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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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それだけはCMに入れちゃらめぇぇぇ!!

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『気になるクイズの答えは……CMのあと!!』

「またCMか」

冷蔵庫からアイスを取り出して戻ってくると
まだCMが続いていた。
CMが終わると、俳優が映画の宣伝をする。

『えーーと、10月8日公開される
 【歴史に沈んだ影の英雄】ぜひ劇場でご覧ください!』

『では、いったんCMです』

またCMが入った。
テレビのリモコンから「早送り」が撤去されてすごく不便になった。
CM飛ばせない。

なんでも、CM協会から営業妨害との苦情が来たらしい。
苦情に対してすごく敏感だ。

「ふぅ、やっと見終わった」

2時間の番組でCMが1時間45分ってどうなんだ。

そんな風に考えていた3年前はまだよかった。
今じゃとんでもないことになっている。

空にはひっきりなしにホログラム広告が表示されて
スマホを起動するたびに毎回CMが流される。
テレビでは常に画面下にワイプ表示でCMが出る。

「ああ、もう! CM多すぎだ!!」

道路も、壁も、空も何もかも宣伝でみっちり。
頭に処理しきれない情報量をぶちこまれたようだ。

「はぁ……はぁ……怒ったらおなか減ったな」

ご飯を食べようと箸を持ち上げた。
ご飯粒にふと目を落とすと、小さな文字が書かれている。

『サトウ電機』『パラソニク』『アジのもと』

「ごはん粒にも書いてるのかよ!?」

ご飯つぶ1つ1つにスポンサーの名前がびっしり。
食べても害はないけど、さすがに食欲は失せた。

調べてみると、今年の新米からコメも宣伝媒体になったらしい。

「もうめちゃくちゃだ……」

窓の外には、背中にホログラム広告を貼りつけた人が歩く。
ぜんぜん興味ない化粧品とか、車の情報とかも
宣伝のかいあって(?)しっかり頭に刷り込まれている。

「ダメだダメだ!! こんな世界まちがってる!!」

この宣伝しすぎる世界を変えるしかない。
そこで、持ち前のパソコンスキルでアプリを開発。

「できた! 広告ブロッカー!」

広告ブロッカーを使うと、
広告が表示されていても使っている本人には見えなくなる。

「これでもう目障りな広告ともおさらばだ!」

それこそ、特に宣伝していなかったのにアプリは大ヒット。
俺と同じ気持ちを感じていた人が多かったんだと安心した。



数日後、訴えられるまでは。


「被告はわが社がお金をかけて作った広告を
 あろうことか消費者に届けられることを妨害したのです!
 これは立派な犯罪行為! 営業妨害です!!」

「いや、でもみんな広告は嫌がってるわけですし……」

「これはビジネスなんです! 子供の遊びじゃない!
 嫌がってるからやめるでは、商売成り立たないんですよ!」

口下手なエンジニアと、口が達者な企業の社長。
裁判の結果は火を見るよりも明らかだった。


「静粛に! 判決は、アプリの即時中止を言い渡します!」


かくして、俺のアプリは回収され再び町には宣伝が溢れた。
裁判終了後に社長は俺の方へやってきた。

「やぁ、お疲れさま。いやぁ、僕が勝ってごめんね、これも商売だから」

「……はあ」

「しかし、君の能力は買ってるんだよ?
 短期間で広告をブロックするアプリを開発するなんてすごいよ」

「……何が言いたいんですか?」

「わが社で君の力を活かさないか?
 君の力があれば、他社の広告をわが社の広告に
 差し替えることもできるだろ?」

今や広告は領地を奪い合う生存競争。
俺の力でほかの広告を上書きできれば、これ以上のことはない。

「報酬ははずむよ。いくら欲しい?」

「お金はいりません。
 その代わり、CMすべてにテロップを入れさせてください」

「は? テロップ? まあいいけど。お金はいらないの?」

「要りません」

変わったやつだなという表情で社長は去っていった。
俺は広告を差し替えるアプリを開発した。

「いやぁ、素晴らしいよ! これで広告が差し変わるんだね!」

「はい。すべての広告がわが社の広告になります」

「これを使えば、わが社の製品が宣伝されまくって大ヒットだ!」

社長は上機嫌でアプリを起動した。

その瞬間に、空などに表示されていた
すべての広告がわが社の製品に差し変わった。

「すごい!! すごいぞ!! 本当だ!! 君は素晴らしい!!」

大喜びの社長は気付かなかった。
すべてのCMに共通のテロップが入っていることに。


※ご家族の健康を損ねる危険があります。


数分後、PTAと放送協会から鳴りやまぬクレームが入り
すべてのCMはまとめて宣伝禁止となった。

「ああ、キレイだなぁ」

久しぶりに広告がなくなった青空を仰いだ。