シンクロ式乱れる生活リズム
「あの、ここでなら本当に俺の
不健康な生活リズムを治せるんですか?」
「もちろんです。ではこれをどうぞ」
スタッフから渡されたのは頭に貼る肌色のシール。
「そのシールには別の誰かと感覚を共有できます。シンクロです。
あなたが夜遅くまで飲んでいようと、
翌日はシンクロ先の人の起床時間に合わせて起きます」
「そんなまさか……」
半信半疑だったが、シールを貼ったその日の夜。
夜10時には就寝してしまった。
「な、なんだろう。なぜか布団に入りたくなる。
これがシンクロなのか……スヤァ」
翌日は朝6時には目が覚める。こんなこと初めてだ。
「す、すごい! 本当にシンクロしてる!!」
ある種、恐ろしいのは俺の状況に関わらず
だいたい決まった時間に眠くなり、お腹が減り、起床する。
なかば強制的な生活習慣改善だった。
何度も途中ではがしたくなったが、
シンクロ先の同意がなければシールははがせない。
イヤイヤ強制されていた健康的な生活も、
数日すれば慣れてしまうもので、腹時計に近いものになった。
「先輩、最近すっかり元気になりましたね!」
「え、そう?」
「前は体を引きずる地獄の囚人みたいな感じでしたが
今はすごくエネルギッシュです」
「囚じ……ま、まあ改善できてるならいいよ」
健康的な生活習慣になってからは出かけるようになったし、
ご飯もすごくおいしい。秋の新米とかそういう意味じゃなく。
「あ、そうだ。せっかくだから、シンクロ先にお礼しよう!」
こうして改善できたのも、俺と生活をシンクロしている人のおかげ。
スタッフに聞いて場所を尋ねてみた。
「ここって……病院じゃないか」
シンクロ相手の場所は大学病院だった。
名前を探して病室を訪ねた。
「やぁ……はじめまして……あなたが来ることは……
シンクロしてるから……わかってたよ……」
言葉を失った。
俺のシンクロ相手は生命維持装置につながれた女性だった。
納得はいく。
これまで、機械のように規則正しい生活をシンクロした。
寝たきりだったから、起床・食事・睡眠が毎回同じ時間だったんだ。
「あなたはどうしてシンクロ役になってるんですか?」
「私……こんな体だから……なにもできない……。
でも、何かの役に立てるなら……そう思って……」
病室は光の届かない場所。
窓すらないこの倉庫で彼女は過ごしていた。
「そうだ! このシール、俺の感覚もシンクロしてるんだよな!
だったら、俺が感じることも伝わるはずだ!」
「いいのよ……私のために……」
「いいや、やらせてもらう! 恩返しがしたいんだ!
この病室で体験できないこと、いっぱいシンクロさせるから!」
「うれしい……な……」
その日から俺の休日はさらに活発になった。
彼女が好きそうな店や場所にいって、ひたすら感動する。
旅行に映画に散歩に買い物に……。
俺はとにかく動き回って、彼女に外の世界をシンクロさせた。
スタッフから警告が出たのは、しばらくしてからだった。
「……どういうつもりですか、
シンクロを使って感覚を彼女に送るなんて」
「ど、どうしてそれを!?」
「私も監視用に、あなたともシンクロしてるんです。
もちろん、彼女ともシンクロしています。
あなたの行動なんて、シンクロして筒抜けです」
「でも、彼女は喜んでる!」
「こっちは全然嬉しくないんですよ!!」
スタッフは俺以上の声で言い返した。
「彼女のシンクロ先はあなた以外にもあるんです!
売れっ子シンクロ役なんですよ!
彼女の生活リズムを崩すような真似しないでください!」
「それじゃ、それこそ機械の一部じゃないか」
「文句があるならシンクロ切ってください!」
スタッフはがんとして譲らなかった。
俺は彼女の病室に訪れた。
「どうしたの……すごく悲しい……シンクロしてわかる……」
「君とのシンクロを切れと言われた」
「私のせい……ごめんね……。
もう……私に気を使わなくて……いいから……」
「いや、俺に考えがある」
俺は彼女の同意を得たことで、彼女とのシンクロ切った。
シールは残したまま。
※ ※ ※
「文句があるならシンクロ切ってください!」
私は文句を垂れる客に一喝した。
まったく、自分が恋愛映画の主役だとでも思っているのか。
まだ、私とあの問題客とのシンクロはつながってるし
私と彼女とのシンクロもつながっている。
どちらか一方でも妙な真似すればすぐにわかる。
「よし、そろそろ寝るか」
いつも通り夜10時になって布団に入った。
彼女のシンクロ通り、だんだんとまぶたが重く……
「な、なんだ? 眠いのに……眠くない?!」
まどろみかけた一方で、急に体が完全覚醒。
と思ったら眠くなり……また一気にアドレナリン全開。
「た、助けてくれぇ! 体のリズムがおかしくなる!!」
昼間起きたと思ったら、眠くなり。
お腹が減ったと思ったら、もうお腹いっぱい。
「ま、まさかあの問題客!
わざと生活習慣を彼女と逆にしてるのか!?」
彼女が昼型生活で、問題客は夜型生活。
その生活習慣のせめぎあいで体が半分に引き裂かれそうだ。
なんだこの拷問!?
「もう許してえええええ!!!」
私はすぐに客にシンクロを切らせてもらった。
彼女と客とのシンクロ許可を条件に。
「ありがとうございます!!」
客は嬉しそうに病室へと走っていった。
作品名:シンクロ式乱れる生活リズム 作家名:かなりえずき