ネットワークに住まう神!
昨日、ウイルス対策ソフトを買いに行くと
使いまわしのパスワードは危険だと注意されまくり
変更したまではよかったけど忘れてしまった。
「うーん、推測されにくいようにしてたし……。
変なメールアドレスとパスワードにしてたからわからないや」
しょうがないのでテキトーなアドレスを入れてみる。
・パスワードが違います
・パスワードが違います
・パスワードが違います
・パスワードも違います
・パスワードは違います
ログイン成功。
「おっ、やった」
記憶のどこかにはあったんだろう。
サイトにログインすることができた。
これでメールの内容をチェックできるぞ。
「……ん? なんだこれ?」
入れたサイトは見たこともないデザイン。
人名の書かれたフォルダがずらりと並んでいる。
「これ、俺のフォルダだ」
自分の名前のフォルダも見つけた。
中には【斎藤はじめ.txt】というファイルがある。
開いてみると、これまでの俺の人生が書かれていた。
そして未来も。
「まさかこれ……人間の人生が書かれているのか!?」
読んでみると、どうやら明日俺は死ぬらしい。
車にはねられて、飛んだ先の本屋さんにつっこんで、
エロ本が口に入って窒息死。
「恥ずかしすぎるわ!!」
ということで、内容を書き換えた。
翌日、テキストに書かれていた時刻と場所。
車は書かれていた内容通り突っ込んできた。
「危なっ!!」
そして、俺の書き換えた内容通りすれすれで回避。
ダサすぎる死の運命を乗り越えた。
「これは使える……! 世界を幸せにできる!」
これに味をしめた俺は理不尽すぎるこの世界を
わずかばかり平等にすることを決意した。
その日から俺の毎日は忙しくなった。
「この人は出会いもないまま一生を終えるのか……。
よし、恋人ができるように人生を治そう」
「この人……ずっと病気治らないなんて……。
世界的な名医が偶然訪れるように変更しよう」
「えっ! 有名プレーヤーなのに事故かよ!?
選手生命をまっとうできるように変更しておこう」
基本的に大きな変更は加えないが、
「大きなターニングポイント」を書き換える。
人の人生を覗き見して、自分の手で書き換える作業は楽しかった。
誰にも感謝されず、誰にも気づかれない。
でも、人の幸せにかかわれると思うと嬉しかった。
「この調子でばんばん幸せにしていくぞ!!」
数日後のことだった。
いつものようにログインすると、
一番上に新しいフォルダ『Read me』ができていた。
「なんだこれ? 俺が作ったのか?」
中には同じ名前のテキストファイル。
内容は……。
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これを変更しているお前。
私はネットワーク神だ。
お前が勝手な変更をしているのはわかってる。
お前が人の幸せを作りすぎてるから、
人間界の『総幸せ量』が底を尽きかけている。
お前のせいだ。
許さない。
今からネットワークをたどってそっちに行く。
待っていろ。
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「う、うそだろ……!?」
思わず机から転げ落ちた。
どうすればいい。どうすれば……。
「そうだ! ネットワークの神なら、ネットを切れば!」
ケーブルを引っこ抜こうとすると、力が入らなくなる。
まるで体がそれを拒否しているように。
「な、なんだこれ……どうなって……!?」
原因はわからない。
とにかくネット断絶はできそうもない。
「……待てよ!? 俺が未来を書き換えればいい!」
俺にはファイルを書き換えることができる。
サイトにログイン。パスワードはまだ有効だった。
「よし、ネットワークの神だかなんだか知らないが
俺の人生に関わるんなら、その未来を書き換えちまえばいい!」
【斎藤はじめ.txt】をダブルクリック。
>ネットワークの神により粛清される。享年25歳。
「なっ……」
なんちゅー未来にされてるんだ俺。
きっとあの神が書き換えたに違いない。
すぐに消して未来を再度書き換えて保存……。
『このファイルは神により保護されました。保存できません』
「ちくしょーー!!」
ファイルは保護されて修正できない。
それはつまり、俺の未来が固定されたということ。
そうこうしているうちに、PCのバーに変なアイコンが表示される。
神をダウンロードしています……10%
「ひっ……!」
ネットワークの神が迫っている!
キャンセルボタンも拒否することもできない!
神をダウンロードしています……50%
「くそっ……電源も切れない……ッ!」
神をダウンロードしています……80%
「や、やめろ……許してくれ……!
来るな……来るなよぉ……!」
神をダウンロードしています……99%
「うわああああ!! ごめんなさい! 死にたくないぃぃ!」
神ダウンロード完了……100%
【ウイルスレポート:脅威1件を排除しました。】
その後、ネットワーク神はどこへいたのか不明。
作品名:ネットワークに住まう神! 作家名:かなりえずき