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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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強制ホームステイへようこそ!

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家に帰ると、知らない女が部屋にいた。

「うわぁ!? 誰だよ!? ここ俺の家だぞ!?」

「え? あ、そういうこと」

「どういうことだよ!」

「抽選ホームステイって知ってますか?」

「な、なんだそれ……」

女は我が物顔で語り始めた。

「平等な抽選の結果、ホームステイする場所が決まるんです。
 日本人はコミュニケーションが下手ですからね。
 こういった荒療治で少しづつ改善を……」

「え!? それじゃ俺の部屋がホームステイ先に!?」

「まあ、私の部屋でもありますが」

「うるせぇ、俺の部屋だ!
 ホームステイなんて知ったことか!
 さっさと家に帰れよ!」

「知らないんですか? ステイする人間は記憶を書き換えられて
 本当の自分の家のことを知らないんです。
 さも、この家が自分の部屋だと思い込ませるんです」

「はぁ!?」

「ちゃんとホームステイが終われば記憶は自動で戻り、
 本当の自分の家に帰れるんです。
 それじゃよろしくお願いします」

「よろしくお願いしねぇよ!!」

とはいえ、家の記憶を消された女を蹴りだすには
常識的に考えてかわいそうだし、国からなんて言われるか。

仕方なく共同生活がはじまった。
こんなことなら、家のぬいぐるみ片付けておけばよかった。
すごく恥ずかしい。

「あの、どうして便座を上げておくんですか?」
「だってそっちの方が便利だろ!」
「私は下げる派です」
「ここは俺の家だ!!」
「私の家です!!」


「おい! なんで勝手に移動させたんだ!」
「あの位置じゃ邪魔だったので」
「あの位置が一番使いやすいんだよ!」
「そういわれても」
「ここは俺の家だ!!」

――やっぱり共同生活なんで無理だった。

便座の上げ下げで大喧嘩して。
チャンネルで争って、家具の位置でもめる。

今じゃ顔を合わせれば罵倒の言葉しか出てこない。

「もう限界だ!! こんな家いられるか!!」

俺は家を出て、東京から北海道の実家まで戻った。

「ありゃ、どうしたんだべ? まだ年末じゃないべ」

「どうしても家にいるのが耐えられなかったんだよ」

いくらコミュニケーション改善目的とはいえ、
あんなにそりの合わない人間と暮らすなんてムリだ。

このまま奴のホームステイ期間が終わるまで
実家に避難しようかと思ったがそうもいかない。仕事がある。

「はぁ……もうどうすればいいんだよ……」

頭を抱えていると、ふと両親が同じポーズで座っていた。

「ねぇ、二人は共同生活するようになって衝突とかしなかったの?」

「そりゃしたべ」

愛の力で乗り越えたとかだろうか。
でも、あいつと俺は恋人でも婚約者でもない。

「意見ぶつかったときどうしたの?」

「どうした? もしかしてもめてるのか?」
「まぁそんなとこ」

「お前、なにか譲ったり合わせたりしてるか?」

「それってどういうこと?」

「誰かにルールを押し付けても結局はうまくいかんべ。
 自分から譲ったり合わせたりする姿勢を見せれば
 自然とお互いに心地よい場所が見えてくるべ」

両親は目を細めて言った。

思い出してみれば、確かにそうかもしれない。
俺はあいつに自分のルールを押し付けていた。

ホームステイがいる、俺の家に戻るとやっぱり衝突があった。

「靴はそろえてほしいんだけど」

普段は自分の主張を通すところだが、両親の言葉を思い出す。

「うん、わかった。ほかに直してほしいとこある?」

「え? あ、いや……ありがと」

その日から、共同生活は劇的に過ごしやすくなった。
言い争いの絶えなかった日常だったのに、
俺から譲ることでお互いに「合わせる」ことが生まれた。

妥協ではなく着地点を探す。

そういえば、相手の話も聞くようになった気がする。
前まではアラ探しばかりしていたのに。

「これでホームステイも終了か。
 前半はあんなだったけど、後半は楽しかったよ」

「うん、私も。いっぱい学ぶことがあった」

「こちらこそ」

やがて、ホームステイ終了の時間が来た。

「本当にありがとう、私も楽しかった」

「気を付けて帰れよ」


ホームステイ終了。
その瞬間、すべての記憶がもとに戻った。

「……お、お邪魔しました」

俺はホームステイしていた家を出ると、本当の家に戻った。