちに、遠くから声がした。
ただならぬ危機感を感じた俺は、彼女の手の引いて逃げた。

まもなく、警察が血相変えてこちらへ走ってくる。

とっさの判断だったので無意識だったが、俺は「過去の所持者」。
麻薬を隠し持っているような状況。

絶対に捕まるわけにはいかない。

「はぁっ……はぁっ……! 君、俺のこと知ってる!?」

「し、知らない! でも……ついさっき、私の家のこれが……!」

女が見せたのは、見覚えのある紙質。
まさか彼女のところにも、俺のメモがあったなんて。

「朝起きたら、誰にも見られないように……みたいに強く握ってたの。
 このメモになんの意味があるのか……」

「きっと、あなたがどんなに素晴らしい人間かを俺が書いたんだよ。
 それを大事に守ってくれていたんだね」

「そんなふうに言ってもらえるなんて……。
 はい、これがメモです。あなたなら意味がわかるかも」

なんて甘い言葉のやりとりをする間もなく、警察が先回り。
小説の中に出てくる国家権力は無能というのが相場なのに。

「おとなしくしろ!!」

「くっ……こうなったら……!」

完全に警察に包囲された俺は腹をくくった。
思い切り警察の方へ飛び出すと、道を切り開いた。

「さぁ、俺にかまわず先へ行くんだ!!」

ヒロインを救う英雄のように、かかんに挑んだ。
こんな思い切った行動やこっ恥ずかしいセリフを言えるのも
明日には死んで何もかもなくなるという安心感もある。

「ありがとう! あなたのこと、忘れないわ!!」

彼女は俺の開いた道をまっすぐ。警察を振り切って逃げていった。
これでよかった。彼女さえ助かれば……。

「おいお前。いったいなぜ逃げたんだ」

「……自供をうながすんですね。わかりました。
 もう知ってるでしょうが、俺はメモを残していました」

「な、なにぃ!? そうなのか!?」


「……え?」

警察の新鮮すぎるリアクションに違和感を覚えた。

「え? だって、俺がメモを残したことを知ってて、追いかけて来たんじゃ……」

「我々は、ここで起きた殺人事件を追っていただけで、話が聞きたいだけです。
 ちょうど、あなたと同じくらいの牧野という男性が殺されましてね。
 その証言を集めたいと思ってたんですよ」

すべては俺の被害妄想だった。

「いきなり全力で逃げるもんだから、我々も疑っちゃうでしょ」

「そ、それじゃ俺はこれで……」

そろりそろりと、その場を立ち去る。
……けれど、すぐに警察の服を着たゴリラに襟首をつかまれる。

「お前が誰であれ、過去を持ち込んだ罪は別だぞ☆」

「で、デスヨネー……」

俺は見た目が怪しそうという理由で終身刑を言い渡された。
といっても、今日中に死ぬので危機感はなかった。


※ ※ ※

男を逮捕した警察たちは、男の所有物を洗いだした。

「あぁ、これだな容疑者の言っていた「メモ」は」

「政府で過去の記載は犯罪だとされているのに、メモを残すなんて」

警察官2人はだんだんとメモの方に興味が出てきた。
袋とじを開ける前の男の顔をしている。

「なぁ、メモはなんて書いているんだ?」

「10/19 杉川をさがせ」

「容疑者のケータイは?

「本当にお世話になった恩人。いくら感謝してもしきれない
 心から尊敬できる人。優しい人……だとさ」

「おい、紙はもう1枚あるじゃないか」

「あ、ほんとだ」

警察官は、もともと女が持っていたメモを手に取った。

「なんか殺すとか書いてあるけど、どういうことなんだろうな」

持ち物をあさっていた警察官は飽きてしまった。
もう1人はまだ興味があるらしく紙とデータのメモを見比べた、

「おい、お前、読む順序バラバラじゃないか。
 メモが書かれた日付に合わせて読んでみろよ」

警察によってメモの並び替えが行われた。
そのメモの中には、女が握りこんでいたメモも加えられた。

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10/16
・本当にお世話になった恩人。いくら感謝してもしきれない

10/17
・心から尊敬できる人。優しい人

10/18
・そんな先生が、杉川に殺された。絶対に許さない。

10/19
・杉川をさがせ
--------------------------------------

警察官は顔を見合わせた。

「なぁ、もしかして俺たちの追っていた殺人犯って……」

「さっき取り逃がした女、杉川だったのか?」

間違いに気づくころには、時計の針が頂点を示していた。
全人類が死静まり、警察官も息を引き取った。

作品名:みんな余命1日 作家名:かなりえずき