これまでご利用ありがとうございました
融資できなくなった人に伝えるのが仕事。
「では、融資を打ち切らせてもらいます」
「……うぅぅぅ……わかりました……」
融資の打ち切りなんて聞けば泣いてすがるものだが、
俺のたぐいまれな交渉術でもめることは少ない。
コツはたった1つ。
段階的に行うこと。
「いきなり、全部融資ダメでーーす、じゃなくて
小さな部分を少しづつ削っていくのさ。
そうすれば最後には、ぜーーんぶきれいに片付く」
「なるほど、さすが先輩っす!」
立ち食いそばで後輩に指導をしてやった。
でも、そんな勉強は店を出たとたんに吹っ飛んだ。
『地球のサービス終了まで 残り30日』
空には雲で作られた文字が浮かんでいた。
「先輩……あれ……」
「いたずらでできる範疇じゃないだろ……」
この出来事はすぐさまニュースになった。
かつては恐怖の大王が下りてくるなんて予言もあったが、
今度は人間ではなく、地球発信だから信憑性もあがる。
『地球のサービス終了まで 残り29日
これまで地球を楽しんでいただきありがとうございました』
しまいには、丁寧な断り文まで出てくる始末。
世界はあっという間にパニックのどん底に叩き落とされた。
「もう終わりよ! なにもかも!!」
「きっと地球が爆発してしまうんだ!!」
「早く!! 早くシェルターを!!」
恐怖にかられた人たちは、仕事をすべて投げ出して
シェルターづくりと宇宙への避難先探しへやっきになる。
さらには、
「きっと環境を悪化させたから地球様がお怒りになったのよ!」
などと、
地球=神説まで広まり始めた危ない団体もできていた。
『地球のサービス終了まで 残り10日』
空には容赦のない数字が出ている。
俺はというと、別にこれまでと何も変わらない。
テレビではシェルターに謎の空洞ができる欠陥をなじったり、
一番安全なシェルターはどこだとかいろいろ論争しているが
地球が終わるんだから意味ない気がする。
「ま、自分が死ぬときがわかるってのも幸せか」
エッチな画像を保存しまくったハードディスクを消し、
心残りがないように行きたい場所に行って、
食べたいものを食べたいだけ食べた。もう人生満腹だ。
『地球のサービス終了まで 残り1日』
「ついに明日か……」
シェルター勢はすでに避難し終わっている。
街には俺のような諦め勢しか残っていない。
静かなもんだ。
空の雲は「~日」表示から、秒数のカウントへと切り替わる。
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
『地球はサービスを終了しました。
みなさま、長年のご愛顧感謝いたします』
「……あれ?」
地球は終了した。
でも、爆発するとか酸素なくなるとか恐怖の大王などはいない。
なにも変わっていない。
すると、全国ネットで放送がなされた。
テレビにはかつて地球=神説を唱えていた人だった。
『みなさん! 私たちは地球環境保護団体です!
地球環境をなんとか治そうとしていたところ、
なんと! 地球環境を作ることに成功しました!』
『地球サービス終了にともなって、
植物の成長や風がなくなりましたが、
それは我が団体でまかなっています! もう大丈夫!』
「おおお!!!」
まさかまさかのSF展開。
こんな形で命が救われると思わなかった。
恐るべき科学の力。
地球サービス終了しても、環境をこっちで作ればいい。
「いやぁ、よかったよかった。
地球のサービス終了なんて、実は小さな出来事だったんだ」
ふと、ガラスに映った自分に目が入る。
俺の頭上に文字が浮いていた。
『人間サービス終了まで 残り30日』
作品名:これまでご利用ありがとうございました 作家名:かなりえずき