事前予約済みの未来で
「ねぇ、今年の年末予定ある?」
「年末って……もうそんな先のこと気にしてるの!?」
桜子に言われて驚いた。
まだ10月でハロウィンですら早い時期。
「予定はなにもないけど?」
「私、年末に郵便のバイト手伝うことになっちゃってさぁ……。
ホント最悪ーー。ね、予定ないんだったら手伝って」
「いやいや! あ、あるよ予定! わ、忘れてたなぁーー」
慌ててでっちあげてその場をごまかした。
予定がないからといって、仕事をしたいわけじゃない。
家に帰ると、嘘から出た真実的にするようにネットをあさる。
「なにこれ? 未来事前予約? って安っ!!」
ディズ三ーランドが5000円!?
UJSが3000円!?
めちゃくちゃ安いチケットが格安で売られている!
「なになに? ただし、キャンセルはできません。
そして、チケットは当日限り有効で
チケット購入者だけが対象です……ま、普通か」
事前予約ということで、とにかく格安。
私は年末どころか、埋まっていない休日はすべて事前予約を入れた。
家に大量のチケットが届く。
「よーーし! 年末まで充実のスケジュールよ!」
未来事前予約をやってよかった。
前から行きたかった高級フレンチも、
テレビで紹介された有名店も、人気のスポットもいける。
「ああ、ほんと、事前予約って最高!!」
私の休日はバラ色充実ライフだった。
予約をせずに家で沈んでいた日々がバカみたい。
ある日、事前予約したファッションショーの帰り。
B子から電話がかかってきた。
「もしもし?」
『あ、由紀? 来週の土日どっちか空いてる?
ダブルデートしたいんだけど』
「ごめん、予定あるんだ」
『おけ。それじゃ、次はいつ空いてる?』
「来年なら……」
『はぁ!? ら、来年!? ……まぁ、わかった。うん』
電話が切れる。
最後の声は予定を入れれなくて残念だというよりも、
自分の友達として軽んじられているという残念な声。
ただ、予約を入れてしまっているだけで
私は別に友達を後回しにしているつもりは……。
「……ううん、やっぱり違うよね」
結局は事前予約したのをムダにしたくないだけ。
それって自分だけの都合。
私のために時間を割いてくれようとしていた友達を
私の個人的な都合で雑にするなんて……違う気がする。
「もしもし? さっきはごめんね。予定空いてるよ」
私は折り返してすぐに電話した。
数日後、ダブルデートの日がやってきた。
事前予約ではF1レースを見に行くチケットを買っていた。
でも、もちろんそんなのは無視だ。
B子と、待ち合わせの動物園で待っていると相手がやって来た。
「なぁ、今日は動物園じゃなくてF1見に行かね?」
「突然!?」
「いや、なんか無性に行きたくて。もともと興味ないんだけど。
いいだろ? な? な!? な!!!?」
ものすごい圧に押し切られる形でF1観戦に行った。
車が過ぎる「ビュゥゥン!!」の爆音で話し声も聞こえない。
「な、なにこれ……」
ダブルデートは全然楽しくなかった。
帰りにB子と肩を落としていた。
「なんで急にF1だったんだろうね……」
「こんなことならチケット持ってくればよかった……」
「チケット? カバンに挟まってるそれのこと?」
B子に指摘されて気付いた。
入れた覚えのない事前予約チケットがカバンに入っていた。
しかも後ろには『使用済み』のハンコまでついてる。
「な、なんで!? こんなの入れた覚えないのに……!」
――キャンセルはできません
チケットにつづられている事務的な注意書き。
これってまさか……そういうことなの。
「それじゃ私はこれから先すべてチケットの予約通りに……!?」
とたんに怖くなった。
体調が悪かろうが、天気がドシャ降りだろうが
私に予約のキャンセルはできない。必ず引きずり出される。
もはや娯楽のレベルじゃない。
「由紀、大丈夫? 顔色悪いよ……?」
「私……これから先、予定びっしり……予約しちゃった」
「ちょっとチケット見せて」
B子にチケットを見せる。
B子に分配することはできない。
「ちょっと由紀、これ……」
年末に予約された1枚のチケット。
滝の観光ツアーなどと書かれている。
私も安いものからよく見ないで予約したから覚えてない。
「ここ……有名な自殺スポットだよ!?
毎年集団自殺するって噂で……なんで予約したの!?」
「え!? そんなの知らないよ!?」
チケットの紹介ではごく普通の観光ツアーとある。
でも、よく考えて自殺スポットに観光する人がいるだろうか。
「自殺ツアーなんて、そのまま書くわけないじゃん!!」
B子の言葉に私は頭が真っ白になった。
予約のキャンセルはできない。
それはつまり……。
死のツアーの日が1週間後に迫った。
チケットを破り捨てれば効果はなくなるかも。
別のチケットで試してみたが無駄だった。
「どうすればいいのよ……」
死の観光ツアーに参加して自殺だけ拒否、もできないだろう。
私の命は残り1週間。
なんとかキャンセル方法がないかと、
未来事前予約サイトへアクセスしてみた。
「なにか……なにかあるはず……」
けれど、無情な現実を突きつけられた。
チケットの払い戻しも不可能。逃げ道はない。
諦めた私はせめて最後にお金を全部使い切ろうと、
オークションのサイトを開いた。
「あっ……!」
ここに答えがあった。
「そうだ! 転売すればいい!
チケットの効果は購入者に適用されるから、解放される!」
私はすぐに死のチケットをオークションに出した。
すぐに買い取られるように無料で。
タダだから拾ったらもう購入者だ。
案の定、ものの数秒でチケットは売れた。
売れたというか拾ったというか……。
「あとはこれを……当日に配送するだけね」
もちろん、死の運命を誰かに肩代わりさせる気はない。
わざと発送を遅らせて当日中に購入者に届かなくすればいい。
――チケットは当日限り有効
当日に購入者へチケットが渡らなければ、
自動的にチケットは紙くずとなり、効果も消え失せる。
死の運命から私も、購入者も免れる。
そして、年末。
タダで手に入れた購入者へと発送した。
年末のクソ忙しい時期なので、届くには時間がかかる。
絶対に購入者の手元には届かない。
「ああ、終わったわ……よかった……」
そのあと、購入者からは
手元に届かなかったと苦情を受けたりしたがかまわない。
予定のない未来におびえて予約するよりも、
なんだかもっと大事なことが分かったような気がする。
「今度は、もっと私の友達を大事にしよう」
私は桜子に電話をかけた。
たぶん、ちょうど年末のバイトも終わっているころだろう。
「もしもし? 今度さ、二人でどこか行かない?」
『え、マジ!? ナイスタイミングだよ!』
「ナイスタイミング?」
『実はね、郵便のバイトしててチケット拾ったの!
でもこれどう考えても有効期限切れるから貰っちゃった!』
「桜子……それ……」
私は不思議な欲望がわいた。
「年末って……もうそんな先のこと気にしてるの!?」
桜子に言われて驚いた。
まだ10月でハロウィンですら早い時期。
「予定はなにもないけど?」
「私、年末に郵便のバイト手伝うことになっちゃってさぁ……。
ホント最悪ーー。ね、予定ないんだったら手伝って」
「いやいや! あ、あるよ予定! わ、忘れてたなぁーー」
慌ててでっちあげてその場をごまかした。
予定がないからといって、仕事をしたいわけじゃない。
家に帰ると、嘘から出た真実的にするようにネットをあさる。
「なにこれ? 未来事前予約? って安っ!!」
ディズ三ーランドが5000円!?
UJSが3000円!?
めちゃくちゃ安いチケットが格安で売られている!
「なになに? ただし、キャンセルはできません。
そして、チケットは当日限り有効で
チケット購入者だけが対象です……ま、普通か」
事前予約ということで、とにかく格安。
私は年末どころか、埋まっていない休日はすべて事前予約を入れた。
家に大量のチケットが届く。
「よーーし! 年末まで充実のスケジュールよ!」
未来事前予約をやってよかった。
前から行きたかった高級フレンチも、
テレビで紹介された有名店も、人気のスポットもいける。
「ああ、ほんと、事前予約って最高!!」
私の休日はバラ色充実ライフだった。
予約をせずに家で沈んでいた日々がバカみたい。
ある日、事前予約したファッションショーの帰り。
B子から電話がかかってきた。
「もしもし?」
『あ、由紀? 来週の土日どっちか空いてる?
ダブルデートしたいんだけど』
「ごめん、予定あるんだ」
『おけ。それじゃ、次はいつ空いてる?』
「来年なら……」
『はぁ!? ら、来年!? ……まぁ、わかった。うん』
電話が切れる。
最後の声は予定を入れれなくて残念だというよりも、
自分の友達として軽んじられているという残念な声。
ただ、予約を入れてしまっているだけで
私は別に友達を後回しにしているつもりは……。
「……ううん、やっぱり違うよね」
結局は事前予約したのをムダにしたくないだけ。
それって自分だけの都合。
私のために時間を割いてくれようとしていた友達を
私の個人的な都合で雑にするなんて……違う気がする。
「もしもし? さっきはごめんね。予定空いてるよ」
私は折り返してすぐに電話した。
数日後、ダブルデートの日がやってきた。
事前予約ではF1レースを見に行くチケットを買っていた。
でも、もちろんそんなのは無視だ。
B子と、待ち合わせの動物園で待っていると相手がやって来た。
「なぁ、今日は動物園じゃなくてF1見に行かね?」
「突然!?」
「いや、なんか無性に行きたくて。もともと興味ないんだけど。
いいだろ? な? な!? な!!!?」
ものすごい圧に押し切られる形でF1観戦に行った。
車が過ぎる「ビュゥゥン!!」の爆音で話し声も聞こえない。
「な、なにこれ……」
ダブルデートは全然楽しくなかった。
帰りにB子と肩を落としていた。
「なんで急にF1だったんだろうね……」
「こんなことならチケット持ってくればよかった……」
「チケット? カバンに挟まってるそれのこと?」
B子に指摘されて気付いた。
入れた覚えのない事前予約チケットがカバンに入っていた。
しかも後ろには『使用済み』のハンコまでついてる。
「な、なんで!? こんなの入れた覚えないのに……!」
――キャンセルはできません
チケットにつづられている事務的な注意書き。
これってまさか……そういうことなの。
「それじゃ私はこれから先すべてチケットの予約通りに……!?」
とたんに怖くなった。
体調が悪かろうが、天気がドシャ降りだろうが
私に予約のキャンセルはできない。必ず引きずり出される。
もはや娯楽のレベルじゃない。
「由紀、大丈夫? 顔色悪いよ……?」
「私……これから先、予定びっしり……予約しちゃった」
「ちょっとチケット見せて」
B子にチケットを見せる。
B子に分配することはできない。
「ちょっと由紀、これ……」
年末に予約された1枚のチケット。
滝の観光ツアーなどと書かれている。
私も安いものからよく見ないで予約したから覚えてない。
「ここ……有名な自殺スポットだよ!?
毎年集団自殺するって噂で……なんで予約したの!?」
「え!? そんなの知らないよ!?」
チケットの紹介ではごく普通の観光ツアーとある。
でも、よく考えて自殺スポットに観光する人がいるだろうか。
「自殺ツアーなんて、そのまま書くわけないじゃん!!」
B子の言葉に私は頭が真っ白になった。
予約のキャンセルはできない。
それはつまり……。
死のツアーの日が1週間後に迫った。
チケットを破り捨てれば効果はなくなるかも。
別のチケットで試してみたが無駄だった。
「どうすればいいのよ……」
死の観光ツアーに参加して自殺だけ拒否、もできないだろう。
私の命は残り1週間。
なんとかキャンセル方法がないかと、
未来事前予約サイトへアクセスしてみた。
「なにか……なにかあるはず……」
けれど、無情な現実を突きつけられた。
チケットの払い戻しも不可能。逃げ道はない。
諦めた私はせめて最後にお金を全部使い切ろうと、
オークションのサイトを開いた。
「あっ……!」
ここに答えがあった。
「そうだ! 転売すればいい!
チケットの効果は購入者に適用されるから、解放される!」
私はすぐに死のチケットをオークションに出した。
すぐに買い取られるように無料で。
タダだから拾ったらもう購入者だ。
案の定、ものの数秒でチケットは売れた。
売れたというか拾ったというか……。
「あとはこれを……当日に配送するだけね」
もちろん、死の運命を誰かに肩代わりさせる気はない。
わざと発送を遅らせて当日中に購入者に届かなくすればいい。
――チケットは当日限り有効
当日に購入者へチケットが渡らなければ、
自動的にチケットは紙くずとなり、効果も消え失せる。
死の運命から私も、購入者も免れる。
そして、年末。
タダで手に入れた購入者へと発送した。
年末のクソ忙しい時期なので、届くには時間がかかる。
絶対に購入者の手元には届かない。
「ああ、終わったわ……よかった……」
そのあと、購入者からは
手元に届かなかったと苦情を受けたりしたがかまわない。
予定のない未来におびえて予約するよりも、
なんだかもっと大事なことが分かったような気がする。
「今度は、もっと私の友達を大事にしよう」
私は桜子に電話をかけた。
たぶん、ちょうど年末のバイトも終わっているころだろう。
「もしもし? 今度さ、二人でどこか行かない?」
『え、マジ!? ナイスタイミングだよ!』
「ナイスタイミング?」
『実はね、郵便のバイトしててチケット拾ったの!
でもこれどう考えても有効期限切れるから貰っちゃった!』
「桜子……それ……」
私は不思議な欲望がわいた。
作品名:事前予約済みの未来で 作家名:かなりえずき