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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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それから(それからの続きの続き)

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それから(9)   女遊びと 誰かの恋



賢治が連れて来た4人の力のお陰で、俺達は、〇〇の依頼通り、指定された日から、新しい現場で仕事に就く事が出来た。
社長も、喜んでいる。
近隣の同業さんなら、かなり特定された現場環境から推し測り、俺の本名などが知れる恐れがあるので、作業内容などは、詳しく書かないで置く。まあ、知れたところで、大して影響などないけれど、一応、守るべき愛する家族が居るので‥

図面を渡され、山裾の整地から始めた。
「何か、ゾクゾクしますね、兄貴・・。わし、まだちょっとしか、この仕事をしてませんが、これこそ男の仕事じゃのうと、思います。」
と、バックホーを操作する俺を見て、休憩時間に案外前向き思考の言葉を吐く賢治に、
「仕事に、男も女も有るもんか。ただ、与えられた仕事を忠実に遣るだけで好いんだ。仕事に惚れ込むのは、好い事だが、仕事命などと決して考えるなよ。」
と、俺は、敢えて言った。
「どうしてですか? 兄貴を見とったら(見ていると)、仕事命にしか見えませんけど・・」
「仕事以上に、もっと大切なものが有るという事だ。」
「じゃけど、仕事をせんかったら生活出来んし、もっと大切な事も出来んでしょ?」
「それは、そうだな。お前、案外、好い事を言うなぁ・・」
「エへへ・・、そうですか・・」
「うん、頭の良い奴だと思っていたが、俺が、思っている以上に、お前、頭が良いかもな。」
「・・わし、爺さんが死んでから、人に褒められたんは、初めてです。」
「そう? 貧乏人から、なけなしの金をふんだくっても、上の者から褒められた事は、無いのか?」
「はい、俺が、集めた金を渡しても、『おう・・』と言うて、金を受け取るだけでした。」
「そうか・・」
「はい。」
「まあ、また話そう。兎に角、今は、何も考えず、仕事に集中しろ。・・・あっ、それから、お前が、ユンボの免許を取りに行ける様に、社長に頼んでおいたから・・」
「えっ? ほんまですか? わしも、あれに乗れるんですか?」
「ああ、乗れる。但し、最初は、小型だけだ。その後、もう一度、講習(試験)を受けて、受かったら大型にも乗れるから。」
「はい、ありがとうございます。頑張ります。」

こんな話を続けながら、俺と賢治は、徐々に親しさを増して行った。

そして、或る日の休憩中、
「わし、アフターファイブに遣る事が、見付かりました。」
と、賢治が言う。
「ああ、それは、好かったな。」
「はい・・・、へへへ・・」
「・・?」
「聞きたいですか、兄貴?」
「何を?」
「いや、わしが見付けた遣りたい事・・」
「別に・・、俺には、関係ない。」
「・・そうですかぁ? ・・・」
「言いたきゃ、言え。」
「へへ・・、やっぱり聞きたいんでしょ?」
「・・勿体ぶらずに、早く言え。」
「あのですね・・、女・・ 女ですよ。」
「・・?」
「わし、女が好きなんを、ころっと忘れてました。」
「そうか・・」
「はい、もう、思い出してから、毎日、女と会うて・・ へへ・・」
「何を考えているんだ・・」
「あ、兄貴も一緒に行きますか? わし、金を払いますから・・」
「・・?」
「あ、すんません・・。兄貴のその弁当を見たら、あんまり給料を貰うてないんが、すぐ分かりますから・・ それ、男の作ったものじゃぁないですから・・。かというて、兄貴の周りに女の影は無いし・・」
「放っとけよ・・ だけど、これ(弁当)を見て、どうして俺が、貧乏だと分かるんだ?」
「実は、わし、聞いたんですよ、先輩のDさんから・・ 兄貴は、給料を何時も半分ほどしか貰うてないいうて・・。それで、毎日、容子さん(娘さん)が、弁当を作ってくれとるんじゃと・・。
給料が、半分じゃ、何も出来んでしょ?」
「まあな・・ だが、そんな事、大きな声で言うんじゃない。大体、俺は、フィリピンで、貧乏には慣れている。この現場の仕事が終わる頃には、給料もまともに貰えるさ。」
「容子さん、ちょっと年増じゃけど、ええ女ですね。へへ・・」
「・・お前なぁ、何を考えてるんだ・・」
「いえ、別に・・ 容子さん、兄貴の事、好きでしょうがないみたいですよ。わしが、兄貴の話をしたら、もう嬉しそうで・・ へへへ・・」
「ぶっ殺すぞ、この野郎!」
「うわっ・・すみません・・」
「二度とそんな言い方で、彼女の事を言うな!」
「はい!」
「・・・そうだ、俺も一緒に行くよ・・」
「えっ? そうですか? やっぱり、好きなんでしょ、女が?」
「それは、俺も木の股から生まれた訳じゃないから・・」
「ですよね・・ あ、容子さんには、言いませんから・・」
「いや、話しても好い。」
「そんな、可哀そうですよ。」
「好きにしろ・・ ところで、お前の奢りだな?」
「はい、任せて下さい。兄貴には、びた一文出させませんから。」

俺達は、その夜、繁華街へ繰り出した。
「兄貴、此処ですよ。」
「そうか・・、お前、一人で入れ。帰る時に、電話しろよ。俺は、ちょいと別の用事があるから・・」
「此処まで来て、遊ばないんですか?」
「ああ、最初からその気だ。」
俺は、賢治から千円だけ貰って、ラーメン屋に直行。
その後、裏通りなどをブラブラして時間を潰した。

俺だって聖人君子ではない。
女性との経験も、幾らかは、有った。
だけど、何時、何処で女性達との交わりを持っても、ある種の淋しさ・哀しさが残るだけで、楽しかったなどと、感じた事は無い。
何故なのかは、分からない。
だが、その淋しさ・もの悲しさの所為で、俺は、所謂、女性と遊ぶ機会を徐々に遠ざける様になった。

俺達は、1週間ほど、夜の街に出続けて、最初の日と同じ行動を繰り返した。
賢治の出した金額は、千円×1週間分、それに、帰りのタクシー代。
そして、二人で街に行かなくなってからも、俺達は、二人揃って会社を後にした。

そんな日の中、俺が、家で寝転がって音楽を聴いていると、容子さんから電話が掛かってきた。
「あ、今日は、うちに居るんじゃね・・」
「はい・・、ちょうど音楽を聴いてる処で・・」
「そうなん? ちょっと出て来ん・・?」
「えっ?」
「会社で、どうしても遣る事が有って、今まで掛かったんよ。もう帰って食事を作るんもだるいし、何処かで食べて帰ろうと思うてね。・・一人よりも、連れが有る方が、美味しいじゃろう?
・・付き合うてくれん・・?」
「・・ああ、今、何処ですか?」
「さんばんくんの家の近く・・・」
「そうなんですか・・、5分ほどで仕度します。」
「うん・・」

彼女は、食事を・・と言いながらも、俺を居酒屋に連れて行った。
「あんた、この頃、賢治君とお盛んなみたいじゃけん、此処の方が、ええじゃろ? わたしは、(酒を)飲まんけん、帰りの事は、心配せんでもええよ。」
「はい・・」
俺達は、会社の話とかしながら、時間を掛けて食事を終えた。
店を出て、車に乗る。
「ちょっと寄る処が有るんじゃけど、付き合うてくれる?」
と、彼女。
「ああ、好いですよ。」
と、車が、走り始める。
そして、彼女の運転する車は、自転車しか持たない俺など、御免被りたい様な坂道を登る。
「凄い道ですね。」
「うん・・」
「・・・」
「・・」