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かなりえずき
かなりえずき
novelistID. 56608
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私は異世界から帰って来たんだってば!

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貧乏泥棒は悩んでいた。
闇金から借りた金の返済が滞り、
自分が追われていることを知ったからだ。

「やべぇよやべぇよ、見つかったらボコられるよ。
 下手すれば心臓ひと突きだよ。
 今から右胸に何かプレート入れておこうか……」

それよりも、さっさと金を返済すれば
この地獄から抜け出せることに気付くと
貧乏泥棒は堅実で臆病な作戦を思いついた。

「銀行とか狙うのはハードル高いから、
 学生とか若者から少額を集めて行って大金を作ろう!!」

※ ※ ※

場所は変わって、女子高に帰国子女がやってきた。
それも異世界からの帰国子女。

「異世界から戻ってきたの? すごーーい!」
「ねぇ、異世界ってどうだったの?」
「聞かせてよ。異世界の話!」

「そ、それがね……」

女は何も言えなかった。
というのも記憶が一切ないからだ。

「ごめんね、異世界出るときに
 記憶はどこか別の場所に保管されるみたいで
 私なにも覚えてないの」

「えーーつまんなーーい」
「本当は異世界ってないんじゃない?」
「嘘つきじゃん。サイテー」

「本当に行ったんだって!」

女子の世界は厳しい。
自分の期待に沿えないとなると、あっという間に掌返し。

「な、なによ……私だって好きで記憶失ったわけじゃない。
 本当はドヤ顔でいっぱい自慢したかったんだから!!」

と、女は腹立ちまぎれに足元の石を蹴り上げた。
思いのほかクリーンヒットした石はめぐりめぐって、
沿道に止まっていた車のフロントガラスに直撃。

ピシィッ。

蜘蛛の巣のようなヒビが入った。

「やばっ!!」

女は慌ててその場を去った。
最近、このあたりは闇金が取り立てをやっていると聞く。

目をつけられたら何をされるかわからない。
黒塗りの車なんて"いかにも"じゃない。

家に逃げ帰ると、ベッドに体を投げ出した。

「あーーあ、異世界のこと自慢したかったなぁ」

記憶さえ戻っていれば、今頃私はみんなの注目の的。
そもそも異世界行きを決めたのも地味な自分を、
異世界帰国子女という肩書で変えたかったのに。

「これじゃ何も変わらな……ん?」

ふと目に入ったのは、昔行った旅行のペナント。
お土産にと買ったものの使い道に困ってとりあえず飾って……。

「そうだよ! お土産あるかもしれない!!」

お土産好きな女は旅行に行くたびにお土産を忘れない。
異世界に行くのもある種の旅行。
お土産がどこかにあるかもしれない。

「あった!!」

見つけたのは、銀色の銀のプレート。
異世界らしい文字が刻まれ、中央に溝が彫られている。
板チョコだったら割って食べれそう。

「よし! 明日の学校にこれを持って行こう! これ見よがしに!」

女は誰かから「それなに?」と聞かれやすいよう
カバンの外から見える場所にプレートをさした。

そのかばんを肩にかけて、翌日学校へ向かった。


※ ※ ※

通学路に立つ泥棒は自分の考えたらずを後悔していた。

「やれやれ、失敗したな。
 登校中で油断している学生を狙えばいいと思ったが、
 声をかけるなんてそれこそ目立つじゃないか」

どういうわけか、最近は闇金の取り立てが来ない。
つい最近までは地獄の底まで追ってきていたのに。

闇金が来なくなったので、こうして朝から外に出られているが。

「声かけられねぇなぁ……いっそ強盗の方が楽だったかも」

貧乏泥棒は自分の勇気のなさを反省しつつ、
車に戻ってエンジンをかけた。そのとき。

「んん!? あの銀色プレートはなんだ!?」

女子生徒のカバンに見たこともない銀色プレート。
あれは金目のものに違いない。
手に入れれば借金返済どころかお釣りが来そうだ。
闇金に追われる日常からも解放される。

「よし!! 作戦決行だ!!」

泥棒は車の窓を開けて腕を出す。
片手でハンドルを操作しながらアクセルを踏んだ。
銀色プレートの女めがけて車を走らせる。

「きゃあ!?」

すれ違いざまに銀色プレートを奪取。

「やったやったぞ!! すっごく高そうだ!!」

泥棒はひったくりに成功した銀色プレートを見て大喜び。
よく見ると、プレートの裏には鏡文字が書いてあった。

「なんだこれ?」

異世界人が彫っただろう文字が気になり車のミラーで反転させる。
『あなたの記憶をここに。必要な時に割ってください』

「……なんだぁ? まぁいいか、どうせ金に換えるやつだし」

泥棒はミラーからフロントガラスに目を映した。
でも、もう遅い。
すでに目の前に沿道に止まっている車にぶつかる0.1秒前。


ガシャァン!!


「うおっ!?」

慌ててブレーキを踏んだので事故は大したことがなかった。
泥棒は車を出て、追突した車へと向かった。

「いやぁ、すみません。ちょっとよそ見をしていまして……」

「……そのようじゃのぅ」

運転席にいた男を見て泥棒は凍り付いた。
あれほど恐れていた闇金の男がそこにいた。

「車のフロントガラスはヒビで取り立てできんよぅなるし、
 追突されてむち打ちになるし、なにしてくれとんじゃこらぁ」

「ふ、フロントガラスの件は関係ないよーな……」

「じゃあかしい!! まとめておどれが責任とらんかぃ!!」

闇金の拳が泥棒へと伸びた。
泥棒はとっさに銀のプレートを盾にしてしまった。


※ ※ ※


一方、朝から銀プレートをひったくられた女は絶望していた。

「なんてついてないの……。
 あのお土産がないと、異世界に行ったこと証明できない……」

とはいえ、車はすごい勢いで去ってしまった。
今更追うこともできない。

すると、他クラスで事情を知らない子がやってきた。

「あなたが異世界帰国子女だよね!?
 どんな世界だった!? 教えて教えて!」

「いや、あのね……」

記憶のくだりを説明しようとしたとき。

「異世界はすべてお菓子でできていたの。
 人も家も道もなにもかも。毎日お菓子三昧で最高に楽しかった」

「本当!? それはすごいね!
 異世界の話、いっぱい聞かせてよ! 友達も呼ぶから!!」

女の異世界時代の記憶が一気に戻った。
それはちょうど、別の場所で泥棒が闇金にボコボコにされた時間。


『あなたの記憶をここに。必要な時に割ってください』


そう書かれた銀プレートは、
闇金のこぶしの盾となってパッカリ割られていた。