UFOがやってきた
宿題のリコーダーが、ちっともうまくふけなくて、ぼくはいらいらしていた。
ビギャ〜〜 ピャラリラ〜 ピャー♪
「まこと! ご近所迷惑よ」
やけくそになって、めちゃくちゃにふいたら、下の部屋からママがどなった。そのとき、
ガチャーン!
とつぜん窓ガラスが割れて、何かが飛び込んできたんだ。
びっくりしてふり向いたとたん、それがおでこにぶつかって、目から火が出た。
「あいたたたた」
おでこを押さえてうずくまった足もとに、
へんなものがころがっていた。
銀色で、お皿を二枚あわせたような形をして、大きさは帽子くらい。横にいくつか丸い窓がついていて、中に小さな人がいる。
え? これって。も、もしかして?
本物のUFO? 本物の宇宙人?
心臓がどきんと大きく波打った。
いつかテレビで見たっけ。宇宙人と出会った体験。それがぼくにも?
すごい、すごいぞ!
床にはいつくばって、痛みも忘れて見ていると、ドアが開いて人が出てきた。こわい顔してぶつぶつ言ってる。
「カイナジャタレワコ デイセノエマオ」
ぼくに怒ってるの?
じょうだんじゃない。怒りたいのはこっちだよ。でっかいたんこぶができたんだから。
ぼくがぬうっと顔を近づけたら、その人はびくっとして、あとずさった。
「ねえ、宇宙人でしょ?」
って、聞いたら、
「そうだ。君のふく、あまりにもひどい笛の音のせいで、計器が狂って操縦不能になってしまったのだ」
今度は日本語で答えた。いきなり言葉が通じるようになったので、ぽかんとしていたら、
「これで君のことばを理解した」
って、耳につけた小さな装置を指さした。
どんなことばも一度聞いたら、一瞬で翻訳できるんだって。
「へえ。すごいんだね」
ぼくが感心すると、宇宙人は気をよくしたらしく、聞きもしないのに、いろんなことを話し出した。
自分の星は地球よりも科学が進んでいるとか、このUFOは地球にはない金属でできていて、ぜったいこわれないとか。いずれは宇宙全部を支配するために偵察にきたとか。
でも、この手の話はテレビでよくやってるからね。とくにおどろくことでもないので、平気な顔をしていたら、宇宙人は真顔になって、おどすような口調になったんだ。
「わたしの星の軍団が、この地球を攻めてきたら、どうする?」
「別にぃ。心配ないよ。だって、地球にはカミナリ戦隊ピカレンジャーがいるし、正義の味方ジャイアントマンだって、呼べばきてくれるからね」
それで、ぼくはビデオを見せてやったんだ。
地球を侵略しにきた悪い宇宙人や怪獣を、ばったばったとなぎ倒す、正義のヒーローの活躍を、食い入るように見ていた宇宙人は、たちまち青ざめて、
「よ、よくわかった。母星に報告する」
と、あわててUFOに乗り込んだ。
「まこと。だいじょうぶ?」
ママの声で目が覚めた。
「窓ガラスの割れる音がしたので、びっくりしてきてみたら、たおれてるんだもの……」
あれ? ぼくは気を失っていたのか。じゃあ、いままでのは夢?
いや、ちがう。おでこはずきずき痛むし、部屋を見回すと、机の下で、小さな宇宙人がぶるぶる震えている。
「なにこれ? こんなものが飛び込んできたの? あぶないわねぇ」
ぼくのおでこに湿布を貼ったママは、UFOをつまみ上げると、ゴミ箱に放り込んだ。
UFOは、ママが踏んづけたらしく、形がゆがんでいる。
なにがこわれない金属だよ。ぼくはふきだしそうになった。
ママが部屋から出て行くと、宇宙人はあたふたとUFOに乗って、窓から逃げていった。
「おぼえてろ」
って、すてぜりふを残して。
ピロ〜ピリ〜ビュ〜
ひょろひょろと飛んでいくUFOに向かって、リコーダーをひと吹きしたら、たちまち墜落しちゃった。
かわいそうだから、宇宙人は助けてやろう。
落ちたのは、たしか、公園のあたりだっけな。
おやつを食べたら、さがしにいこうっと。